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第一章「箱の中から使い魔」-2

6時間目の授業終了を告げるチャイムと共に教室が騒がしくなる。部活へ、家へ、はたまたバイトへとあわただしい。

 それは、勝も例外ではない。あわただしく教科書をしまうと、僕の方を振り返り、

「じゃあ俺は部活行ってくるわ~」

「頑張れよ!」

「おう!」

 お互いこぶしをこつんとぶつける。勝との別れの挨拶だ。

 一年生にしてわが校陸上部期待のホープとして、勝は周囲から期待されている。

ただ、彼はそれをプレッシャーと感じていない。いや、元々そんなタイプではない。思い込んだら一直線、イノシシみたいなやつだ。

「さて、僕も帰りますかぁ・・・」

 僕はバックを肩に掛けて教室を出ようとすると、

「か、賀茂君!!」

 突然、女の子から声をかけられた。

「ひぃっ!」

 あまりに突然だったため、思わず変な声が出てしまった。

 何事かと振り向くと、そこにはもじもじと恥ずかしそうにする女の子が立っていた。

「えっと・・・」

 誰だっけ?なんて聞けない。

「ふ、福田みすずです。同じクラスの・・・」

「ごめん。まだ、クラスの人の名前と顔がまだ一致していなくて・・・」

「いいの。私・・・影薄いし・・・」

「そういうことじゃなくって・・・ほんとごめん。で、どうしたの?」

 なにか彼女に用事あったかなと記憶をたどってみるが出てこない。

「あ、あの・・・」

 か細い声で何か言葉を捜している様子。うつむいてもじもじしている。

 チャックが開いているのを指摘してくれたのかと思って、股間を確認するがちゃんとしまっている。そういう事ではないらしい・・・。

 彼女は何かを決心する、僕を上目遣いに様子を伺いながら

「わ、私と一緒に帰りませんか?」

「え?」

 想定外の投げかけにあっけにとられてしまう。

 なんと、下校のお誘いでした・・・。

「うん。帰ろう」

 よくわからないけど、断る理由もないからいいか。

 

 僕たちが弥生高校へ登校するためには、「骨折り坂」という心臓破りの急坂を上っていかなくてはいけない。傾斜はかなり急な方だと思う。登校時間になると女子生徒は見られないようスカートの後ろを抑えて上っている。じゃあもうちょっと丈を長くして来いという主張をしたくなるが・・・。

仕事の影響もあって寝不足気味な僕には、この坂とは常に戦いになる。遅刻ギリギリで登校することも多いため、校門にたどり着いた時にはすでにヘロヘロな状態。肩で息をし、変な呼吸をしている僕を勝は「へなちょこ」とからかわれている。

