炎上した人間(3)
「その権利ってどうすんの。」
少し希望が見えたような声色で『依頼人』が探偵に問いを投げる。その言葉を聞き探偵が少し表情を緩め、忘れられる権利について話し始めた。どうやら今回の自殺はこれで終わりを迎えることができそうだ。 その思いを顔には出さず一つ一つ説明を加えていく。そういえば、と探偵が心に浮かんだことを聞く。
「ふと思ったんだが、なにが理由で炎上したんだ?やっぱり何かの愚痴とかか?」
事務所に訪れた直後であればタブーだったが、今なら聞いても大丈夫だろう。『依頼人』の表情も既に明るいものになっている。その『依頼人』も割と軽い口調で話してくれた。
「違うよ?買った食べ物捨てたのを写真付きで呟いたら炎上した。」
その言葉を聞いて探偵の表情が一変した。
「それは炎上するのは当然だ、反省しろ。」
その言葉にムッとした『依頼人』が反論した。
「なんで?お金払ったんだから食べようと捨てようとあたしの勝手でしょ?」
金を払ったからどうしようと構わないだろう、と言ってきた『依頼人』に対してまるで睨みつけるかのような表情で探偵が話し始めた。
「じゃあお前は金を払ってるって理由でアパートに放火するのか?」
「は?それとこれは別の問題でしょ?」
意味がわからないと言わんばかりに『依頼人』は言葉を返す。それに対してまるでわかってない、とでも言いたげな探偵がさらに話を続ける。
「別じゃない、ここでいう問題はお前が買った、金を払ったものをどうするかだ。その対象の大きさは関係ない。」
それを聞いて『依頼人』が黙る、探偵はそれを確認しつつ更に続ける。
「金を払った、お前にとってはそれだけの理由だろう。だがそれだけの理由でお前はアパートに放火することもできる。例えが飛躍しすぎではあるがそれを心に留めておけ。」
例えが若干おかしいことはわかっているようだ。それを話し終えると『依頼人』の顔を再び見遣る。その『依頼人』はというとすっかり勢いを失くしたのか、下を向いていた。
「自分がやったことをしっかりと受け止めるように、いいな?」
下を向いたままの人間が無言で頷く。反省していることを確認し、探偵は中断していた忘れられる権利について説明を再び始めた。




