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たっくんとゆかいななかまたち

たっくんとゆかいななかまたちシリーズ<2>炸裂!7砲身パンチ

作者: 杉浦達哉

挿絵(By みてみん)

ウラシア合衆国『パ』ージニア州のウングレー・ウースティス統合基地は基地と言っても巨大な一つの村のようなものでそこにはたくさんの航空機たちが暮らしています。

彼らはそれぞれハンガーと言う家に住んでいてたっくんもお兄さんと一緒のハンガーに住んでいますが、いつもお兄さんは空爆の仕事でお盆休みとお正月くらいしか帰ってきていません。


朝、いつまでもだらだらとたっくんがハンガーで寝ているとB2君が起こしに来ました。

「たっくん、おはよう。今日は滑走路の草むしりの日だよ。起きて早く行かなきゃ」

「知らねーよ、そんなの」

たっくんは起こされてめちゃくちゃ不機嫌そうです。

「基地の今月の予定表のお便りに書いてあるでしょう」

B2君はあきれました。

「見てねーもん。だって俺家でカバン開けねーもん」

ハンガーの入口にたっくんのリュックが放り出してありましたが

どうやらもらった予定表やお手紙の類いは一切見ていないようです。

「でも起きて行かないと怒られるよ。早くしたくして」

どうやらたっくんの整備担当チーフのケビンはいないようでたっくんをほっといて出掛けたようでテーブルにたっくんの朝食が1人分ラップを掛けて置かれていました。

B2君はたっくんを引っ張って起こすと顔を洗うのを手伝ってラップのかかったごはんとお味噌汁をレンジで温めて朝食を食べさせ滑走路へ連れて行きました。

みんなすでに集まっていて作業が始まっていたのです。航空機も基地の人間も一緒になって働いています。ジェイムスン中佐と黒ぶち眼鏡のケビンもいます。

「遅くなってすみません」

B2君が謝りました。

「おそーい!」

赤いリボンをつけて、くまのぬいぐるみをぶら下げた女の子の攻撃機がこっちに向かってやってきました。

たっくんよりも小柄なのに機首の下に大きな30mmの7砲身の機銃を付けています。

たっくんの機銃は20mmの6砲身ですからその大きさが違います。

「ごめんねA10ちゃん」

またもやB2君が謝りました。

「あなたがラプター?私はA10サンダーボルトって言うんだ。変わってるね。男の子なのに女の子みたいな帽子なのね」

女の子の攻撃機は自己紹介しました。

たっくんはA10ちゃんの機銃を見て

「女の子がそんな30mm担いで撃てるのか?」

するとA10ちゃんが

「女の子だからって撃っちゃダメって規定はないよね」

と言いました。

「俺は20mmで精一杯なのにさ」

「じゃあ少なくとも私の方が力が強いってことだね」

「そんなはずはねぇぞ!」

たっくんはむきになって言いました。

「そんなに言うなら腕相撲でもして勝負すればいいじゃねぇか」

ずっと話を聞いていたジェイムスン中佐が言いました。

「ああ、いいぜ」

「いいよ」

たっくんとA10ちゃんが返事しました。

「待って、危ないですよ、中佐。変なことを言わないで下さい」

ケビンが慌てています。

「たっくん、だめだよ。危ない」

B2君もたっくんをとめようとします。

「大丈夫さ。女の子相手に本気は出さねぇし」

たっくんは言いましたがケビンもB2君も違う、そうじゃない、という表情で心配そうにしています。ジェイムスン中佐だけはニヤニヤしながら腕組みをしていました。

なんだなんだと他の人間や航空機も集まりました。

がっちり組み合うとジェイムスン中佐が

「よぉし、レディーゴー!」

たっくんはこれでも大型制空機、戦闘機の中でも腕力に自信はありました。

ところが組み合ってから全くたっくんの主翼が動きません。

これはどういったことでしょう。

どんなに力を入れてもたっくんの主翼もA10ちゃんの主翼も動きません。

それどころかA10ちゃんは笑っていて

「さすが他の機体よりはなかなか力があるね。…えいっ」

と主翼を回しました。

そのとき、たっくんは何が起こったのかわからなかったのですがA10ちゃんが主翼を回しただけで一回転して地面に尻餅をつきました。

「いってー、なんだよ今の」

ジェイムスン中佐が近寄ってきて

「言うのを忘れたがこの国でいや世界で30mm砲のGAU8アヴェンジャーを担いで飛べるのはA10だけだからな。おまけに機銃200発くらいじゃかすり傷程度だ。文字通り純粋な意味で火力、腕力、体力、近接航空支援においてこいつに叶うのはいねぇよ」

