#009「チョベリグ、チョベリバ」
@駅前
タイラ「苺とブルーベリー、ティラミスにマシュマロ。見てるこっちが胃もたれしそうだったぜ」
サクラ「そういうタイラくんも、あのサルサを食べて、よく火を吐かないものだと思うよ」
タイラ「俺は、龍や原子爆弾の怪物ではない」
二人の行く手に同年代の男子が二人、姿を現す。
タイラ「烏丸と鳩貝か」
カラスマ「久し振りだな、源。最近、鳴りを潜めてるじゃねぇか」
ハトガイ「何を企んでやがるんだ?」
サクラ、タイラに耳打ち。
サクラ「どなた?」
タイラ「昔、つるんでた悪友。前に話した、かつての不良仲間だ」
サクラ「たしか、小中学校が同じなんだよね?」
タイラ「あぁ。高校受験に失敗したところまでは知ってるけど、今は何をしてるのやら」
サクラ「白いスーツに原色のシャツ。服装から察するに、堅気ではなさそうだね」
カラスマ、二人のあいだに割って入る。
カラスマ「何をヒソヒソこそこそ相談してるんだ。エェ?」
ハトガイ、サクラの顎を三つ指で挟む。
ハトガイ「コイツが新しいダチなのか、源?」
タイラ、サクラを自分の近くに引き寄せ、二人から引き離す。
タイラ「気安く触るな。もう、お前たちとツルむ気は無い」
ハトガイ「それを聞いて、ハイハイそうですかと引き下がると思ってるのか?」
カラスマ、睨み合うタイラとハトガイを止める。
カラスマ「やめておけ、鳩貝。まだ日が高くて、人目が多過ぎる。それに、狙うなら独りのときのほうが良い。またな、源。今度、星の巡りの良い晩に会おう」
ハトガイ「ヘヘン。夜道は背後に注意するんだな。覚悟してろ」
カラスマ、その場から立ち去る。ハトガイ、それを追いかける。
サクラ「ホスト崩れと太鼓持ち。それとも、赤シャツと野だいこが良いかな」
サクラ、タイラの顔をのぞきこむ。
サクラ「大丈夫? 顔色が優れないけど、パクチーが中った?」
タイラ「何でもない。ただ、過去の自分にヘドが出そうになっただけだ」
サクラ「お節介なことを言うようだけど、過去の自分を否定してはいけないよ」
タイラ「虫唾が走るような過去でも、そういえるか?」
サクラ「もちろんだよ。どれほど嫌悪感や拒否感をもよおし、不愉快で唾棄すべきだと思うような過去であったとしても、今の自分があるのは、その過去があるからだもの。もしも過去のタイラくんが違う選択肢を採っていたら、僕と出会わなかったかもしれないし、出会っていても友達としてではなかったかもしれないでしょう?」
タイラ「なるほど。全部ひっくるめて今の俺があるという訳か」
サクラ「そういうこと。それにしても、あの野だいこは赤シャツに忠実だったね。生命に係わる弱みを握られてるのかな? あるいは、隠し子か死体隠しか埋蔵金か」
タイラ「推理小説の読みすぎだぞ、橘。鳩貝が烏丸の腰巾着なのは、小学校の頃からだ」
サクラ「本質を見抜いて現状を好転させるためには、時には飛躍した発想が必要なのだけど。フゥン。忠犬ハト公か」
タイラ「家に戻ったら、アルバムを捲りつつ説明するさ。恥ずかしいが、あの写真を見たほうが早い」
サクラ「百聞は一見にしかず、だね。それなら僕も、あとでクレープ代を返すよ」




