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第九章「・・・ったくうちの使い魔は」-3

「ごちそうさまでしたわ!このカレーあの人直伝なのかしら?懐かしい気持ちになりましたわ。おいしかったぁ。もうおなか一杯!」

 ニコッとフェルシーナは、僕に笑顔を向けるがこっちは唖然としている。

 なぜって、三日分の作ったつもりのカレーのほとんどを平らげてしまったからだ。そのくせ、ほっそりとしているのは胃下垂なのか?

「いえ、満足していただけたならうれしいかぎりですよ・・・」

 コメントしようがない。

「ねぇ、ユウ。明日のカレーなくなっちゃたよ・・・」

 クロノは涙目で僕になっているし、なんなんだろうか。

 空気を読まず勝手にあげたお前の責任だぞ!

「さて、おもてなしも受けたことですし、本題に行きましょうか」

 この人も話がよく分からない方向へ舵を切る人だな。

「クロノ、お風呂沸いているから入ってきなさい」

「わかった~。涙にくれながら入ってくる!」

 敬礼すると彼女にも深々と頭を下げ、リビングから出て行った。

 脱衣所がしまる音が聞こえる。

「いなくなったことですし―――」

 毅然とするべきだな。この前の借りもあるからここは冷静に話し合う必要があるか。

「本題というのは何でしょうか。フェルシーナさん」

「あら、覚えていらっしゃったの?」

「そりゃ、最初から気づいていますよ。そっちもわかっていてその言いぐさはないです」

「そうね。この前の非礼を詫びるわ。痛い思いをさせてしまってごめんね」

 ペロッと舌を出す。あれだ!テヘペロッってやつだ。

 か、軽い・・・。

 詫びる気なんて一切ないな。

「でね、前に言った通りなんだけど、フレンドリーにするのは今日までね。お家に入って雰囲気を感じてみたかったの。あなたが幸せなのだろうかと。実際見に来たら幸せそうにしていてがっかりしたけど」

「ごく普通の家庭ですよ。特に何があるわけではない、ごく普通の家庭です。」

「あら、それは良い事ですわねぇ。それに、私を差し置いて使い魔なんて飼っちゃってどういう風の吹き回しなのかしらん?」

 恨みのこもった目が僕に向けられる。

 心当たりが全くない。クロノは元々一緒に暮らしていたカラスだし・・・。

 それに会話がずれている。もしかして、フェルシーナは何か重要な誤解をしている?

「あの・・・。ちょっと聞いていいですか?フェルシーナさん」

「前みたいに親しげに『フェル』って呼んでいいのよ。英雄さん」

 はいぃ~!

この人、父さんと間違えてますわぁ~。

最初からずっとですわぁ~。

仕方ない・・・。伝えてあげよう。

「申し上げにくいのですが・・・」

「何でしょう?英雄さん?」

 彼女は興味津々に前かがみになる。

 僕はフェルシーナの輝く瞳を見据えたまま告白した。

「僕・・・。英雄じゃないです」

「えっ?」

 フェルシーナは目を丸くして、半歩後ずさる。

「あのですね・・・。僕はその・・・息子です」

「息子!!」

「えぇ・・・。引っかかっていたんですよぉ。かみ合っていないなって」

「む、息子・・・あの人が・・・」

 フェルシーナにとって衝撃の事実だったんだろう。顔を伏せて小刻みに震えていますよ。

 こっちの話も聞こえないみたいだし・・・。

「そ、そう・・・。全然気が付かなかったわ。だって・・・」

 震えたままフェルシーナのつぶやきが聞こえる。

「だって、なんです?」

 一歩近づいてみるといきなり両肩を鷲掴みにしてきた。

 爪が・・・爪が立ってる。

「匂いが一緒なんですもん!英雄さんと!」

「ちょ、ちょっと痛いって。肩掴まないでくださいよ!取り乱しすぎですって」

「取り乱すわ!あれだけ思い焦がれた英雄さんが・・・。使い魔になろうと心に決めて、拒否されても足蹴にされても縋り付いて頼んだのに・・・。眠らされて・・・。私を置いて何処か遠くへ行ったんだと思って探し回っていたのに・・・。あなた、その息子!」

 あぁ~~。父さんは使い魔の話を蹴っていたんだっけ。フェルシーナが可哀そうになってきた。

「申し訳ないですが・・・そういう事です」

「そ、そう・・・」

 激昂が収まってきたのか冷静さを取り戻す様に肩で大きく一息つくフェルシーナ。

 後ろ姿が泣いている・・・。

「わかったわ。そういう事なら・・・。今度はあなたで憂さ晴らしをしてあげるわ」

「すごいとばっちりですね。罪もない人を―――」

「英雄さんの息子という時点で罪ね。死刑だわ。私の中で」

 ぐっとこぶしを握る彼女には怨念と悲哀が混じって見えた。

「ところであの人は、英雄さんはおいくつ?」

「45になります」

「そう・・・あれから30年は経ったのね。私にとっては一瞬でも人間にとっては長いものね・・・そう・・・」

 宙を見るフェルシーナはやっぱりどこか悲しそうだ。

「そうね、じゃあさっき言った通り、息子という罪で死刑ね。あの人から大切なものを奪ってあげるわ」

「息子を本人と間違えるほどおとぼけとは思いませんでしたが、良いでしょう。受けて立ちますよ」

 左手に力を集中させ相手の出方を窺う。

 フェルシーナはというと、立ちつくしたまま何もしてくる気配がない。

「おとぼけって・・・。あなた、賀茂様に似ておりますわよ」

 彼女の質問に脱力した。

「何をまた・・・。似ていませんよ。父さんは僕の反面教師なんですから」

「いや似ているわ。私を見るその目。敵意は感じるけどその中に慈悲があるわ」

「慈悲ねぇ・・・」

 こそばゆくなってきたなぁ。

 ころころ発言を急に変えるから僕としてもやりづらい。

「あなたもきっと、色々な人を助けているのでしょう。いや、そうしないと気が済まない。苦しんでいる人、悩んいでる人をほっておけないタイプね」

「そんなんじゃないですよ」

「そう?でも、私の目に狂いはないわ。絶対に―――。やっぱり、まずはあなたから大切なものを奪っていくね。う~ん、それじゃ物足りないわ。大切な人から刃を向けられるのも面白いかもね」

「なんでそんなことをするんですか?」

「う~ん、どうなんだろう・・・。嫉妬かなぁ?」

 無邪気に笑っている様に見えるけど目が全然笑っていない。余計に気味が悪くなる。

「そんな硬くならないで。硬くなるのは大事なところだけだぞ!」

 いきなり下ネタかい!心の突っ込みが炸裂する。

「そうね・・・。今はここまで、今度会う時までのお楽しみってことで。じゃね」

 彼女は右手で大きく円を描くと魔法陣が浮かび上がりそれに吸い込まれるように消えていった。

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