▶ 諦めない
この作品はキャラクターエッセイです。もし同一の名称があった場合も、実在する人物及び団体とは一切関係ありません。
成功するチャンスが目の前に訪れても、自分には無理だと断念してしまう魔法使いが世の中には大勢いる。魔法使いと言えども千差万別の職業が存在していて、誰しもが待遇が良くてボーナスの高い職場を目指しているであろう。僕自身も昔は成績が良ければ成功するだろうと浅はかな考えを抱いて死にもの狂いで勉強した。その結果、魔法学校を主席で卒業して、王覇師団と呼ばれる大手に就職した。最初の内は自分の夢が叶ったと舞い上がって調子に乗っていた気がする。周りの人間から「お前は将来、魔法界の象徴的な人物になる」とお世辞を言われて真に受けるぐらいの愚か者だったのだ。しかし、夢を叶えた所で待っているのは挫折の連続だ。職場では予期せぬ事故が多発し、たくさんの同僚達が深刻な怪我を負った。王覇師団は魔法界を代表する戦闘集団であるため、高難易度の悪魔討伐依頼が世界各国から送られてくる。依頼のほとんどが命を落としても不思議ではない無茶な内容ばかりだ。そのためか、職場では常に緊張感が漂っていて息苦しい毎日が続いた。学生時代という最高のぬるま湯に浸かっていた自分には、現場の雰囲気がとてもじゃないが耐えきれなかった。仕事が終わって家に帰っても身体中に鳥肌が立っていた。夏真っ只中でも寒気がして、布団の中で半日近く包まる日々。緊張のあまり食道に物が通らず、社会人生活一ヶ月目にして10キロ近く体重が落ちてしまった。周りの人間は「お前は良くやっている」と褒めてくれるが、理想としている自分像とはあまりにもかけ離れていた。今思えば自分の能力に過信し過ぎていたのかもしれない。最初から完璧な人間など何処にも存在していないのだ。それでも自分は遥か高みを目指して、現実とのギャップから圧迫感を感じていた。
このように、達成不可能な夢を抱き続けると心身共に衰弱して、最終的には将来の夢を断念するという不測の事態が訪れてしまう。最初から高すぎるハードルを設置しても飛べないように、夢のハードルもまた同じだ。理想の自分に近づくためには、出来る範囲の事をひとつひとつクリアにしていく事が重要だ。少なくとも僕はそう思い直して努力を続けた。もしもあの時、自分の夢に圧迫され続けていたとしたら、今の自分はいなかったと断言出来る。きっと辞表出して何処か遠くの場所で自分探しの旅にでも行っていただろう。そうならなかったのは目標達成のハードルを下げたのが要因である。魔法使いとしてまだまだ発展途上なのだと自覚し、永遠の挑戦者でいようとする覚悟を決めたからこそ、現時点での立場に繋がったと確信を得ている。王覇師団の最高責任者となったからには新米時代とは比較出来ないストレスとフラストレーションは感じているが、以前ほどの絶望感は皆無だ。目の前の仕事を精一杯にこなしていけば、自然と退社時間になっている。だから諦めずに積極的に行動するのが大事だ。