「なんだよー、なら先に言ってくれよ」

B2君に引っ張られて起き上がりながらたっくんはぶすっと言いました。

「まぁ、男だから女だから大きいから小さいからそんな先入観は戦闘において判断をにぶらせるぞ」

ジェイムスン中佐は笑いながら言いました。

その言葉にたっくんもA10ちゃんもはっとしました。

「さっきは女の子のくせにって言ってごめんな」

たっくんは謝りました。

「私もごめんね。その帽子、とっても似合ってるよ」

A10ちゃんも謝りました。

「よーし、ゲームは終わりだ。みんな作業を続けろ。暑くなるから午前中で終わらせるぞ」

ジェイムスン中佐がうながしてみんな草むしりに戻りました。

「しかし普段の掃除と草むしりは業者に任せてあるのに年に数回、どうしてみんなが作業をする日があるのでしょう」

ケビンがジェイムスン中佐に聞きました。

「司令官の意向だよ。基地にはたくさんの人間と飛行機がシフトで働いているから普段お互いのことが分からないからたまに全員で一斉作業をさせて顔を会わせてコミュニケーションができるようにしてるんだ。だから今日の掃除は俺達基地の関係者だけでやるんだ。俺もいいアイディアだと思うぞ」


B2君とたっくんの苅った草や拾ったゴミをA10ちゃんが集めて捨てに運ぶのを見てジェイムスン中佐は言いました。

滑走路は雑草の他にも、先日議員選先生方とその関係者の見学会のあった後なので、細かいごみがたくさん落ちていました。安全ピンや万年筆のキャップ、片っぽだけのピアス。

これらの細かい金属を航空機のインテークから吸い込んで感染症を起こしたり、最悪計器類に入り込んでしまう恐れがあるのです。

たっくんはそれらを注意深く集めながらたまに見つかるリサイクルショップで売れそうな金属をより分けることに専念していました。


しばらくしてもともと体力のあまりないたっくんはすぐに疲れてしまいました。

ちょうど大きな倉庫の裏口が涼しそうだったのでこっそりそっちに行ってしまいました。

一人でもがんばっていたB2君にケビンが、

「あれ?たっくんは?…もしかしてさぼったのか。しょうがないなぁ、B2君、悪いけど倉庫に入って除草剤の箱を取ってきてくれるかい」

B2君は一人で倉庫の中に入っていきました。

すると中でガタガタと音がしました。

「わ!」

びっくりして倉庫の電気をつけるとB2君の知らない戦闘機がいました。カナード翼を持った見たこともない戦闘機です。

「だ、誰なの?」

「やぁ、君はここの基地の爆撃機だね。私はヘドワーズ基地から手伝いに来たんだよ」

その戦闘機はさわやかな声で返事しました。

「…?」

今日は屋外のみの清掃です。倉庫の掃除をする予定はありません。

変だなとは思いましたがB2君は除草剤の入った箱を探しに棚へ行きました。

その頃ゴミを捨ててきたA10ちゃんが戻ってくるとたっくんもB2君もいないのに気が付いて

「2人はどこへ行ったの?」

するとケビンは

「たっくんはさぼり。B2君は倉庫に行ってもらったよ」

と答えました。

するとそこへ基地の保安部の尉官の人が来ました。

「この暑い中、ご精が出ますね」

「ああ、これも大事な基地内のコミュニケーションを図る行事なんだ」

とジェイムスン中佐。

するとその保安部の尉官は

「そういえば今日、ヘドワーズ空軍基地からお手伝いの戦闘機が来ていますね」

と言いました。

「ん?そんな話があったっけ」

「ねぇ、中佐、この草むしりとゴミ拾いは本来の目的が掃除ではなくて基地のコミュニケーションの意味があってやってるから基地の関係者だけでやらなければだめだって言いましたよね」

