case31 姑との関係が悪い嫁(1)
今まで様々な自殺する人間に関わってきたが、自殺の理由は人によって様々。溜まってきたものが溢れて自殺をしようとする形、衝動的に自殺に至る形。それを列記していったのならば相当な数になるだろう。
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「おはようございます。」
如月は今まさに1日を始めようとしている、探偵はというと既に事務椅子に座り手帳を見ては紙に何かを書いていた。そして挨拶に対して
「おう。」
と短く返す。いくら助手に対してとはいえ挨拶を返さないのはどうかと思う。だがそれほど集中している、と受け取った如月はあまり物音を立てずに事務所の中へと入った。だがパソコンの画面が点灯したと同時にそれまで忙しなく動いていた手が止まった。
「如月、昨日の依頼、まだ途中なんだが纏めてくれるだろうか?」
差し出された紙は先ほどまで探偵がペンを走らせていたものだった。依頼を助手に任せてまでパソコンを見なければいけない理由、それは『依頼人』以外にはないだろう。
「今回はどんな方ですか?」
資料をまとめつつパソコンに視線を移すという、あまり真似のできない芸当をこなしつつ探偵に質問を投げる。
「そうだな。書き込みを見る限り姑とうまくいってない嫁、というところだろう。」
探偵の方もキーボードを叩きながら質問に対して答えを返す、いつもの光景だ。
「だがこれは…少し困ったな。」
自分も助手も縁の薄いであろう問題に探偵は顔をしかめるのだった。
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事務所のドアが開かれる、それは『依頼人』が来たと知らせる合図だった。
「お、お邪魔します…。」
若干声が震えている。それが知らない人と話す緊張からくるものであれば良いのだが。
「コーヒーと紅茶、どちらにしますか?」
久しぶりに『依頼人』に投げかけた問いだ。緊張をほぐすのであれば、会話をする機会は多いほどに良い。
「コーヒーで、その…お願いします。」
如月がコーヒーを淹れに事務所の奥へと入っていく。
「外、暑いですよね。最近ずっとこんな調子でまいってしまいますよ。」
コーヒーが来るまでの間、他愛のない話を交わす。事務所は冷房を少し弱めにかけているがもっと温度を下げたほうがよかっただろうか。それを確認しながら『依頼人』の緊張を解いていく。だが他愛のない話をしている時も震えたような声は変わらない。どうやらオドオドとした話し方は事務所へ訪れた緊張ではなく性格のようだ。




