第七章「ばれちゃいました」-2
「あちゃぁ・・・予想的中か」
物音をお立てないよう静かに境内の屋根に降りて、下の様子をうかがう。
やはり、福田さんが憑依されているおじさん(禿)にこれから襲われようとしているところだ。じりじりとにじり寄ってくる光景は見ていても気持ちのいいものではない。
「福田さんだよね?あれ・・・どうするの?」
「そうだね?どうしようか・・・」
福田さんにばれないように、おじさんに憑いている霊を排除する方法・・・。
「う~ん・・・悩む。」
「えぇ~、ユウ。考えてなかったの?」
クロノはびっくりして僕の方を振り返った。
「仕方ないじゃん」
「そうかもしれないけど・・・」
「で、どんな感じかな?おじさんに憑いている霊の力は?」
「はっ?ユウ、わからないの?」
「わかるけど、使い魔と主の連携らしくだな・・・。情報の共有をしたいなと。それにクロノからアドバイスもらったことないし」
ソワールと伊莉栖の関係がちょっとうらやましくなったのだろかな。今まで一人で戦ってきたし、前回はクロノが初陣で見ているだけたったし。
正直多少、クロノの力も見てみたくなったというところだ。
「う~ん。あのおじさんに憑いているのは、全然強くないよ。ユウなら一撃!」
「一撃ね。ありがとう。でも、至近距離からだと福田さんにばれてしまいそうだし・・・」
「じゃあ、光るあれは?降らせるあれ。あれなら、おじさんに被害もないし」
光るあれ・・・アローか・・・。
表現は不十分だけど、使い魔らしいアドバイスをクロノが提案してくれる。
僕から見ても強いものを感じないし、ミラージュアローなら問題ない。
「オッケ、それで行こう!ありがとう」
「えへへ」
褒められたのが恥ずかしいのかうれしいのか、クロノは首を左右に振っている。カラス状態での喜びの動作なのかな。
「さってと、さくっとやって帰るよ」
僕は、弓矢を取って、空めがけて振り絞り、張り詰めたところで一気に矢から手を離した。
すると、上空で光の玉になり、無数の矢がおじさんと福田さんの上に降り注ぎ、断末魔の様な声を上げながらおじさんは崩れ落ちる様に倒れ動かなくなった。
倒れる様を見て腰が抜けたのか福田さんはぺたんと座り込んでいる。
無理もないか、目の前の人が襲ってきたかと思ったらいきなり奇声をあげて倒れたのだから。
「さてと、仕事終了・・・クロノ帰るよ」
「えっ、帰っちゃうの?」
「当たり前だろ」
「だって、福田さん・・・」
「ばれちゃまずいだろ。僕もクロノも」
「そうだけど・・・」
「じゃあ行くよ!」
箒に跨り飛ぼうとした瞬間、瓦に足を取られてずるっと滑ってしまった。
「あれ・・・景色がさかさま・・・まずっ!」
「ユウ!」
屋根の上から身を乗り出してクロノが叫ぶ。
僕の目の前には地面がすぐそこまで迫って来ている。
あぁ~痛いんだろうなとある意味どこか達観した気持ちになった瞬間、ドンッと地面に激突する音と同時にお尻には猛烈な痛みが走った。
「あが・・・いいだい・・・」
言葉にならない声が自然と出てしまう。
「えっ?だれ?」
お尻をさすりながら立ち上がると目の前には座り続けている福田さんと目が合った。
まずい。本当にまずい。顔ばれかぁ。
「・・・こ、こんにちは・・・」
「はっ、はい。こんにちは・・・」
お互い時間はずれの挨拶を交わす。
ただ、福田さんは誰だかわかっていないみたい。
去ろう。何もなかったかのように去ろう!
そうすればすべては丸く収まる。
ゆっくりと立ち上がり、スカートに着いた土埃を払う。
その行動をじーっと見つめている福田さん。
「で、では・・・」
ぎこちない挨拶で箒を片手に立ち去ろうとすると、福田さんがいきなり僕の左腕を掴んできた。
「も・・・もしかして・・・か、優雅君?」
うは~~。ばれてるぅ・・・。
ブリキのロボットみたいにぎこちない動作で、福田さんの方へ振り向く。
「ダ、ダレデスカ?ユーガクン?」
「やっぱり、優雅君ですよね!暗かったからわからなかったけど」
握られている左手が痛むほど圧力がかかってくる。福田さん・・・大人しいキャラクターの割に力が強いんですね・・・。
「いやいや。誰ですか?優雅君って、そんないるかいないか存在感のないもやし野郎なんて・・・」
自分で言っていて悲しくなってきた。もやしっていうのが染みついているのか、自虐的な言葉がホイホイとよくもまぁ出てくるものだ。
「でも・・・これ。このブレスレット・・・優雅君が着けてる・・・」
彼女はつかんだ左腕の裾を捲し上げるとミラージュブレスを指摘してきた。
「いやいや、これはネットで―――」
「探しました!でも、どこにも売ってなくて。ネットで色々聞いてみたんですがヒットしませんでした」
ミラージュブレスってそんなに人気あるの?と思う位の熱の入れようだ。こんなもののどこがいいのかわからない。大きいだけだし。外れないし・・・。
「で、優雅君ですよね?」
「ダ、ダレデスカ?」
「ごまかしてもダメです。私にはわかってしまいます。賀茂君なんですよね!」
福田さんの語気が強くなる。まさか問い詰められるとは思わなかった・・・。
諦めようか・・・。
ちらっと境内の屋根に目をやる。クロノの気配だけはする。
あいつめ。黙ってみている気だな・・・。
「賀茂優雅!」
「はいっ!」
条件反射的に反応してしまった。
あちゃぁ・・・。やってしまったぁ~~。




