第十章「対峙」-3
「賀茂式呪法結界、発動」
僕は敷地全面に半球体の結界を張り巡らせる。これで誰も被害は受けない。
もう一度冷静に周囲を見回してフェルシーナと向き直った。
彼女はまだ見えていない。倒すなら、今しかないのかもしれない。でも、体が瞬時に動かなかった。使い魔崩れとはいえ心あるものだ。消すことが出来るのだろうか。
「んん~~・・・あなたも卑怯な手を使うのですね」
ようやく見えだしてきたのだろうフェルシーナは覆っていた手を広げる。表情はあからさまに悔しそう。
「そりゃお互いだろ。どちらかといえば俺は狡猾って言ってくれた方がうれしいかな。リンクは外させてもらったよ」
「そのようね。あっさり過ぎて詰まりませんわ。残念」
「これで、ようやく戦えるから。あんたの捻じ曲がった根性、叩き直してやるからな。覚悟しておけよ」
「綺麗な言葉遣いは習わなかったのかしら?優雅君?」
「フン、知るか。こっちも本気になるとなぜかこうなるから。嫌なんだけどな。フォームチェンジ、ソード!」
僕は剣を構えて。
「あの人の子らしいわぁ。惚れちゃいそう・・・さぁ、始めましょうか。久々の対人戦ですわ!」
地響きみたいな音と共に煙が吹き上がりその中から彼女が微笑みを浮かべながら飛び掛かってきた。
予測していたより速い!
気が付いた時には僕の目の前には杖を振り下ろす彼女がいる。
「ぼーっとしていると殺されますわ」
ボコッ!
ん!
「ぐはぁ!」
目の前の事が出来ないまま僕は息ができず、くの字に降り曲がる様に前のめりに倒れる。
「あら?意外と弱いのですか・・・。その程度で倒れるなんて」
フェルシーナは拳法家か何かと間違う位の思い掌底をみぞおちに打ち付けてきた。
反則でしょ・・・。魔法じゃないじゃん・・・。杖も関係ないし。
「魔法少女がそんな恰好して・・・。はしたないですわよ!」
そういうと呻いている僕の腹をけり上げられて、仰向けに地面へ叩きつけられた。骨でも折れたかな・・・。言葉にならない痛みと嘔吐感が止まらない。
使い魔くずれと戦うのは初めてだって言うのに、まぁ相手が手加減してくれるなんてありえないから仕方ないのか・・・。
息を整える暇もなく、不気味な笑みをたたえながらブロンドの使い魔くずれが覗き込んでくる。
「もう終わりですかぁ?そろそろ、殺しちゃっていいですかぁ?あっけなくて残念ですが止めさいちゃいますよ~」
彼女は10メートルほど後ろへ飛ぶ。
「やさしい私が選ばせてあげますよ。圧死がいいですか?失血死がいいですか?それとも一本一本、指を折ってあげましょうかぁ。止めを刺すって言っても、簡単に済ませるつもりもないですからぁ。」
「がはっ・・・ど、どれも嫌だね。貰い事故みたいな形なんて、さっきので痛すぎなんだからこれ以上は勘弁ってところだけど・・・。そうはいかない?」
「いくわけないでしょぉ~?わたくしは苦しむ顔が好きでしょうがないんですからぁ~じゃあ、動きをとめますねぇ~」
「ちょっと、人の話・・・ぐはぁ!」
何も言わせない気か。
僕は鳥居の額束にはりつけにされるように吹き飛ばされる。
ざっと高さは十メートルはあるだろう。初見の時のそれと一緒で見えないものに無理やり抑え込まれて身動きが取れない。
成す術なしかな・・・。声を上げることもできない。口が開かないようにしているんだろう。万力が何かを抑える様にギリギリと僕への圧力が強くなっていく。
フェルシーナはゆっくりと僕に近づき頬へ口づけをする。彼女の中では別れのあいさつなのだろう。
「もうちょっと楽しませてくれてもよかったのに・・・じゃあ、どこからいきます?」
答えようもないのに聞いてくるあたりが何とも捻くれている。
「フムフム・・・。わかりましたわ。左足からいきましょうか」
こういう光景を以前テレビで見たことがある。その時は特撮ものだったけど、その時のヒーローははりつけにされて一度やられたんだっけ・・・それで・・・仲間に復活させてもらって・・・。 ここにきて現実逃避か?
