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第六章「お嬢様は正直になれない」-2

キーンコーンカーンコーン。

「はぁ~い。今日はこれでおわりにしますぅ~」

 ハムちゃん先生の掛け声とともに、6時間目の授業が終了。

 なんとか耐えた・・・あんまり寝ずに済んだ。

「やっと、終わった・・・」

 気が緩み机に突っ伏していると

「賀茂優雅様ですね?」

 突然、聞いたことのある冷静な女性の声を聞いて後ろを振り返る。見ると銀髪でふわりとしたショートボブのメイドさんが立っていた。身長は僕より少し低いくらいか・・・。でもどこか違う大人な雰囲気を漂わせている。

 あれ勘違い?聞いたことあったんだけどな。

 声と姿のギャップに呆気にとられていると

「賀茂優雅様、しばし失礼いたします」

 ロボットみたいな無機質な言葉と共に襟首を掴まれ、ベランダへ連れていかれ・・・そのままそこから彼女は僕を掴んだまま飛び降りた。

 みるみるうちに地面が迫ってくる。無詠唱での付与をする時間もない。骨折で済めばいいなと思っていると、地面すれすれで風船に包まれるようなふわりとした感覚でソフトランディングをメイドさんは決めてみせた。

 あれ、この人魔法を使える・・・。

 まじまじと見ると、なんとなくだが誰だかわかった気がした。

「もしかして、ソワール?」

「そうです。優雅様」

「そっか、初めて見るから誰だかわからなかった」

「そうですね。お会いするときはいつも使い魔の姿ですし」

「ちょっと安心したよ」

「そうですか、ありがとうございます」

 彼女は僕の襟首を持ったままだけど・・・。

「あの、これからどこへ僕は連行されるのですか?」

「それは、お嬢様に伺ってください。私は、ただ優雅様を連れてくるよう命令を受けただけなので」

「そ、そう」

 メイド姿のソワールは、僕を引きずったまま校門前に止めてあるリムジンまで連れてきた。

 黒塗りのリムジンを間近で見るのは初めてだ。日頃から手入れをしているのだろう傷一つない。

「伊莉栖様。優雅様を連れてまいりました」

 スモークの張った車に向かってソワールが話しかける。

 すると、後部座席のドアが自動的に開いた。

「ソワール。ご苦労様。もやしを乗せてくださいな」

「はっ!」

 その命令にソワールは襟首を支点に僕をリムジンへ放り投げた。

 投げられている時間は短かったのかもしれないけど、全てがスローモーションの様に見えた。そして、僕は思う。なんで、こんな目に合わなくてはいけないのかと。

 ドスンとしりもちをついてシートに座ると、腕組みしたままの草薙伊莉栖がそこにいた。

 相変わらずさげすむような目で僕を見ているが、いつもと雰囲気が違う。

「こ、こんにちは・・・」

「もやしの癖に、私と空間を共にすること自体光栄なのに、出る言葉がそれですか?」

「いや、あの・・・意味が解らなくて、なんとなくね。あ、挨拶を―――」

「ふんっ!まぁいいわ。東雲!車を出しなさい」

「かしこまりましたお嬢様」

 運転席には東雲と呼ばれた白髪の初老がハンドルを握っている。お嬢の典型だな・・・。

 リムジンがゆっくりと走り出した。音が静かで振動もない・・・。 

 ぐるっと内装を見ると、真ん中にテーブルもあり、高級そうな食器セットも完備されている。それに、座席も革張り・・・。隅にソワールが静かに座っている

「何をじろじろ見ているの?もやし」

「いや、なんかすごいなって・・・」

「そ、そう」

「で、なんで僕がここにいるの?」

「それは―――」

「それはですね。優雅様。お嬢様はあなた様にお礼がしたいのですよ」

「ソ、ソワール!」

「失礼しました」

 伊莉栖は顔を赤くし、ソワールを一喝する。

 でも、ソワールは動じていない。本当の事らしいなぁ。

「き、昨日は、よくもわたくしの獲物を―――」

「お嬢様!」

 ピシャリと制するようにソワールが発言を切っていく。

「わ、わかっておりますわ!そ、その助けていただき・・・」

「あ、あぁ~。別に、気にしないでよ」

「わたくしが気にしますわ。草薙の名に懸けても、お母様の名誉にかけても・・・」

「伊莉栖お嬢様は、昨日、優雅様に助けていただいて非常に感謝されていらっしゃるのですよ」

「こ、こら!」

「ですから、今日はそのお礼に夕食をと・・・」

「何を言うのですか!ソワール!」

「そうでしょう?そのためのこの段取りですのに」

 どっちが主人なのかわからないなぁ。

「クロノ様は後でお迎えにあがります。今晩は、こちらで晩餐をお楽しみくださればと思っております」

「僕はそんな大それたことしたつもりないけど・・・謹んでお受けいたします」

「それの言葉を伺えて光栄です。ですよね?お嬢様?」

 ソワールは伊莉栖に目を向ける。

「そ、そうですわ。もやしには勿体ないですが、致し方ありません」

 どっちなの?と喉から出そうになるのを必死に堪えた、しゃべるのはやめよう。どっち転んでもダメな気がするし。

 それに常日頃、僕に対して敵意をむき出しにしている伊莉栖だから、口答えしようものならまた火に油を注ぐようなものだ。

 リムジンは大きな壁の様なゲートに差し掛かり車を止めた。

 ゲートがゆっくりと開かれると遠くに城の様な大きな建物が見える。住む世界が違うんだなぁとしみじみ思ってしまう。

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