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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

女神のいる世界

作者: 8D

ふと思いつき、勢いで書いた物。


誤字修正いたしました。

 この世界には女神がいた。



 彼女がいつから存在したのか、それは人類に知る由もない。

 しかし、彼女が人類の誕生を担った事は確かな事だった。


 女神いわく、人間は猿に知能を与える事で進化を促した結果であるという。

 それを否定したい一部の科学者が研究を重ねた結果、その事実がより強固に裏づけされてしまったという皮肉な歴史も存在する。

 そして彼女は人が生まれてからも度々人への介入を果たし、様々な助けを与えた。

 さながら、人類の繁栄を願い、導くかのように。

 慈愛に満ちたその女神を人々は崇拝した。


 女神はいつも人を見守っていた。

 新たな種族すら創りだし、自在に大地の地形を変える事のできる全知全能を以って、人々の営みを眺め続けてきた。

 彼女を奉じる神殿の教典には、彼女に関する逸話が多く収められている。


 本来なら、穏やかなかんばせで人を眺める女神様であらせられるが、その性分は傷つきやすく繊細な様子である。

 かつて、このような事があった。


 酒場である酔っ払いがくだを巻いていた時。


「女神様がなんじゃい! ただ綺麗なだけの女じゃねぇか!」

「そうじゃそうじゃ! 人が猿から生まれたなんて嘘っぱちじゃい!」

「ただ長く生きてるだけで、本当に人を創ったとは限らねぇじゃねぇか!」


 人の誕生を明かし、日が浅い事もあった。

 人の成り立ちに衝撃を受け、その事実に彼らは反発したのだ。

 そんな彼らに声をかける者があった。


「失礼な。嘘ではないぞ」


 酔っ払い達が振り返ると、薄汚い場末の飲み屋に女神様が降臨なされていた。

 人々を見守る権能を以って酔っ払いの言葉を察知し、それを正しに来たのだ。

 酔っ払い達は女神様の持つあまりの気高さに酔いが覚め、その場で平伏したという。

 酒場中の人間が平伏す中、女神は光と共に去って行った。


 また、こんな話もある。

 反女神主義者の集会での事。


「今の堕落した社会が存在するのは、全て女神が戯れに与えた恩恵のせいである。我々は女神からの脱却を図らねば、いずれ怠惰の海へ沈む事となるだろう! だから我々は提唱する。女神不要の論を!」

「そうだ、全ては女神が我々人類を堕落させるための謀なのだ! 女神などいらない!」

「世に貧困が蔓延るのも、社会悪が消えないのも全て女神のせいだ!」

「子供が泣き止まないのも、最近体の節々が痛いのも全部女神のせいよ!」


 主張を張り上げる反女神主義者達。

 そんな彼らの前に女神が現れた。


「待て。言いがかりにも程がある」


 女神の威光に思わずひれ伏した彼らが再び顔を上げた時、そこにもう女神の姿はなかったという。



 女神様いわく、自分は星の意思であるという。

 そして、この宇宙には多くの星の意思が存在するという。

 この星で人を導くにあたり、参考にしたのはある遠く離れた場所にある一つの星なのだという。

 そこではこの星のように、人間が地上の支配者となっているらしい。

 その星の意思とは旧知の仲であり、先達の者として頼ったのだそうである。


「あの方は、創るだけ創って放置しておったがな。何がしたいのやらわからん。そのせいで、自分と関係のない「神」と呼ばれる存在が世界を創ったなどと人間達は勝手に思っておる。本当に何がしたいのやらわからん」


 在りし日に、女神様はそう漏らしていたという。

 それが本当であるならば、女神様と密接に関わる事のできるこの世界はとても幸せな事だろう。

 女神様がどのような意図で人類を創ったのか、その意図を察する事は恐れ多い事ではあるが、このように多くの恩恵を与えてくれるのだから人を愛してくれている事には違いないだろう。




 そんな女神様によって、先日ある危機を知らされる事となった。

 いわく――


「十年後。この星に、巨大な隕石が接近しておる。隕石はこの星の物ではないので、ワシにはどうする事もできぬ。そなたらの知恵で退けよ」


 世界中に発せられたその言葉で、人々は隕石から星を護る研究を始めた。

 それは女神からの試練である、と人々は解釈した。

 人類は奮起した。

 世界中の科学者は隕石を退ける方法を考え、技師達はその考えを形にし、それ以外の者達はそれを自分のできる範囲で支えた。

 そして、九年と少しの時間を要し、人類は隕石を破壊するミサイルを完成させた。

 ギリギリに完成したそのミサイルによって、隕石は見事に爆砕する事ができた。

 これも女神様が前もって、隕石の存在を知らせてくれたおかげである。

 女神様の恩恵がある限り、この世界は不滅であろう。

 私は今日この日、その事を強く実感した。



               女神神殿神殿長 著  神殿日記の記述




「ふぅ、ようやく終わったのう」


 長い仕事が終わり、ワシは一息吐いた。

 そのまま、見渡す限りの草原の真ん中で仰向けに寝転ぶ。

 ワシが隕石の接近を察知したのは、一億年ほど前の事。

 間違いなくこの星にぶつかるルートで隕石は流れ続けておった。

 星を潰されれば、その意思であるワシは消滅してしまう。それは由々しき事態じゃった。

 ワシはこの星において不可能な事がないと言える程の力を持っておるが、星の外にある物はどうしようもなかった。

 どうにかできないか、とオロオロしておった時に、ワシは友人の事を思い出した。

 彼女の話では、人間という種族を創り出した所、瞬く間に知恵をつけて星の外へ出て行く程の力を持ったという。

 ならばワシも同じようにすれば、人間が隕石を潰すための道具を作り出してくれるかもしれない。そう思った。

 というわけでワシは人間を創った。

 そして見事、人間は隕石を潰してくれたのだ。

 ありがたい事じゃ。

 しかし、もう目的を果たして用がなくなったので、人間はいらない。

 今しがた、派手な地殻変動を起こして全滅させた所だ。

 その後、大地を整えてから隔離していた野生動物達を放逐し、何とか自然溢れる星に戻す事ができた。

 人間の造った見苦しい建造物も全部ならしてやった。

 じゃから今は、この星にいる知的な存在はワシだけじゃ。

 この静寂がワシは好ましい。


 野生動物達がワシに寄ってくる。

 近づいてきた鹿の顔をワシは撫でた。


「おお、愛い奴じゃ。やはり、何も言わぬ動物の方が可愛らしい。知的生命体など煩わしいばかりよ。やつら、事あるごとに話をしたがるからのう」


 ワシはただただ、言葉のない世界で戯れたい。

 この静寂の世界を愛でていたかった。

 また隕石が迫って来ないかぎり、あと数億年はこの愛しい世界が続くじゃろう。


 あの煩わしい生き物の相手をせねばならぬのは億劫ゆえ、隕石が来ない事を今は祈るばかりじゃ。


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― 新着の感想 ―
[一言] ずいぶん人間臭い神だな、と思っていたら最後の選択がすごかった。 この傲慢な傍若無人ぶりを神らしいとするか人間らしいとするかは読み手によると思うけれど、どちらともとれそうな辺りが面白い。
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