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第三章「魔法少女 草薙伊莉栖」-1

「ふぅ~。終わったぁ・・・」

 6時間目のチャイムが流れると同時に僕は机へ突っ伏した。

 いつも疲れている気がするけど。いや実際「夜の仕事」で疲れてはいる。

「夜の」仕事というとまた何か違う意味があるな。 

ただ、今日は一層きつかった気がする。


 その理由は。契約の儀式を終え僕が意識を取り戻したところへ遡る―――


「おっ、優雅が起きたぞ!」

 視界が徐々にはっきりとしていく中で父さんの声だけはやけに大きく聞こえた。

「ユウ~。死んだかとおもったよぉ」

 涙目で抱き付いてくるクロノだが、抱き付ぎ具合に手加減がない。抱き付くというより巻き付いて締め上げている。腰からきしむような音がする。抗う力もないので口からグテーとえびぞりなった。

「クロノ!それくらいにしてやれ。また気を失う。優雅、なっちゃんも心配しているぞ。顔を見せてやれ」

 父さんに促され僕は母さんに見る。

 母さんは両手を祈るように組んだまま涙を流している。

「契約とはいえ、あの儀式だけはオレも苦手なんだ・・・」

 ポリポリ髪を掻きながら、済まなそうに父さんは声をかけてくれた。

「聞いたことがあって、どういうことになるかわかってはいたけど、凄いことになるんだね」

「あぁ。百聞はなんたらってやつだな。」

「一見じゃない・・・?」

「そうそう、それそれ」

 儀式の壮絶さをごまかす様に軽いおちゃらけを入れてくるのが父さんらしいといえばらしい。

「さて、まだ傷も癒えていない中で言うのもなんだが、晴れてお前とクロノは主と使い魔になった。おめでとう」

「あぁ、ありがとう」

 差し出された右手に応える様に握り返す。

「まぁ、魔法少女って大抵使い魔はいるもんだから。お前は、今まで異常事態だったといえば異常事態だったんだがな」

「それも、オレの強い魔力を受け継いだ証拠だ」

「う、うん・・・」

 ん?違う路線に行こうとしている?

「そうよ、英雄さんのお蔭で、優雅も立派な魔法少女に成れたのよ」

 やっぱり、夫婦ラブラブ路線への変更だ。

この夫婦はいつまでたってもベタベタしたラブラブカップルだ。否定しようものなら母さんは泣いてしまう。

「う、うん・・・まぁ・・・そうだね」

 一応表面上の同意はしておこう。

「だろ、両親を敬い奉れ」

「そこまでは言っていないね」

「む、優雅。ちょっと捻くれたか?反抗期か?ん?」

「違います・・・」

「まぁいいや。これから、お前たち二人はいついかなる時でも連携が取れるよう一緒にいる必要がある」

「えっ?」

「であるからぁ~。クロノには学校に通ってもらう」

「ちょ、ちょっとまって。なんでそこへいきなり飛んだの?」

「何か問題でもあるのか?」

「いや、そうじゃなくて・・・」

「なら問題ないだろう。なぁクロノ?」

「はい。ユウといっしょにいられるならクロノはうれしすぎです!」

「だそうだ」

「いや、元々カラスだったでしょ?人間生活とか・・・」

「そこのところは大丈夫だ。俺がみっちり教え込んだ!」

「はっ?」

「だから、俺がみっちり教え込んだといっているんだ。俺たちに同行して、お前の使い魔になるためにクロノは頑張ったんだから、優雅も褒めてやれよ。可愛い使い魔の事をさ」

「初めて聞いたことがいろいろあるけど・・・」

「あぁ?文句あるのか?」

「ないない。ないよ。でも編入手続きとかは?」

「ん?それは済んでるぞ。心配する必要なし!わかったか!」

 色々と状況は詰みなのね。諦めるしかないか。

 こういう時だけ瞬発力を発揮する父さんには困ってしまう。

「はい・・・了解いたしました・・・」

「よし、この話は終了!明後日から俺たちはまたフィールドワークに出るから。明日はその準備でいないし。これから優雅!しっぽりやれよ!」

「英雄さん、直球すぎます・・・」

「若いんだからそれくらいがいいんだよ。なぁ、なっちゃん・・・これから俺らも・・・」

 しっぽりってなんだよ・・・。父さん、思春期の子供の前で生々しいよ!

