第四章「鉢合わせのバトル」ー1
「はっ!寝過ごした?」
思わずベッドの目覚まし時計に目を向ける。
時計は19時を10分過ぎたところだ。
巡回の仕事は20時からだからまだ余裕がある。
ほっと胸をなでおろすと、部屋を出てリビングへ向かう。
「優雅、もうちょっと寝てたら起こしに行ってたところだぞ。さ、なっちゃんの夕食がお待ちかねだ」
ダイニングテーブルには和洋折衷豪華な料理が並んでいる。
「明日から俺たちはいないんだ。魔法少女の仕事もあるだろうが、家族団らんの食事を楽しもうではないか」
父さん・・・まともなことを言っていそうに聞こえるけど、涎たれ過ぎ・・・。
そっとしておこう。相当腹が減っているみたいだし。
右手のお箸をグーで掴んだままテーブルをバンバン叩かんばかりの勢い。
幼稚園児化してる。
「クロノ~お前も早く席に着け。ご飯だぞ~」
「師匠!わかりました~」
父さん、師匠って呼ばれているんだ・・・。
「そう慌てないでください、英雄さん。さ、これで全部そろいましたよ~」
「待ってたぞ、なっちゃん!さ、食べよう」
「いただきます」
時計を見ると19時20分を指している。
あまり時間もないな。
巡回の時間を守らないと後で真琴さんに怒られるし、さっさと食べよう。
「さて、行きますか・・・」
僕はお茶で胃を落ち着けたところで椅子から立ち上がる
「優雅、変身!」
がしっと父さんが両肩を掴んできた。
「えっ、ここで?」
「そうだ、なっちゃんにも久々にお前の艶姿見せてやれ!」
「そうよ、母さんも優雅の魔法少女姿、久々に見たいわ」
「ユウ~。私もみたい~」
「な、なんでここでしなきゃいけないの?恥ずかしいよ」
「恥ずかしがることはない。お前も男だろ。そして魔法少女だ!」
決まったといわんばかりに僕を指さして決め台詞を言ったつもりだろうが・・・。
「そうよ!優雅、英雄さんみたいに立派な魔法少女にならなきゃいけないんだから。恥ずかしがらずに!」
母さんも目が爛々に輝いているよ・・・。
「母さん、そこ同調するの?」
「私はいつでも英雄さんと心は一緒です」
「体もだろ?」
「まぁ、英雄さんたら・・・」
ピンク色の雰囲気を醸し出す二人。
仕方ないか、ややこしくなりそうだから折れておこう。
「わかったよ・・・」
僕は、両腕をクロスさせ静かに振り下ろしながら
「霊装装着・・・」
そう囁くと、体を光が包み込んでいく。
その光が弱くなってくると徐々に、僕の「魔法少女 トゥインクル・ミラージュ」が姿を現す。
魔法少女への変身の一部始終を三人が正座をして見ている。
なかなかシュール。
装着を終えると、母さんが感極まったかのように抱き付いてきた。
「優雅が、こんなに立派になって・・・」
「ちょっと、母さん。抱き付かないでよ。毎回そうなんだからさぁ」
何が感動しているのかわからないけど、母さんを振りほどく。
「ご、ごほん。優雅」
わざとらしい咳払いと共に父さんが僕に
「そのなんだ・・・今日からクロノも同行することになる。彼女は初めてだから、その・・・やさしく・・・な?」
な?じゃない。
「クロノ、がんばるから!や、やさしくしてくださいね・・・ぽっ」
ぽっじゃない。そして、もじもじしない!
なんだこのピンク色っぽい路線は・・・。
父さんは元々だが、クロノは絶対「師匠」と崇め奉る父さんの影響だ。
めんどくさい・・・。
「帰ってきたらお赤飯ね」
何の祝いだ、母さん!
そしてあなたもですか・・・。
脱力感満点の僕とは対照的にクロノはテンションが高い。
「私も変身します」
ふんと鼻息をならすと、クロノの来ていた服が一瞬にして床に落ちた。
中からモゾモゾと「カラスの」クロノが出てきた。
多分、人間に戻るときには裸なんだろうなぁ・・・。
そう思うとまた面倒が増えた気がした。
いちいち変身の度に衣服をアジャストされてはこっちが困る。
何とかしないとなぁ。
「じゃあ行ってきます」
「おうがんばってこい!」
「帰ってきたらお赤飯だからね!」
母さん、もう引っ張らなくていいですよ。
僕は庭に出るとアルミの物干しざおを手に取ってそれに跨る。
「あれ?ユウ、箒じゃないの?」
その光景にクロノがあっけにとられている。
「うん。別に決まってないもん。クロノも乗って」
箒で飛ばなければいけないという規定はどこにもない。
だから、僕は大抵身近にあるもので、またげそうなものがあればそれを使って仕事を行う。
だからデッキブラシだったり、この物干しざおだったりと時と場所をわきまえて使っている
意外と物干しざおは使い勝手がいい。長くて、硬化魔法を付与すれば武器としても使えるから。
「優雅な。型破りな奴なんだよ。クロノ・・・」
腕組みしながら何を納得しているのかわからないが、父さんにだけは言われたくない。
あんたも大概だよ・・・。
目を閉じ、物干しざおに意識を集中させる、離陸の瞬間だけは集中しないと飛べない。
波のない湖面をイメージし、そこに一滴のしずくが落ちて広がるイメージを作る。それが僕の飛ぶときの集中するための方法だ。
ポタッと一滴、湖面に落ちる。湖面に輪を作った波紋が広がっていく。
今だ!
ドンと地面を蹴る様にジャンプするとそのまま垂直に飛んでいく。
「じゃあ行ってくるね!」
「おう!気張ってこい!」
「行ってらっしゃい!気を付けてねぇ」
徐々に両親の姿が小さくなっていく。
一応心配していてくれているのだろうこちらから姿見えなくなるまで二人とも見送ってくれるみたいだ。
「よしっ。行こうかクロノ!」
「あい!」
何もない事を祈って出発進行っと。
先端にカラスを乗せた僕は夜の街に飛び出していった。




