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第六章「お嬢様は正直になれない」-3

「お帰りなさいませ、伊莉栖お嬢様!」」

 伊莉栖の出迎えにざっと20人はいるのだろう、赤じゅうたんを挟んで整列し彼女に向かってお辞儀をしている。

 その間を颯爽と通り過ぎる金髪の令嬢「草薙伊莉栖」。恐るべしというか、なんというか・・・。

 あたりを見回しているが見たことのない光景に尻込みしてしまう。

 軽く一軒家がすっぽり入るだろう大きな玄関には中央には大きなシャンデリアがあり、その奥には二階へ続く大理石の階段が続いている。もちろん、階段まで赤い絨毯が敷いてある。

 なんだこれ・・・。城か?

「優雅様。さ、こちらへ」

 立ちすくんでいる僕にソワールは僕に進むよう促してきた。

「ソワール・・・」

「はい。なんでしょう。優雅様」

「僕は、ここへ来て良かったの?」

 その言葉にソワールは不思議そうに首をかしげる。

「はい。今日は、先日のお礼をという事で、お嬢様とご夕食を・・・」

「いや、そんな大したことしていないし、ここまで―――」

「これが、お嬢様なりのお礼の仕方なのですよ。優雅様。少々堅苦しいかもしれませんが、お付き合い下さい。あの方は、人とのお付き合いの仕方が下手なのですよ」

 人付き合いが下手か・・・。常に高慢な態度はそのせいなのかな・・・。

「わかったよ。ソワール、今日は付き合おう」

「ありがとうございます。それを伺って、わたくしも胸のつかえがとれた気分です。さ、こちらへ―――」

 促された場所は、数えきれないほど燕尾服がかかっている衣裳部屋だった。

「晩餐時のために、こちらでお好きなものを着替えてください。私は、優雅様の使い魔を連れてまいりますので、その間優雅様付きのメイドがお着替えを手伝うよう手配を済ませております」

 そう言い残して、ソワールは去って行った。

 目の前には二人メイドさんが整然と立っていた。

「優雅様!お話は伺っております。今日はお着替えを手伝わせていただきます、京香です。よろしくお願いします」

「伊織と申します。よろしくおねがいします」

 二人は恭しく頭を下げてくる。

「いやいや、そんな。頭下げなくても・・・そんな人間じゃないし」

「そうですか?殿方を伊莉栖お嬢様直々にお連れするのは今回はじめてなんですよ」

「そうです。優雅様は草薙家では有名ですよ」

「へっ?」

「お嬢様がお仕事でピンチになった時に必ず助けに来てくれると、ソワールメイド長が仰っておりました。優雅様は白馬の王子様みたいだと」

 言い過ぎでしょ・・・ソワール。

「そんなんじゃないですから、むしろ学校では・・・いや何でもないです」

「何かあるんですか?」

 京香さんが飛びつく様に迫ってきた。

「い、いや・・・」

「私も伺いたいです。教えてください!優雅様!」

 伊織さんまで・・・。

 仕方ないちょっとだけ話そう・・・。

 僕が伊莉栖から「もやし」と呼ばれていること、学校で顔を見る度、仕事で会う度に僕に対して敵対的な態度をとっていることを話した。

 それを聞いて二人は考え込んでいる。ここで見せる伊莉栖とは違うみたいだ。

「それって・・・ツンデレってことではありませんか?」

 伊織さんが閃いたといった感じで僕に質問してきた。

「ツンデレ?」

「ですから、ツンデレですよ。本人に自分の感情をうまく表現できなくって結果的にイジワルしちゃうというパターンです。違いありません!」

 伊織さんは謎が解けたとばかりに胸を張った。

「そうなのかな?なんか違う気がするけど・・・」

「伊莉栖お嬢様が優雅様を意識されているのは間違いありません!」

「そ、そうですか・・・」

「納得いったところで、お着替えをいたしましょう。何がよろしいですか?」

 京香さんの手には何着かタキシードを持っている。

「僕さ、こういうの着たことないから、どれがいいのかわからなくって・・・」

「なら、まずサイズから調べましょう!」

 伊織さんが意気揚々とメジャーをもって、僕のブレザーに手を掛ける。

「ちょ、ちょっと何するんですか!」

「何って、何着たらいいかわからないのでしょう?それならまずサイズから・・・ささ、制服をお脱ぎください!隅々まで採寸させていただきます」

 京香さんも伊織さんも目がちょっとおかしい感じになっている。

「さ!ささ!」

 京香さんが逃げ道のドアに立つ。塞がれてしまった・・・

「まじっすか?」

「マジです!大人しく採寸させなさい!」

 伊織さんは口調が変わってきているし・・・もぉ・・・。

「わかりました!もうどうにでもしてください!」

「その言葉を待っていました!」

 二人は手早くブレザーとワイシャツを脱がせる。

 人前に裸をさらすのは恥ずかしい・・・。

「細マッチョなんですね・・・意外です」

 京香さんの手が異様に冷たくて、触れられるたびにビクッとしてしまう。

「はぁ、はぁ・・・若い体・・・」

 伊織さんは多分そっち系の人なんだろう・・・。

「じゃあ、次はスラックスの方ですね・・・。お脱ぎください」

「えっ?そっちも?」

「当たり前です!見てみたいです!」

 趣旨が変わってきているよ・・・。

 伊織さんが息を荒げながらベルトに手を掛ける。鼻息が荒すぎる。

 メジャーを持っている京香さんも僕の一挙手一投足に興味津々の面持だ。

 もぉ~~どうにでもなれ!

 下半身も触診もとい採寸された後、着せ替え人形よろしくあれもこれもと試着をさせられてへとへとになってしまった。

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