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立春まで  作者: 若松ユウ
11/12

#010「流行と古典と勘違い」

@源家

タイラ「前代未聞ぬぉ! 疾風怒濤の青年時代! 文学を愛し、文学に愛された男! ウェルテル、ウィルヘルム、ファウスト、すべての古典の生みの親! そう、我こそは、ヨーハン、ウォルフガング、フォン、ギョエテ! ウェーイ! ライトネス!」

サクラ、両手で顔を覆う。

サクラ「見ている側が恥ずかしくなるよ。二重三重の意味でアウトだね。ハイリスクなのにローリターン」

タイラ「太陽光線!」

サクラ「痛々しすぎて笑えないよ。全身全霊で覚える、流行に便乗した、捨て身でインパクト勝負の暗記法」

タイラ「暗記と同時に、何か大事なものを忘れそうだな。あぁあ。何で出来もしないのに、大見得を切ってしまったんだろう」

タイラ、右手を突き出し、左手を引き、寄り目で睨む。

サクラ「やればできると思うけどね。全科目、赤点回避」

タイラ「無視しないでくれよ、橘」

サクラ「時間が無いから、リアクションに困ることは極力スルーするよ、タイラくん。学問はショートカットできないもの。やっぱり、地道に頑張るしかないか」

サクラ、教科書を捲る。

サクラ「リピート、アフタミー。三角貿易、蒸気機関、産業革命」

タイラ「三角貿易、蒸気機関、産業革命」

サクラ「ロバート・オーウェン、カール・マルクス」

タイラ「ロバート・オーウェン、カール・マルクス」

サクラ「殖産興業、富岡製糸場」

タイラ「殖産興業、富岡製糸場。だんだん、九官鳥か桜文鳥にでもなったような気がしてくる」

サクラ「鸚鵡返しだもの。雀の学校だよ」

タイラ「鞭で叩かれ、チイパッパ。俺としては、メダカの学校の方が良いな」

サクラ「お遊戯だけでは、知識が身に付かないよ」

タイラ「苦痛だな」

タイラ、教科書を逆に捲る。

タイラ「科学でなく、魔法が進んだ世の中なら良かったのに」

サクラ「それで、科学が迫害されるの?」

タイラ「そうそう。魔法使い側が科学者を裁く魔女狩りさ。サバト裁く裁判、イン、サハラ砂漠」

サクラ「早口言葉だね」

タイラ「アレ? 何だっけな」

タイラ、髪のあいだから何かを引っ張り出す手真似。

タイラ「ホラ、こうやって頭の隙間から菓子を出す」

サクラ「外郎売のことかな? 元朝より大晦日まで御手に入れまするこの薬は、昔、珍の国の唐人、外郎という人、我が朝へ来たり。帝へ参内の折から、この薬を深く込め置き、用うる時は一粒ずつ冠の隙間より取り出だす」

タイラ「そう、それだ。ういろうだ。イヨ、成駒屋」

サクラ「大向こう、どうも。言っとくけど、ここで出てくる外郎は透頂香という薬で、和菓子のういろうとは別物だからね。それに、團十郎は成田屋だよ」

タイラ「二重三重に勘違いしてたな。てっきり、玉葱頭の誰かさんみたいに、頭の中からういろうを出すものだとばかり」

サクラ「生菓子だから、下手すれば髪の毛がベタベタになるよ」

タイラ「それは、いただけないな」


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