ケビンが聞きました。

「ああそうだよ」

「だったら他の基地から手伝いが来るなんて変な話じゃないですか」

ジェイムスン中佐は保安部の尉官に

「本当にヘドワーズから手伝いが来ているかヘドワーズに直接聞いてみろ」

と言いました。

保安部の尉官は真っ青な顔をして確認に戻りました。

そして真っ青どころかブルーベリーのような顔色で戻ってきました。

「中佐!大変です!ヘドワーズは手伝いの機体なんかよこしていないそうです!」

「!!その手伝いにきたという正体不明機はどこへ向かったんだ?」

「確か資材入れの倉庫に行ったかと…」

ジェイムスン中佐とA10ちゃんはB2君が入って行った倉庫の方を一斉に見ました。



外でそんな騒動になっているとも知らずB2君は除草剤を小さなカントリーワゴンに積んで引っ張っていたところでした。

「よいしょ、よいしょ、A10ちゃんならこんなもの使わなくても簡単に運べるのにな」

するとさっきの戦闘機がB2君に近付いてきて「そうだ、基地の他の人達にも挨拶しなきゃあいけないな。ここは戦闘機は何人いるの?爆撃機は何人?君以外のステルス機がいるって聞いたけどその子はどこにいるの?」

話しかけられたのでB2君は答えようとしましたがやっぱり変だと思いました。

基地の掃除を手伝いに来たのならどうして肝心の基地の飛行機のことを何も知らないのでしょう。どうして他の戦闘機について聞こうとするのでしょう。

B2君は怖くなりました。

「…お兄さん、誰なの?本当に国内のヘドワーズ基地から来たの?」

B2君は震えした。

するとその戦闘機はどすの利いた声で

「カンのいいガキは困るな」

とささやいてB2君の翼(B2君は全翼機です)を引っ張りました。

「いたぁい!」

びっくりしたのといきなり体を引っ張られて痛いのでB2君は叫びました。

そのときです。

「B2君を離しなさい!」

倉庫の入り口にA10ちゃんとジェイムスン中佐、基地の人間のみんなが集まっていました。

ジェイムスン中佐は

「そいつはJ20だ。俺達の国の機体じゃないよ」

と言いました。

「おっと、こいつがどうなってもいいのか」

J20はB2君に機銃を向けました。

1機2000億円のB2君がけがでもしたら大変です。

みんな手を出せずに立ち止まってしまいました。

「たすけてぇぇぇぇぇ殺されるぅぅぅぅぅ」

B2君は顔中オイルの涙と鼻水でぐちゃぐちゃにして泣き叫んでいます。

完全にパニックを起こしていて自力で逃げることはできなさそうです。

そのとき、A10ちゃんは倉庫の反対側のドアからたっくんが入ってくるのを見ました。

のどがかわいたので倉庫に備蓄用のジュースを探しに来たのです。

みんな何をしてるんだろうときょとんとした顔をしています。

たっくんは体のレーダーの断面積が小鳥以下なのでどうやらJ20のレーダーには映っていな

いようで、背後にいるたっくんに気付いていません。

A10ちゃんははっとしてたっくんにしか聞こえないように通信の周波数を変えました。

『聞こえる?周波数を私に合わせて返事して』

するとたっくんは

『なんだどうした。おしばいでもやってんのか?』

『悪いスパイが入り込んできたの。拘束したいけどB2君が人質につかまってるの。たっくんが一瞬だけ、あいつの気をそらして』

すると返事もせずにたっくんは軽くジャンプしてJ20のエンジンノズルに飛び蹴りしました。

ドシャッ。

「うわっ」

不意をつかれてJ20は横倒しに転がりました。

「B2走れっ!!!」

ジェイムスン中佐が叫びます。

「うわーん!」

B2君は泣きながら走ってジェイムスン中佐の背後に隠れました。ただし、B2君は翼幅が52.43mあるので完全にはみ出ていますが。

「おい、何しやがんだこの野郎!」

J20はやくざのようにすごんでたっくんを振り返りました。

そこをA10ちゃんが機首と同軸のアヴェンジャーで7砲身パンチをお見舞いしてふっ飛ばしました。

ドゴッ。

J20は壁を突き破って倉庫の外まで超音速で飛ばされました。

同時に武装した基地の人達がJ20を取り囲みました。

