第46話:エピローグ
勇者は膝をついている俺の後ろで拍手をしていた。
俺はその拍手を背中越しに聞く。
・・・・もう手が無い。
全力を出し切った、あれ以上の技を俺は持ち合わせていない。
たとえ持っていたとしても、この男は生き残るだろう。
俺は膝をつきながら、静かに目を閉じ、勇者の次の行動に備える。
「合格だ。」
「・・・・。」
「お前は十分俺を満足させてくれた。」
勇者は動けない俺に回復魔法をかける。
「な!?」
「そんなお前に神から何か願い事を一つ叶えてやろうか?」
「さっきまで、俺を殺そうとしていた奴のセリフか。」
「まあそういうなよ。たとえ此処で死んでもすぐに復活するんだ。
不合格だった場合は、もう一度あの世界で記憶を消してやり直してもらうつもりだったが。」
勇者は俺の前方に回りこみ、中腰になり、頭突きをすれば当たる位置で話し始める。
俺は勇者の回復魔法により、徐々に体が軽くなる。
「合格だ、不合格など知らんが・・・願いを叶えるってのはどういうつもりだ。」
「お前は俺が俺個人の為に作った世界をクリアし、さらに最終ボスであった俺を倒したんだ。当然の見返りだろう。」
「倒したといってもお前はピンピンしてるだろうが。」
「十分だって言っただろう。これでも結構やばかったんだぜ。
さあ願いを言え。」
「・・・・・。」
「俺に死ねという以外なら大抵のことはできるつもりだぞ。お前を神にする事も可能だ。」
「・・・俺の願い・・・
お前が作ったお前だけの世界を破棄し、あそこに捉えてる人たちを解放しろ。」
「そんなのでいいのか?俺は十分楽しんだのでもうあそこはいらないが。」
「・・・ああ。あそこにいる終わりの無い無限の殺し合いに、苦しんでいる人達もいるんだ。」
「お前の事だから、俺を凌駕する力を欲すると思ったのだがな。」
「自分でなんとかするさ。」
「・・・いいだろう。あの世界、エンドレス・ランドを破棄しよう。そして、あの世界にいた全員を!!」
勇者が両手を上に掲げると召還されたように一人一人、この世界に出現する。
「なんだ、ここは・・・。」
「俺、今お前と戦っていたよな。」
現れたエンドレス・ランドにいた者達は、急な展開に頭が着いていけず、周りを見渡していた。
あっという間に、あの白い空間だけであった世界に入りきらないような人数の人間が埋め尽くされていた。
俺は、辺りを見渡すと見知った顔を見つける。
あれはオーパール、アレフ・・・あいつも見たことあるなスナイパーの奴か。あいつもあいつも・・・。
「見つけたあ~。」
俺の背後から腰に手を回すようにその人物は現れた。
「・・・シズカか。」
「・・・今、コロンと思ったでしょう。」
シズカは俺の顔を目を細めながら、腰に回した手に力を込めだす。
「おい、大地!!俺の目の前でシズカに手を出すとはいい度胸だな。」
「オルグ・・・この状況はどう見ても違うだろうが・・・。」
オルグは、人ごみを掻き分けるように声を上げながら俺達に近づいてきた。
「・・・・スク。」
「・・・・アズサ。俺のことがわかるのか・・・。」
勇者の目の前にアズサが立っていて、アズサは涙顔で勇者の事をスクと呼んでいた。
「わかるわよ!!私を捨ててこんなとこで何してるのかしら?」
「い、いや・・捨てたつもりはないんだが・・・。」
「あぁ~?それに左手の指輪はなに?結婚したの?」
「こ、これは・・・神にはめられて・・。」
アズサの追求にあの勇者もダジタジになっていた。
「まあ・・・今は私も他に好きな人がいるから、別にかまないんだけどぉ~。べえー。」
アズサは勇者にアッカンベーをした後、俺に近寄ってくる。
勇者はアズサに向かって手を伸ばそうとするが、すぐに引っ込め、俺を睨む。
いや・・・俺何もしてないだろうが。
俺のアズサに手を出したら殺すみたいな威圧するなよ。
俺が深く溜息をつくと、俺の目の前に・・・
「大地。」
「コロン・・・。」
シスターの格好をしたコロンが俺の目の前に現れ、両手を組んで、涙顔で俺の目を見るように上目遣いで見てくる。俺はその情景に、少し心打たれる。
「や、やっと会えたあ。」
コロンは俺の胸に飛び込んで来て、俺の腰に手を回す。
反対側にいるシズカも手を離さず、コロンに対抗するように力を込めだす。
・・・・・この状況になったら普通手を離すだろうが・・・。
「負けるものかああああああ。」
「シズカさん、ここは普通私に譲るものでしょう。」
「いやだああああああああ。」
「私も参戦させてもらいます。」
「俺のシズカに」「俺のアズサに」
「「手を出すなあアアアアアア。」」
それから落ち着きを取り戻したとき、勇者は魔法で浮かび上がり、この世界に召還した人達に問いかける。
「俺のわがままに付き合ってもらった者達よ。お前達の行く先を聞こう。元の世界の同じ時間帯に戻るか、それとも異世界に行き、剣と魔法の世界で生死をかけるか。今までのように死んだら簡単に復活できるとは思わないで欲しい。どうする?」
大半の人間が元の世界軸に戻ることを判断し、その者たちを転送した後、残った者達に勇者が言葉を放つ。
「これから送る世界は俺が管理している異世界。ここはお前達の知っているように色んな種族が剣と魔法を持って、生死をかけた日々を送っている世界になっている。今の状態のお前達をその世界に放り込むと、その世界はお前達のチート力で滅んでしまうだろう。・・・・チート力とレベルは少しいじらせてもらうが、生活に困らない程度には調整しよう。お前達の判断で好きに生きてくれ。」
勇者の力によって、俺たち以外の人間はこの世界から転送されてしまう。
「アズサ・・・この世界に残ってくれないか?」
「いや~、私は大地に着いて行くから。」
「くぅ~。」
勇者はアズサを口説いたみたいだが、NOと即答されたみたいだ。
「俺が残ってやるよ。スク!お前と殺しあう日々というのも悪くなさそうだ。」
「い、いや、結構だ。オルグ。」
オルグはスクを思い出したみたいで、振られた勇者の肩をかつぎ、声をかける。
「お前はシズカと一緒の方がいいだろう。」
「ねえねえ、あっちの世界いったら私と結婚しようよ。」
「ちょ、何言ってるのよ!シズカさんはオルグとひっついちゃえばいいのよ。」
「ああ・・・。あの若造にシズカを渡すわけにはいかんな。」
勇者が異世界に続く光柱を出現させ、その中に入れと言う。
オルグ、アルフィ、レアン、シズカ、アズサ、コロンが中に入り、俺もその中に入ろうとする。
「大地・・・。お前にはこれからも俺と協力してもらうことになる。たまに連絡するからよ。」
「俺では力不足だろう。あんたほどの奴が何を言っている。」
「神になった私では・・・手を出せない領域があるんだ。」
「じゃあ、またな。」
「ああ。また会おう。」
俺は勇者に背を向けたまま、手を挙げ、そのまま光柱に入っていく。
「ちょっとコロン、引っ付きすぎよ。」
「シズカさんは、さっきからその胸を強調しすぎです。」
「○○××」
光柱が消え去るまで、喧騒の声は消えず、勇者が一人その世界に取り残される。
勇者は消え去った光柱があった場所を見たまま、呟く。
「大地、お前は俺が忘れてきたものを、きっと取り戻してくれると信じてる。」




