第二章「恩返しに」-1
箱から出てきた女の子は、クロノと名乗った。
「クロノ・・・?」
僕は眉をひそめて、彼女をまじまじと見つめる。
じーっと見つめるとどうしても胸元に目が行ってしまうのは男の性だろう。
でもなぁ・・・。
手を顎に当てながらそうしていると彼女は恥ずかしそうに顔を逸らせる。
確かにクロノという―――。
でもあいつはカラスだよなぁ?
左足に赤い紐をつけたカラス―――
5年前、巣から落ちぐったりしている子ガラスを助けた記憶がよみがえってきた。そのカラスに僕は、「クロノ」と名付けてしばらくの間世話をしていた。
次第に元気を取り戻し、日ごとに大きくなっていくクロノを微笑ましく思っていた。
僕を親だと勘違いしたのか、よく後ろをぴょこぴょこついてきていた。休みの日に寝ていると、起きろと言わんばかりに顔をつつかれた。
楽しい日々だった。
それが、去年突然終わりを告げる。クロノがいなくなったのだ。
家じゅう探したが見つからず、近所の行きそうなところはどこにもいなかった。
言葉にして表現しがたい悲しさは今でも残っている。
が、クロノと名乗る女の子が目の前にいる。カラス・・・ではない。
「あのさ・・・」
「はい、ユウ。なんでしょう!」
待ってましたとばかりに身を乗り出して半裸の女の子が僕に迫ってくる。
前かがみになっているので、胸元の谷間がくっきりと自己主張してくる。
なるべくみないように・・・。
この光景を第三者に見られたら確実に捕まってしまう。
犯罪者になっても嫌だ。
「クロノ・・・さんは僕の事知っているの?」
「はっ?なんでユウはそんなこと聞いてくるの?クロノはユウの事たくさん見てきたのに」
頬っぺたを空気一杯に膨らませる様に不満を露わにする。
「いや、僕の知っているクロノはカラスで・・・」
「ユウ!正解!」
ビシッと人差し指を一本僕に突き付けそのまま覆いかぶさってきた。
「ぶわっ!なに?なに?」
「ユウが覚えていてくれたからうれしくて抱き付いちゃった」
「えっ。ほんとにカラスのクロノなの?人間なのに?」
「そうだよぉ~。疑り深いなぁ。ほら見て」
クロノはすっと左足を見せ、足首に結び付けられている赤い紐を指さす。
「きつくないの?」
「そっちじゃない!これはユウがクロノにくれたものでしょ。忘れたのぉ?」
忘れるわけはない。でも、つけたのは「カラス」のクロノにだ。
納得のいっていない雰囲気にしびれを切らしたのか、
「わかった。これならいいでしょ」
ポンと破裂音と彼女の体が輝く共に目の前から女の子がいなくなった。
残っているのは、僕が羽織らせたブレザー。
その中でガサゴソと何かがうごめいている。
出ようとしている?
ブレザーをどけるとそこには赤い紐を足に結んだカラスがいた。
クロノだ。
まさしく僕が助けたクロノだった。
懐かしさがこみあげてくる。
正体が理解されたのを確認するとクロノの体は輝きだし女の子の姿に戻った。
「ね?これでわかった?」
また、全裸になってるクロノが参ったかといわんばかりに自慢げにしている。
いろんなところが主張しているから!
瞬時に目を背けて、
「わかったから。とりあえず、これ着て!」
ブレザーを再び羽織らせる。
「ん。ありがと、ユウ。やさしいね」
無邪気な笑顔がこちらに向けられる。確かにこの娘は「カラス」のクロノなんだ・・・。
でもどうして、また帰ってきたんだろう。
「とりあえず、その恰好じゃまずいから、服持ってくるね。ちょっと待ってて、おとなしくしているんだぞ」
「うん!わかった~」
明るく答えるクロノをリビングに残し二階へ。
シャツとズボンでいいか・・・間に合わせでとりあえず・・・。
じゃないと僕も男子高校生。どちらかといえば草食系カテゴリーに入るけど、それでもまずい。色々と・・・。
両手で頬を軽くたたく。
あれは・・・カラスだ。人間じゃないんだ。