 突っ込みを入れようとしたところで体がいう事を聞かなくなってきた。儀式の後遺症なのだろうかまた、沈むように意識が潜っていった。


 気が付いたら僕はベッドに運ばれていて、時計は朝8時を指していた。

 またギリギリ着くか着かないかの局面だ。


「なぁ。なんで隠してたんだよ」

 勝が恨めしそうに僕に向かって囁く。

「何が?何も隠して―――」

「いやいや、黒乃ちゃんだよ。相当レベルの高いスペックの持ち主だぞ。お前の従妹。」

「そうかぁ?」

「何言っているんだよ、ユウ。灯台下暗しってやつだぞ」

 ふむ・・・。6時間目のチャイムが鳴り帰ろうとするクラスメイトの中で、クロノの机の周りには何人かの女子が囲んでいる。

 笑顔を振りまいて無難に対応しているみたい。

 僕としては一安心している。

 人間として生活するための最低限は習得しているみたい。ただ、父さんたちの下での話なのでいつぼろが出るかわからない。

 破天荒だからなぁあの人は・・・。

 頬杖を着きながら明るくふるまうクロノは元々そこにいたかの様に馴染んでいる。

「ごめんあそばせ。賀茂優雅はいらして?」

 教室の入り口から優雅で気品のある「学校では」聞くことない声が耳に入ってきた。

 その声に僕は視線を向ける。

 彼女と目が合った。

 つかつかと別クラスに躊躇なく入ってくる女の子、足取りも気品に満ちている。

 歩くたびに輝く様に肩まで流れるせせらぎの様な金髪が左右に振れ、それ以上に彼女が持つ自己主張の激しい胸が上下に揺れる。

 金髪青目の彼女の名前は、草薙伊莉栖。

 僕と同じ「魔法少女」だ。

 僕の目の前に立った伊莉栖はふてぶてしさをむき出しにして腕を組んだ。

 組んだ腕からこぼれんばかりの双璧がより主張してくる。

 しかし彼女は意識していないからたちが悪い。思わず目をそらしてしまう。

「賀茂優雅。ちょっと顔貸しなさい」

 相変わらず放たれる言葉は乱暴ですね・・・。

「はぃ・・・。わかりました」

 抵抗すればどんな目に合うか想像もできないので素直に鞄を持って席を立つ。

 クラスメイトはその光景に唖然としている。

 まぁ、ありえない組み合わせだから仕方ないといえば仕方ないか。

「おぃ、ユウ。姫とはどんな関係なんだ?」

 ぼそぼそと勝が聞いてくるが答える余裕がない。

 草薙伊莉栖はその容貌から「姫」「お嬢様」「御姉様」と様々に呼ばれている。

 実際、クサナギホールディングスという世界に名だたる企業のご令嬢だし、間違ってはいない。

 毎日送迎に必ずリムジンが校門へ横づけされるのだから、もっと成績の良い学校に通ってもいい気がするが、なぜか公立高校に籍を置いている・・・。

 会話しないのでその理由は聞いていないけど・・・。

「これについてはまた今度ね」

聞こえないように去り際、勝に告げる。

「何ぼそぼそ言っているの?いいから着いて来なさい!」

「はいはい・・・」

 ぷいっと振り返ると僕に関係なく歩き始める。

 はぁ・・・。めんどくさいなぁ。

 一切振り向くことなくずんずん進んでいく伊莉栖。

 彼女の後ろを歩いていると、ふんわりとした甘い香り漂ってくる。

 歩く姿に男女問わず目を奪われている。

 まぁ・・・・仕方ないよね。

 立てば何チャラ座れば何チャラ・・・何チャラが多いな。


「どういう事でございますの?もやしに使い魔はいなかったはずなのに、どういう風の吹き回しかしら?」

 人影のない体育館裏に着いたと思ったら振り向きざまに伊莉栖がそんな疑問を投げかけてきた。

 腕を組んだまま、その語気にとげとげしさがビシビシ伝わってくる。

「あぁ~。ちょっとね。その件については、僕も突然のことだったので―――」

 どう説明しようか言いよどんでいると間髪入れず、

「それに、ご自分の使い魔を人間に化けさせて、入学させるなんて・・・。まさか、一日中ずっと・・・。け、汚らわしい」

 汚物を見るような目で僕をにらみつけてくる。

 少数の偏った性癖の人たちからは「この目が良い!」と大変評判の良い目だ。

 僕にとっては厳しいけど・・・。

 まぁ色々、想像力豊かななのかもしれないが、釈明しても結局否定されるのが分かっているのでやめておこう。

「要件はそれだけ?草薙さん」

「それだけって・・・。あなた!わたくしをバカにし。少し魔力が強いからって上から目線で見ないでくださる?もやしの分際で」

 普段一方的に敵対視されているし、僕としては言葉を選んだつもりだったんだが、結果として逆鱗に触れてしまった。

 あちゃ・・・脳内で思わず頭を抱える。失敗したぁ。

 彼女から僕は「もやし」と言われている。

 身長こそ平均的なのだが、彼女から見て僕は自我がないみたいになよなよしている様に見えるらしく、そこが気に入らないみたい。

 それに、僕の方が彼女より強いに・・・っていうのが一番の理由なのかもしれないけど。

「ふん、まぁいいですわ。わたくしの邪魔だけはなさらないでくださいよ。もやし」

 踵を返して校門の方に向かって歩き出す。校門前に止めてあるリムジン乗るとそのまま走り去ってしまった。

 結局何がしたかったんだか・・・。ぼーっと彼女を眺めていると背中から黒い影が飛び込んできた・

「ユゥ~~~。探したよぉ~~。帰ろ!疲れたぁ~~」

 僕の首にぶら下がるようにクロノがつかまってきた。

 クロノの動きを見ているとちっとも疲れている雰囲気を感じないけど・・・。

「じゃあ、帰ろうか」

「うん!」

 嬉しそうに白い歯を見せながら絡みついているクロノは笑顔で答える。

 何事もなかったかのように僕たちは校門を出た。

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