「よーしお前らよくやった」

ジェイムスン中佐がたっくんとA10ちゃんに言いました。

そして

「B2もよくがんばって走ったな。えらいぞ」

とほめました。

「一時はどうなることかと思いましたね。なにしろB2がけがでもしたら修理の予算が…」

ケビンが冷や汗をぬぐいました。

「そうだなぁ、金の心配もあるが基地の航空機はこの基地と言うちょっとした町の中の一人の町民だからな。みんな同じ町の住民で家族みたいなもんだからな。けがや病気なんてなってほしくないだろ」

とジェイムスン中佐が言いました。

「だけど基地のセキュリティシステムをもっと考えなくてはな。やつが一体どこの国のスパイかもこれから取り調べないと」

とも言いました。


それからは除草剤をまいてゴミも片付けて基地は綺麗さっぱりになりました。

後片付けをしてみんなで食堂でお昼ご飯です。

基地には食堂が数か所あって、その中でも一般兵用、将校用、航空機用と分かれています。

たっくんとB2君とA10ちゃんが食事をもらうために並んでいると

「坊主、お前が新型ステルス機のラプターか。『あいつ』の弟の」

と受け取りカウンターから日焼けした顔に白髪の初老のおじさんが顔を出しました。この基地のみんなの栄養と食の安全を預かっている管理栄養士のマッカラムさんです。

「そうだよ!俺の兄ちゃんは世界一強いんだ!」

「そうだったな。兄貴に負けないくらいしっかり食ってしっかり働くんだぞ。炊飯器はそこにあるから飯はおかわり自由だ」

とおかずの鶏の竜田揚げを余分におまけしてけんちん汁もたっぷり入れてくれました。

たっくんはたくさんごはんをおかわりしておかずがなくなってもおかわりを入れに行って、B2君が

「たっくん、おかずもないのにどうやって食べるの」

と聞くとたっくんはテーブルの上のふりかけを指して

「これがあれば飯とふりかけの永久機関が出来上がるぜ」

と言いました。

あまりにもたっくんが席と炊飯器の間を往復するので他の航空機たちも珍しがってたっくんの様子を見ていました。


食堂で人間の調理師さんとともに給食技能員として働く空中給油機のKC135ストラトタンカーさんは

「なんて子だ!」

と、呆れました。

マッカラムさんは

「あの坊主は大物になるよ。あいつの兄貴もとんでもない大食らいだった」

と言いました。

さて、他の航空機も物珍しげにたっくんを眺めていましたが、その中でも輸送機たちは食堂に来ても急いで食べて席を立って出て行きます。

「何をそんなに急いでいるの?」

A10ちゃんが聞くと、

「さっき君らがJ20を捕まえるために蹴ったりパンチをしたせいで倉庫の壁と床が穴だらけさ。修理しなくちゃいけないけどそれまでの間に合わせの応急処置の資材を輸送するんだもの」

と言うと本当に忙しそうに走り去ってしまいました。

「…ごめん。僕があんな奴につかまったからだ」

B2君はうなだれました。

「B2君は関係ないよ。だってB2君があいつのこと見つけなかったら基地の内部まではいりこまれていたかも」

1番大きな穴を倉庫にあけたA10ちゃんが言いました。

「じゃあさ、俺達も何か手伝ったらいいだろ」

空になったふりかけの瓶をとなりのものと交換しながらたっくんが言いました。

「そうね、いいこと言うじゃない!さっそく行きましょ!!」

A10ちゃんがたっくんのインテークをポンと叩きました。

「もう1回おかわりしてからな」

とたっくんが言ったのでA10ちゃんとB2君はあきれてしまいました。

するとマッカラムさんが

「残念だが炊飯器はもう空っぽなんだ。新しく炊き直すには45分以上かかる」

と言いました。

たっくんは

「そりゃないぜ」

と言いながらも

「ま、しょうがない。ごちそうさま」

と残りのごはんをかきこんで食堂を出ました。

「あ、待ってよ」

とB2君が、

「待ちなさいよ。追いつかないじゃない」

とA10ちゃんが、

たっくんの後ろからついて行きました。

               (おわり) 


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