第八章「狙われてる・・・やっぱり?」-1
「うちの身にもなってくれよ。こっちは処理で大変なんだからな」
土曜日。休みにも関わらず「上司」である伊勢野真琴さんから呼びだしを食らっている。ここは、鉄道高架沿いにある古めかしい雑居ビル。その二階の一室にはJSS(日本魔道協会)の連絡所として地区監察官の伊勢野真琴さんは使っている。しかしあくまでもそれは、裏稼業みたいなもので表向きには不動産屋をやっているみたい。
そして、僕の目の前で黒革の椅子に座っている、銀髪ツインテールのどう見ても小学生にしか見えない女の子が伊勢野真琴さんである。手には火のついたパイプがあり、相当機嫌が悪いのだろう、一服吸ってみてはせき込み、灰皿に吸殻を捨て、一服吸ってはせき込み・・・。
なら吸わなきゃいいのにと思ってしまうが、そういう突っ込みを入れる雰囲気に今はない。
「で、お前らはわかっているのか?」
恫喝にも似た声でちびっ子が声を荒げる。
「はい・・・すみません」
とりあえず謝っておこう。何のことで呼ばれているのかわからないけど素直に謝った方がいいと僕の直観がそうさせている。
しかし一方で伊莉栖の方は、上司が目の前にいるにも関わらずその態度はいつも通り高慢そのもの、呼び出されたこと自体不機嫌にさせているのだろう。
「な、なんの事かしら?わたくしには身に覚えがございませんのに。呼び出されるなんて不愉快でなりませんわ」
やっぱりちょっと怒っている?毛嫌いしている僕が隣にいるからなのかと勘繰ってしまいたくなる。
小さな体に似合わない椅子に座っている真琴さんは伊莉栖の発言を聞いてあからさまに不愉快の表情を隠さない。
「あのなぁ・・・魔法少女ってのはな。協力して何ぼなんだよ。お前らこの前の戦い方は、ひどすぎるぞ」
あぁ~・・・。スライム型との戦いね・・・。
確かにひどいと思う。結局、伊莉栖が自滅して、尻拭いしたんだよなぁ。
「あ、あれについては・・・わたくしも・・・反省しておりますわ」
ん?
伊莉栖から発せられた言葉は僕にとって意外なものだった。
「身の程を知ったという事か・・・にしても、高慢令嬢草薙伊莉栖があっさり非を認めたな。そういえば草薙、お前まるくなったな。」
「太ったってことですか!」
「す、すまん・・・。そうじゃないんだ。やけに素直だなと思ってな・・・」
真琴さんは火をつけたばかりのパイプの葉を灰皿へ捨てながら、言い訳した。
「わ、わたくしもこの間の戦いについては、行き過ぎたところがありました。これからは、あのようなことの無いように修行に励んでいく所存でございますわ」
「あ、あぁ・・・よろしく頼む」
伊莉栖の勢いに押され頷くことしかできない真琴さんも珍しい。
普段ふんぞり返って、ギャーギャー喚いているだけのちびっ子なのに・・・。
「優雅、お前も伊莉栖と協力して任務に当たれよ・・・。英雄の野郎が勝手にお前に使い魔を渡しやがって。お前の親父に言っておけ、相変わらず突拍子もない事するんだからな」
いきなりこっちにパスが飛んできましたよ。
「僕も突然で最初は戸惑いましたが、今は慣れました。大丈夫です」
「そうか?人間に混ざって学校へ通わせているらしいじゃないか」
「僕のせいでは―――」
「英雄の野郎の仕業ってのはわかっているから。ただな・・・。年頃の想像力豊かな欲情を使い魔にぶつけるのだけはやめておけよ?」
「は?」
「も、もやし・・・そんなことしているのですか?使い魔に劣情をぶつけるなんて、無害そうな顔して・・・なんて鬼畜な」
伊莉栖が一歩、二歩と僕の後ろへ下がっていく。
「ま、真琴さん。適当なこと言わないでくださいよ。何もしてないですよ。むしろ、あいつの教育を頼みたいくらいですよ」
「ほぉ、というとなにかあるのか?お前の使い魔に問題でも?」
「ちょっとぬけているんですよ・・・。ごみをあさって周囲にまき散らすわ、すべり台を子供を押しのけて滑り続けるわ・・・。自分勝手で・・・。そのくせ、僕が他の人としゃべっていると、不機嫌オーラを出して威嚇し始めますし。使い魔を持つのが初めてなんで、使い魔ってこんなもんなのかなって思う事もありますけど」
「ふむ。優雅、お前と使い魔・・・なんて言ったっけ?」
「クロノです」
「そうそう、クロノか。お前とクロノの契約への経緯が特別なんじゃないか?」
「クロノは小さい頃助けた、カラスなだけなんですけど―――」
「それだ!通常、使い魔は召喚の儀までそこに姿を現さない。そもそも何が出てくるかわからない。なのに、お前の使い魔・・・なんて言ったっけ?」
「ク、クロノです・・・」
「そうそう。クロノは自分の意思でお前の使い魔になることを選んだ。望んだんだ。そこがまずイレギュラーなところだ。なんというか、使い魔にしては人間らしいというか、まぁここで全てをお前に言うのはやめよう。お前もイレギュラーなんだからな」
「はぁ・・・。で、結局どうすれば?」
「ん?お前の判断次第だな。頑張れ!」
「はぁ、はい・・・」
う~ん、腑に落ちない。うやむやにされた感がするが、真琴さんはこの話はこれまで的な様子を窺わせる。これ以上聞いても意味はないというか、聞くなってことなんだろうな。
「とりあえず、お前ら。協力していくように。いいな」
「はい」
「わかっておりますわ」
「あとな・・・お前らに注意してもらいたいものがあってな」
真琴さんはA4の紙を僕らに渡した。
そこにはあどけなさの残る美しいブロンドの外国人女性の顔写真とその名前が書かれていた。
『フェルシーナ』聞いたことない名前だ。
「これはなんですか?」
「これか?ちょっと厄介なやつでな。この管轄地域をうろついているという話があってな。ここのところ、大なり小なり悪さをする連中が増えてきているだろう?」
「確かに、去年と比べて格段に増えてきておりますわ」
「どうも、そいつが影響しているらしい・」
「この女の人が・・・ですか?」
「そうだ。ちなみにそいつは使い魔崩れの類だ。こちらの戦い方にも熟知している。気を付けておけよ。特に優雅お前だ」
「はぁ・・・えっ、なんで僕ですか?」
「承知いたしましたわ」
「あの―――」
伊莉栖は力強くうなずいたが、僕は納得がいかない。
「うむ。奮起を期待する!以上、解散!」
最後うやむやにされた感があるが、真琴さんのご高話は終わりを告げ事務所から追い払われるように放り出された。
使い魔崩れ・・・契約解除の手順を間違えたことで生じる歪に分類されるものだ。魔力が高くて、魔法少女の戦いも熟知している百戦錬磨のものも多いという。そういう力の持ったものが負の感情を吸収したなれの果て・・・。
なんで僕が気をつけなきゃいけないんだろう。
というか、どう注意すればいいか見当がつかないけど。