当然、帰りは下るだけなので楽は楽なんだけど・・・。

 クラスが一緒とはいえ、入学して半月経っても話したことのない、それも女の子と帰るということに少々動揺している。

 何を話せばいいんだろうか。

 お互い無言のまま、校門を出て骨折り坂を下っている。

 間が持たない・・・。季節の話をしようか。

「桜、散っちゃいましたね」

「え?えぇ・・・」

「僕、散った後が嫌いなんですよ」

「何故です?」

 僕の方を見て、答えを促すかのように首を傾ける。

「えっと・・。僕、毛虫が苦手で・・・」

「ふふっ。確かに、時々落ちてきますもんね。私もです。でも、散る時の花吹雪というのでしょうか、それは好きですよ」

 当たり障りのない会話をしながら坂を下りきったところで、何か「良くない気配」を感じた。今日もお仕事でひと波乱ありそうな雰囲気の例の「アレ」だ。

 ふと立ち止まる僕を、福田さんは不思議そうに見ている。

 怪しまれてはいけない。

 話を続けよう。

「えっと、福田さんって、どこに住んでいるの?」

「私は・・・。あの・・・あそこに・・・」

 彼女が指さす方を見ると丘の中腹に赤い鳥居が見える。僕の家から徒歩10分程の距離にある福田神社、小さい頃は初詣に行っていた気がする。

「えっ?神社に住んでいるの?」

「はい。お父さんが神主で・・・」

 彼女は何か言いにくそうにしている。ある意味普通の家庭じゃないという事が引っかかるのかな。僕の家も立場が違うとはいえ大変だから、共感できる。

「大変でしょ?境内の掃除とか。あと、初詣の時とか。僕も小さい頃連れられて行ったけど、人がたくさんいたし」

「えっ」

 普段と違う反応を僕がしたのだろう、彼女は驚いたように立ち止まり僕を見つめる。

 なんだか恥ずかしい。

「変だと思わないんですか?」

「何が?」

「神主の娘とか・・・その普通の家じゃないし」

「別に僕は思わないよ。う~ん・・・僕のところも似ている部分あるし」

「そ、そう。よかった・・・」

 僕の回答にほっとしている様子。もしかして、学校ではあまり言っていないことなのだろうか。

 そうしているうちに、三叉路に着いた。

「私は、こっちなので・・・」

 神社のある方向に立つ彼女。どこか寂しそうにしている。

「そっか、逆だね。じゃあ・・・」

 僕が背を向けて行こうとすると

「あの、賀茂君!」

「なに?どうしたの?」

「また、一緒に帰ってくれる?」

「別に構わないよ。機会があったらまた帰ろう」

 その言葉にパッと花が咲いたかのように彼女は笑顔になった。

「ありがとう!じゃあ、また明日!」

 そういうと、元気よく走って行った。

 僕にとっても、友達がいない現状。友人が一人増えるのは喜ばしいことだ。

 じんわりとした温かい充実感を抱えて家の前についた。今日はいい日だ。勝の件はおいておこう・・・いや無かったことにしよう。

 郵便ポストに手を突っ込み、新聞やらほかの郵便物があるかチェックしていると、宅配会社からの不在者通知表を見つけた。

 宛名は「賀茂優雅」僕で、送付人が「賀茂英雄」父さんになっている。送られてきているものの中身は書いておらず、ただ発信先が海外とだけ書いてある。

 今度はどんなトラブルがあるのだろうか。

 僕に無茶ブリをするのが大好きで、空気というものを一切読もうとしないクラッシャーでもある。

 何を送ってきたのか、本人から聞く必要がある。

 スマホを取り出し、父さんに連絡を取ってみる・。

 聞きなれない呼び出し音の後、

「なに?」

 機嫌が悪そうな声の父さんが聞こえた。

「なにって・・・父さん、何を送ったの?」

「あぁ?まだ見てないのか。黙って受け取っておけ。俺からのプレゼントだ。喜べよ!おっおい!そこのお前、何やってるんだ!粗末に・・・」

 ぶつっと電話が切れた。現場にいるのだろう。あわただしい人だ。

 諦め半分、不在者通知表に書いてある番号に連絡して大人しく受取ろう・・・。


「それじゃあ、失礼しますねぇ~」

 宅配便の人は、やけに軽い段ボールを抱える僕に向かって一礼した後、ドアを閉めて帰って出て行った。今日の配送終了なんだろうなぁ。やけにそわそわしてたし。

 父さんが送ってきたのは、抱え込まなきゃ持てないくらい大きい段ボール一つ。にも関わらずやけに軽い。軽い割に包装がごつい。これでもかと言わんばかりにガムテープが四方八方に張り付けてある。

