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立春まで  作者: 若松ユウ
5/12

#004「領域と境界線」

@校庭

ライン引きを持ち運ぶサクラ。石灰の袋を持ってあとに続くタイラ。

サクラ「アイブ、ビンウォーキノンザ、レイルロード。オール、ザ、リブロングデーイ」

タイラ「線路は続くよ、どこかまで。橘も半分持ってくれよ。不公平だ」

サクラ「公平だよ。体力に相応した適切な配分だと思うけど」

タイラ「俺を何だと思ってるんだ、橘?」

サクラ「コンビニで一リットルの牛乳を買ったら、何も訊かれずにストローをつけられるような、健康優良児」

タイラ「回りくどい譬えだな」

サクラ「でも、いかにもストレートで飲みそうだと思われてることは事実でしょう? この前のショッピングの時も」

タイラ「それ以上は言わなくていい」

タイラ、石灰の袋を置く。サクラ、ライン引きを地面に下ろす。

サクラ「よぉし。それでは、白線を引き直していこうか。はい、タイラくん」

サクラ、ライン引きのハンドルをタイラに向ける。

タイラ「俺が引くのかよ」

サクラ「曲がったら教えるね」

タイラ「はいはい」

タイラ、ライン引きを押して歩く。サクラ、タイラの三歩後ろを歩く。

タイラ「今日も持久走なんだろうか?」

サクラ「多分、そうだと思うよ。それより、梅津先生に今の季節を教えてあげないといけないね」

タイラ「この寒さの中を半袖で駆け回ってるもんな」

サクラ「梅津先生も、ストーローをつけられるタイプだね。タイラくんと同じだ」

タイラ「一緒にするな。俺は、ああいう人間じゃない」

サクラ「どういう人間なのやら。さっきの話に戻して良いかな?」

タイラ「どの話だ? タトゥーの話か?」

サクラ「そう、それ。刺青イコール反社会的人物という安易な決め付けや、スポーツ界での全面出場禁止したり、レジャー施設での断固利用拒否するといった不寛容さは、窮屈だと思うんだ」

タイラ「そうだな。海外では、ファッションの一部として認められてるもんな」

サクラ「何も別に、腕や背中に彫りたくて言ってる訳では無いよ。ただ、何でもかんでも規制して締め出すのはいかがなものかと思うだけでね」

タイラ「橘の気持ちは、よくわかる。俺も最近、ちょっとした傷や些細な間違いに対して猛烈に怒る、堪え性のない人間が増えてるような気がしてる」

サクラ「人口が増えて世界が小さくなって、陣取り合戦が激化してるんだよ、きっと」

タイラ「何ともセセコマシイ話だな」

サクラ「他人とのあいだに線引きをしないと、すぐに自分を見失ってしまうくらい、画一化、均質化が進んでるんだろうね。距離が近すぎるんだよ。ただし右腕に桜吹雪なら許す、くらいのユーモアが欲しいところなのに」

タイラ「ハハッ」

タイラ、足を止める。

サクラ「どうしたの?」

タイラ「粉が切れたみたいだ。戻って、逆から引き直そう」

ライン引きを持ち運ぶタイラ。あとに続くサクラ。

サクラ「アイブ、ビンウォーキノンザ、レイルロード。ジャストゥパス、ザ、タイマウェイ」


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