第十章「対峙」-2
「ふぅ・・・やっぱり普段から運動しておくべきだったかな」
息も絶え絶えで肩で息をしながら登り終えた。
「そうですわ。優雅君。だらしないですわよ。あの人はそんな人じゃなかった」
百段あまりの階段を上り、鳥居をくぐると霊装をしたフェルシーナが境内の真ん中に立っていた。
紺の大きな三角帽子に黒いローブその下からのぞかせる白くすらっと流れる足はまるで若い魔女を彷彿とさせる。
それをまた右手に持つ杖が助長している。
「ここで何をされているんですか?僕は福田さんに呼び出されたんですがね」
「あら、そうでしたね。お邪魔かしらん?」
意地悪な質問もさらっと流してくれる。ただ、これから起こることはさらっとなんていかないんだろうけど・・・。
「呼び出すなら直接呼び出す方が速いんじゃないんですか?福田さんの名前を使ってなんて」
フェルシーナに近づいていく。一歩進めるごとに彼女から放出されている殺気が強くなっていく。
「他人の名前なんて使ってませんけどね。彼女もあなたに会いたがっていたわけですし、何よりあなたの・・・やめておこうかしら。それ以上言うのは、彼女に可哀そうですわ。さあ、出ておいで。あなたの愛しの優雅君がいらっしゃっているわ」
ん・・・?
上空から光るものが僕めがけて降ってきた。
思わず後ろへ飛ぶと地面に矢が刺さっている。
まさか・・・。あの矢は・・・。
「あら、惜しいわね。もう少しで当たるところでしたのに」
フェルシーナがわざとらしく残念な言い方をしてくる。彼女を見ると、横に巫女姿の福田さんが弓矢を構えて立っている。
「うそでしょ・・・福田さん!」
その光景に僕は愕然とした。巻き込んでしまった・・・。
「なぜ・・・。福田さんを・・・・」
「あら、わかっていたことじゃなくって?彼女、魔力はそこらの魔法少女より上よ。あなたも知っていたんじゃなくって?わかっていて、放置していたなら罪だわ。」
フェルシーナが右手を上げ振り下ろす、すると福田さんは矢を僕に向けて放ってきた。
一直線で向かってくる矢を目前で横っ飛びで回避した。
「うまい具合によけますこと・・・。変身しないと殺されちゃいますわよ。友達に」
口元に冷酷な笑みを浮かべフェルシーナがまた右手を上げる。
「ちょっ、くっ。霊装着衣!」
ブレスが光はじめ、魔法少女トゥインクル・ミラージュに変身した。
「なんか、もうちょっと気の利いた掛け声とかないのですか?あの人はかっこよかったわよ」
「だから、なんで父さんと比べるの?僕の勝手でしょ」
「魔法少女の必須事項なのに・・・でも型破りは似ていますね」
「うるさいな。それよりどうして福田さんを巻き込んだんだ!」
「どうしてって・・・。楽しいからに決まっていますわ。わたくしが」
フェルシーナが振り下ろす。
福田さんの迷いない矢が僕の頭を狙って襲い掛かってくる。
彼女が福田さんが、僕を殺したがっているのか?思い当たる節が一切ない。
「こんなもん!」
僕は目の前に迫ってきた矢の柄を素手で受け止めた。
「あら!すごいですわ。驚きましたわ~」
友達同士の戦いを楽しそうにけらけら笑っている。
矢を捨て、フェルシーナを睨む。
「おい!卑怯じゃないのか?自分は手を下さないで。根性曲がっているっていう真琴さんの話は本当なんだな」
「あら、伊勢野がそんなことを?あの人も曲がっているからわたくしの事は言えませんわ。でもいいのですか?彼女を倒さないと死にますよ。優雅君」
「倒す・・・て・・・。ただ操っているだけじゃないのか」
「まぁ、そうなんですけどねぇ」
赤く光る球を掌に浮かべた。
「なんだかわかります?」
ニヤニヤ笑っている。何が面白いのか分からないし分かりたくもない。
「これは、彼女・・・福田さんでしたっけ。彼女の心とリンクさせたものです。これが壊れてしまえば彼女の心は壊れてしまって・・・」
「もうそれ以上言うな!あんた、卑怯も甚だしいな」
「お褒めの言葉と取らせていただきましてよ。今までもそうしてきましたし・・・。これを壊すこと自体わたくしには興味はありませんので。それより、その絶望的な顔を見ることができるのがわたくしの最高のエンターテイメントですの」
「素直にやられろということか?」
「それじゃ面白くありませんわ。ことが終わる瞬間にリンクを解けば、意識が戻りますわ。で、目の前で起きている光景を彼女に認識させて絶望させるのですよ。『何て事をしてしまったのだろう』って。ねっ!楽しいでしょう?」
「自分で手を下さず・・・向かい合った両者に絶望感を与えるか・・・。卑劣もそこまで来ると称賛に値するな」
「あら、発言がだんだん荒々しくなってきてよ。優雅君。礼儀正しい子だと思ったのに残念だわ。やっておしまい!」
フェルシーナがそういうと福田さんは間髪入れずに僕に向かって矢を放つ。
目の前に来た瞬間にそれを捕らえる。ただ、これを繰り返していても何も解決にはならない。
「残念か・・・。今までそうやってきたのだろうが得たものはあったのか?あんたは。あんまり僕を・・・俺をなめるなよ。俺は魔法少女の中でもイレギュラーだから、他とは違うぞ。術式展開」
周囲に呪符を浮遊させる。
「久しぶりに見ましたわ。英雄さんのと同じで懐かしいわ」
ひっきりなしに飛んでくる矢を呪符で防ぐ。しかし、福田さんの魔力が宿っているのだろう、徐々に呪符が傷ついていくのがわかった。このまま防戦一方だと破られるのも時間の問題か。残されている呪符は・・・五枚。
それには問題はあの赤い球か・・・あれさえ取ってしまえば・・・。
ん、あれは・・・
ピアノ線の様な光を見た。あれが球と福田さんをつないでいるのか。
であればリンクを外せばいい。 フェルシーナの視界を奪えば、それができるか。
ミラージュブレスを弓矢に変えて福田さんにむけた。
「やっと、戦う気になって?でも彼女も強いですよ」
「それはどうかな」
僕は福田さんに向けて振り絞る。
ニヤッと笑うフェルシーナの顔がうかがえた。
僕はフェルシーナへ向き直り矢を放った。
「爆ぜろ!」
そう叫ぶと 矢はフェルシーナの前でまばゆい閃光となった。
「なっ!」
フェルシーナは目を覆い隠す。
今だ!
呪符を一枚取り出し福田さんと玉の間を結ぶ線に向かって飛ばした。
それは突き破り、球は色をなくしていく。
予想は的中!リンクは解除できた!
繋がりのなくなった福田さんは人形の様に前のめりに崩れた。
倒れる瞬間彼女のところまで駆け寄り、抱きおこす。
「あ・・・あれ?優雅君?なんで?」
「あぁ~~その話はあとな。立てる?」
「う、うん」
よろよろと福田さんは立ち上がる。目を覚ましたばかりで、状況が把握できていない。目も泳いでいる。
とりあえず安全圏まで福田さんには下がってもらおう。
僕は彼女の眉間に人差し指をくっつけて催眠術を掛けた。瞳に色がなくなっていく。
「福田さんはそのまま鳥居を通り過ぎて階段をおりていくんだ。良い子だから、ね?」
「・・・うん。わかった」
眉間に突き付けた指に念を入れて軽く彼女を押す。
福田さんは操り人形の様に境内の敷地内から出て行った。自分のお家なのにごめんね。




