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失敗した会社員(2)

「場所を変えたところで話すことは何もないですよ。仕事で少し失敗をして、それで落ち込んでいた。それだけです。」


男はコーヒーを口にしてから話し出す。その言葉にはなんの裏表もなく、ただありのままに事実を語っているように感じた。


「…本当にそれだけでしょうか?」


探偵にはどうにもそれだけに思えなかった。ただ、それに対してはっきりとした根拠があるわけではない。勘という曖昧なものに頼るのは好きじゃない。だが『依頼人』が目の前にいる以上、自分の好みがどうだと言ってる場合でもない。


「うちの助手も言ってました。今にも死にそうな顔をしている、って。どうにもそれだけには思えません。」


「そうは言われても、本当にそれだけなんです。もういいでしょう?そろそろ休憩の時間が終わるので帰らせていただきますよ。」


まるでうざったいとでもいうような声で『依頼人』が席を立った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『依頼人』が事務所を去ったあと、探偵はいつもより深く考え込んだ。職業的にはいつかの『依頼人』に似ている、残念上司の下で働いていた『依頼人』、経営者だった『依頼人』。だが今回はどの『依頼人』とも違う。自分自身が何に対して怯えているかを理解していない、おそらくそうだろう。探偵は唸り声をあげた。


「結局『依頼人』さんのこと、よくわからなかったですね。それのせいか、お昼ご飯も食べ損ねちゃいましたし…。」


助手の能天気な声が探偵の耳へと届く。


「私から見て、『依頼人』さんは怖がりな方だと感じましたよ。ほら、公園で声をかけた時にこっちのことをすごく警戒してましたし。」


『依頼人』が怖がりであること、それは探偵自身も感じていたことだ。だが、それと仕事で失敗をしたことには関係性があるように思えない。


「例えば、ですけど。」


考え込む探偵に構わず、助手が話し始める。


「『依頼人』さんは何かに怖がって、その結果、仕事で失敗をした。または、仕事で失敗をしてその結果、何かを怖がることになった。そんな感じなんじゃないですか?」


それぐらいは探偵(じぶん)だってわかっている。だがその怖がっている何か、それがわからないと意味がないだろう。考え込む探偵の頭を何かがよぎった。


「もし…失敗するということ自体を怖がっているとしたら…?」

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