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立春まで  作者: 若松ユウ
9/12

#008「幸せな一日」

@源家

タイラ「俺たちが生まれる前は、今日が成人の日だったんだよな?」

サクラ「そうだよ。ハッピーマンデー制度で、日付固定から曜日固定になったんだ」

タイラ「今年は九日だったから、俺たちの成人の日は、えっと」

サクラ「閏年を考えなくて良いから、十二日だね」

タイラ「早いな。さすが、ウィキばなぺディら」

サクラ「褒めても勉強会は続けるよ。妹さんが帰ってくるまでに終わらせないと」

タイラ「橘。そういう知識は、どこで仕入れるんだ?」

サクラ「大半は小説からだよ。書を読め、若人よ」

サクラ、鉛筆でテキストを指す。

タイラ「評論の長文読解は、どうにも面白味に欠けるんだよな。授業でも、早くチャイムが鳴らないかとばかり考えてる」

サクラ「エンジンは蛍光灯で、生徒の大半は内職か蒲鉾。おまけにベルサッサでは、教え甲斐がありませんな。少年、老いやすく、学、成りがたし」

タイラ「菊池先生の真似か? 似てないな」

タイラ、バンザイして床に寝そべる。

タイラ「もう、俺の集中力はゼロだ。こんな良い天気の日曜日に、家の中でジッとしてるなんてモッタイナイ。そうだ」

タイラ、スッと立ち上がる。

タイラ「気晴らしに散歩しようぜ」

サクラ「この寒い中を外出するの?」

タイラ「出不精め。そんなことでは、菊池先生みたいに中年太りするぞ」

サクラ「一緒にしないでよ」

タイラ、廊下に出る。

タイラ「早く来いよ」

サクラ「待ってよ。テーブルの上を片付けないと」

タイラ「すぐ戻るから、そのままで良いって。置いていくぞ」

サクラ、長押にかけた上着を取ろうとする。

サクラ「待って。今、コートを。ん?」

サクラ、足下を見、しゃがみ込む。

サクラ「これは、ひょっとして」

タイラ「ん? あ、それは駄目だ」

サクラ、押入れの奥から冊子を引っ張り出す。

サクラ「やっぱり、卒業アルバムだ」

タイラ「しまえよ。まさか、見る気じゃないだろうな」

サクラ「僕も気晴らしがしたいな。そんなに必死になって止めるってことは、さぞかし、面白い写真があるのだろうね」

タイラ「わかった、取引をしよう。もし、今、橘が手に持ってるものを開かずに元の場所に戻すなら、駅前のドーナツ屋で、橘の好きなドーナツを一箱奢ってやろう。どうだ?」

サクラ「魅力的な取引だけど、もう一声かな。駅ナカのクレープ専門店なら手を打つけど?」

タイラ「クッ。他人の足下を見やがって」

サクラ「嫌なら、交渉決裂だね。それでは、ケースを外そう」

タイラ、部屋に戻ってサクラから冊子を取り上げる。

タイラ「要求を呑もう」

サクラ「やったね。今日はツイてる。ハッピーサンデーだよ」

タイラ「俺にとっては、アンハッピーだ」

サクラ、コートを片手に廊下に出る。

サクラ「早く早く」

タイラ「待てよ。コイツを片付けてからだ」


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