「じゃあ、死にたいと懇願するような苦しみを与えていきますねぇ~」
覇気のないけだるい感じの声と共に黒く鈍く光る刃が出現する。杖が振り下ろされ、空気を切り裂くようにそれが僕へ向かってくる。
あぁ~・・・痛いんだろうな・・・。
他から見ていると一瞬なんだろうが、なぜかスローモーションに見えてきた。
「なんで、使い魔を蚊帳の外にしておくんですか!ユウ!」
耳元で聞きなれた元気のいい声がした。
と同時に、僕に向かってきていた刃が何かに振り落され、力を失い形をなくしていく。
あぁ・・・。そういえば忘れてた。僕に使い魔がいたんだっけか。
「解除しますからね。衝撃に注意してくださいね!」
強制力を失った僕の体は鳥居から切り離され落下していく。
ダイレクトに叩きつけられた体から傷ついた骨やら内臓が悲鳴をあげた。
「ユウ大丈夫?って、結構ボロボロ?」
心配していそうにない感じで声を掛けてくれるのが救いか。
「結構どころじゃなくボロボロ・・・。あとちょっとでやられるところだった」
「っぽいね。迷惑かけたくないのはユウらしいけど、私使い魔だからね!そこのところ忘れたら嫌だよ!」
「そうだね・・・」
「そうですわ!草薙伊莉栖参戦いたしますわ」
後ろからブロンドの髪をなびかせて顔を真っ赤にして現れた。
「もやし!前々から申し上げようと思っておりましたが、自分の事を軽く考えすぎですわ。わたくしを助けてくれた時はもっと・・・」
「お嬢様・・・。そのデレッぷり、新鮮です・・・」
メイド姿のソワールが薙刀を携えて頬を赤らめている。
「あらら~~。せっかく優雅君と二人っきりのデートを楽しんでいるのに、とんだ邪魔ものでございますわねぇ~」
「クロノはユウの使い魔だから、ユウがピンチなら駆けつけちゃうんだから!ね?ユウ?」
「う・・・うん・・・」
立ち上がろうとするが、体中が痛くて動けない。
「優雅様、しばしお待ちを・・・」
スッとソワールが近づいてきて僕の腹に手を当てる。
彼女の手が仄かに光はじめ次第に痛みが引いて行く。
「ソワールは、回復魔法もできるのですよ。ありがたく思う事ね」
「そうです・・・。お嬢様はイノシシの様な性格ですので、気苦労が堪えません・・・」
「ソワール!」
「失礼いたしました。お嬢様」
戦いの場でも相変わらずなんでちょっとほっとする。
「優雅様、痛みは消えたかもしれませんがあくまで応急処置的なものなのであまり無理されないでください」
「ありがとう、ソワール。このお礼はきっちりするから・・・」
「であれば、お嬢様に―――」
「えっ?」
「お嬢様の事を気にかけてあげてください。あのお方はあなた様のこ―――」
「ソワール!」
「申し訳ありません。それはご本人が申し上げるのですね・・・。失礼いたしました」
「なに?伊莉栖」
「なんでもありませんわ、それより・・・」
「訳の分からない話を聞かされている立場になってもらいたいものね・・・。我慢の限界だから、みんな壊しちゃうよ」
邪魔をされて苛立っているフェルシーナが杖を構えなおしてこちらを見据えている。
「おもちゃを取り上げられた気分ですわ。まぁ・・・でもみんな結局壊れちゃうんですけどね」
「言っておくが俺はもうそう簡単には倒れないからな。思い通りになると思ったら大間違いだぞ。フェルシーナ」
「ユウ?ほんとにユウなの?言葉遣いが変だよ?」
「もやし!」
