#008「幸せな一日」
@源家
タイラ「俺たちが生まれる前は、今日が成人の日だったんだよな?」
サクラ「そうだよ。ハッピーマンデー制度で、日付固定から曜日固定になったんだ」
タイラ「今年は九日だったから、俺たちの成人の日は、えっと」
サクラ「閏年を考えなくて良いから、十二日だね」
タイラ「早いな。さすが、ウィキばなぺディら」
サクラ「褒めても勉強会は続けるよ。妹さんが帰ってくるまでに終わらせないと」
タイラ「橘。そういう知識は、どこで仕入れるんだ?」
サクラ「大半は小説からだよ。書を読め、若人よ」
サクラ、鉛筆でテキストを指す。
タイラ「評論の長文読解は、どうにも面白味に欠けるんだよな。授業でも、早くチャイムが鳴らないかとばかり考えてる」
サクラ「エンジンは蛍光灯で、生徒の大半は内職か蒲鉾。おまけにベルサッサでは、教え甲斐がありませんな。少年、老いやすく、学、成りがたし」
タイラ「菊池先生の真似か? 似てないな」
タイラ、バンザイして床に寝そべる。
タイラ「もう、俺の集中力はゼロだ。こんな良い天気の日曜日に、家の中でジッとしてるなんてモッタイナイ。そうだ」
タイラ、スッと立ち上がる。
タイラ「気晴らしに散歩しようぜ」
サクラ「この寒い中を外出するの?」
タイラ「出不精め。そんなことでは、菊池先生みたいに中年太りするぞ」
サクラ「一緒にしないでよ」
タイラ、廊下に出る。
タイラ「早く来いよ」
サクラ「待ってよ。テーブルの上を片付けないと」
タイラ「すぐ戻るから、そのままで良いって。置いていくぞ」
サクラ、長押にかけた上着を取ろうとする。
サクラ「待って。今、コートを。ん?」
サクラ、足下を見、しゃがみ込む。
サクラ「これは、ひょっとして」
タイラ「ん? あ、それは駄目だ」
サクラ、押入れの奥から冊子を引っ張り出す。
サクラ「やっぱり、卒業アルバムだ」
タイラ「しまえよ。まさか、見る気じゃないだろうな」
サクラ「僕も気晴らしがしたいな。そんなに必死になって止めるってことは、さぞかし、面白い写真があるのだろうね」
タイラ「わかった、取引をしよう。もし、今、橘が手に持ってるものを開かずに元の場所に戻すなら、駅前のドーナツ屋で、橘の好きなドーナツを一箱奢ってやろう。どうだ?」
サクラ「魅力的な取引だけど、もう一声かな。駅ナカのクレープ専門店なら手を打つけど?」
タイラ「クッ。他人の足下を見やがって」
サクラ「嫌なら、交渉決裂だね。それでは、ケースを外そう」
タイラ、部屋に戻ってサクラから冊子を取り上げる。
タイラ「要求を呑もう」
サクラ「やったね。今日はツイてる。ハッピーサンデーだよ」
タイラ「俺にとっては、アンハッピーだ」
サクラ、コートを片手に廊下に出る。
サクラ「早く早く」
タイラ「待てよ。コイツを片付けてからだ」