父さんが送ってきたものにろくなものはない。「今回は、現地の空気をいっぱい入れました~」的なものならマシな方。

訳の分からない造形物よりましか・・・。

 送り状の品名欄にも優雅へのギフトとしか書いていない・・・。

 開けるべきか、放置しておくか・・・。

 う~ん・・・。開けたら最後の様な・・・。ただ、直観的に開けなければいけない気がしてきた。

 何重にも頑丈に張り付けられたガムテープをはがしていく。どれだけ仕込んであるんだと父さんに突っ込みたくなる。

 ガムテープと格闘すること10分、ようやくすべてを剥がし終える。

「やっと・・・終わった・・・」

 訳の分からない達成感を覚えた僕は、勢いに乗って箱を開け覗き込んだ。

「呪符・・・かよ?」

 貼り付けただろう札が底の中央に一つ貼り付けられていた。

やばい、危険な気配プンプンだよ・・・。封を開けたら解呪されるし、取り出してそのままにしておいて父さんが帰ってきたら中身を聞こう。

その予想を基にして僕は呪符に手を触れる。

と、予想に反して呪符が光を発し始めた。

 うわ~やられた!何が起こっているんだ?

辺りを包み込む光で視界が白一色になり何があるのか全くわからないが、そこには懐かしいものがいる気がする。

 徐々に光が収まり始め視界が開ける。

 目つぶしを食らった僕の前に誰かいる。

「だ、だれ?」

 そこには、ぺたんと座っている黒髪の裸の女の子がいた。

 見えちゃいけないものが色々見えちゃってますよ!!

 眠たそう眼をこすっているが、僕に気が付くと満面の笑顔を見せた。

「ユウだ~~~!お久しぶり!!」

 獲物を捕らえたといわんばかりに抱き付かれる。

 メロン大の大きさのやわらかいものが二つ、僕の顔面に襲い掛かってきた。

「この匂い久しぶりだぁ~」

 いや、僕は初めてですから!

ってだれ・・・。

 この状況から脱するべく、ジタバタともがく。

 マウントポジションの上に何が起こっているか分からない。

「あぁん・・・」

 んあ?

 あぁ~~お尻を鷲掴んでるわっ。

「ユウ~~。エッチ」

 頬を赤らめて睨む女の子だが・・・。その眼どこか誘っている様に感じる。

 まだ、高校生だし!彼女いないしって言うか誰だし・・・。

「ちょっと君、落ち着こうじゃないか」

 双丘が離れることで息ができる様になった僕は全力で自己弁護する。

 と、ポケットに入っている携帯が鳴りだした。

 多分、あの人だろう。

 マウントポジションのまま、右のポケットにある携帯を取り出しディスプレイに目をやった。

 予想通り、父さんからだ・・・。

「どうだ!すごいだろ!」

 呪符が解けたのが遠隔でわかったのだろうさすが悪戯好き。

「どうだじゃないよ。誰だよこの娘。いきなり飛び掛かられているんだけど・・・」

「そいつはな。お前の使い魔だ。これから魔法少女トゥインクル・ミラージュの手助けをしてくれるだろう。じゃあこっちは色々忙しいからまたな。じゃ」

「使い魔って動物とかじゃ・・・ねぇ。あぁ~切られた・・・」

 うなだれている僕に彼女がまた抱き付いてくる。

「ユウ~。元気出して!ね?」

 なんだそりゃ!

 わけわかんないよ。

 見知らぬ女の子にいきなりそんなことされたら混乱するわ。

「わかったから、元気出すから!ちょっと待って」

 絡められた腕を引きはがし距離を置き、着ているブレザーを羽織らせる。

「あぁ~。もう、これ着て」

 見ないように目を閉じて羽織らせる。

 恐る恐る彼女を見るとやけにきれいな黒髪が目に入ってきた。

「やっぱりユウはやさしいね」

 ニコッと微笑みを僕に向ける。

 やっぱりってなんだ?

「とりあえず、リビングに行こうか。聞きたいことがあるし」

「うん、ユウがそう言うなら行く~」

 ぴょこぴょこ僕の後ろをついてくる。

 どこか見覚えのある動きなんだけど・・・。

 でも、いきなり使い魔が送られてくるなんて聞いたことない。それに、なんで人間の女の子が使い魔なの?次々に浮かぶ疑問が頭の中で重石の様に乗っかってくる。

 はぁ・・・。疲れた・・・

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