「優雅様があんな・・・。普段とのギャップがまたあってこれはこれで・・・」
ギャップねぇ。そんなことを気にしていられない。
口元を三日月の様にして笑いゆらゆらと左右に揺れるフェルシーナ。
さっきは不意の近接戦闘だったけど、今度は見切る。もう負けない。
「クロノ、あいつの背後に回って・・・」
「わかった。でも、ユウは?」
「俺は突っ込む!」
他の人が苦しむのは嫌だ、巻き込みたくない。こんな状況でもそれが頭から離れない。なら・・・こうするしかない。
地面を蹴りあげてフェルシーナへ迫っていった。
ブレスから剣を取り出して突き立てる様にして喉元へ。
しかし、笑みをたたえたまま防御結界を張って、寸でのところで防ぐ。
「考えなしに突っ込むのはダメですわよ。」
「そうかな?」
バサッ。フェルシーナの背後から羽を生やしたクロノが飛び膝蹴りを繰り出していく。
「ど~~せいっ!」
「だから突っ込むのはダメだといっているでしょう」
右手に持つ杖を巧みに操りクロノの一撃をはじく。
よしいまだ!
「伊莉栖!」
「分かっておりましてよ!爆裂烈火紋」
伊莉栖は僕を踏み台にしてフェルシーナの上から魔法を放つ。
それに一瞬気を取られたのか下に魔法陣が浮かび上がったことに気が付かない。
注意を逸らせた攻撃がフェルシーナを竜巻の様な炎になって飲み込んでいく。
両手がふさがっている上にフェイントを入れているので攻撃のすべてを受ける形になる。僕も騙されてしまった・・・。てっきりスティックの先から出てくるものかと思ったよ。
「紅蓮の炎に燃やし尽くされてしまいなさい!もやしだけに!」
決め台詞っぽいのに最後のダジャレはいらなくないか?
炎の消滅と共にフェルシーナも消え去っていた。
「ちょっと髪の毛燃えちゃったぁ~~」
クロノが憎々しそうに伊莉栖を睨む。
僕は僕で、腕を火傷してしまっているし。
「戦いの代償ですから、致し方ありませんわ」
大きな胸をより一層強調するように腕組みし高笑いを始める伊莉栖。
「そんな~~」
クロノががっくりと肩を落としている。
「まぁ、良いじゃない。みんなの力でできたことなんだし」
うなだれているクロノの肩に手を置きなぐさめの言葉をかけてあげる。
「そうですわ。にしても、もやし!なぜもっと早く連絡しなかったのですか?」
むぅ・・・。それを言われると言い訳できないな。
「申し訳ないです・・・」
「優雅様、もっとお嬢様に心をこめて謝罪してください。お嬢様の慌てぶりが尋常ではなかったので、抑えるのも大変だったんですよ」
「ソワールもごめんね」
「もやし。これからはあんまり一人でなんて考えないで・・・その・・・もっと・・・」
伊莉栖が何だか言いにくそうにしている。
「お嬢様、そこははっきりと言ってあげてください。もっと『私を見てください』って」
感情の起伏なしにソワールが言い放つ。
「ソ、ソワール!わたくしはそこまで―――」
最後の方が聞き取れなかった。
いつもの様に抗議する伊莉栖だが、強烈さはない。僕を窺っている気さえする。なんだかいつもと違うので僕としてもどうすればいいかわからない。
まぁ、結果としてよかったのかな。チームとして纏まることが出来た。
「それよりソワール、福田さんは?」
「あぁ~。すっかりでした。起こしにいってきます」
おいおい、放置プレーかよ。さっきまで囚われの身だった人を・・・扱いをもうちょっと丁寧に・・・。




