第六章「お嬢様は正直になれない」-1
「はぁ・・・はぁ・・・み、みず・・・」
体力測定という名の拷問をクラス男子最下位でクリアした僕は、異常にバクバクと心臓の音が鳴り響く中で水を求めて生まれたての様な仔馬の様なガクガクな膝を震わせ彷徨っている。水道は目と鼻の先にあるはずなのに果てしなく遠く感じる・・・。
「情けないな、ユウ。1500メートル位ちゃっちゃっと走れよぉ」
勝はぐいっと僕にスポーツドリンクを差し出した。
とっさにそれに飛びついて一気飲み。
やっと一息つけた。まだ、息は上がったままだけど、何とか喋れるところまで回復した。
ありがとう、勝。お前は、俺の心の友だ。
「勝じゃないんだから。それに・・お前、力抜いていただろ・・・」
「んな、当たり前だろ。授業なんだから少しは手を抜かないと」
手を抜いての独走ですか・・・。さっき何回抜かれたのだろうかな。
さらっと言いのける勝だが、僕は陰で必死に努力をしているのを小さい頃から見ている。
努力なんだろうけど・・・。
ふぅ、何とか戻ってきたぞ。
地面にぺたんと座っていた僕は、立ち上がるとズボンに着いた土ぼこりをパンパンと払った。
「なぁ・・・。ユウ。お前の従妹のスペックってすごいな」
勝が女子の体力測定の方を向いてぼそっとつぶやいた。
「なんで?」
「なんでって、お前、本当に見る目ないのか?制服姿しか見ていないから予想しかしていなかったけどよ、体操服姿を拝見すると、かなりじゃなくて独走状態じゃないか。あのスタイルはよ。少なくともうちのクラスではな」
「そうなのか?」
「おい、ユウ。お前あっちか?男が好きな方か?」
僕をさげすむ様に後ずさる。
「そ、そんなわけないだろ。ノーマルだ。ノーマル!」
「本当か?多分、草薙伊莉栖とはまた違うなんかエロさがあるよな」
「は?」
「いや、草薙はすべてがなんていうか、オーバースペックだろ?スタイルもすごいけど、雰囲気もお嬢様という感じで独特なんだけど、クロノちゃんはさ、なんか健康的なエロさを・・・」
「勝。もういい。それ以上言うな」
「なんで?」
「何となくだよ」
「なんだそれ?お前実は、クロノちゃんとできてたりするのか?」
「それはない。絶対にない。でも、あいつはやめておけ」
「ふ~ん・・・」
勝は納得していない雰囲気だが、それ以上の事を言う事は出来ない。
ましてや、「あいつ実はカラスだよ」なんて口が裂けても言えない。
すると、女子の方から黄色い歓声が聞こえてくる。
「賀茂さん!何このタイム、陸上部員より速いんだけど!!」
その言葉に反応したのか、勝がダッシュで女子の集団に向かっていきストップウオッチを覗き込み驚愕している。
「100メートル10秒05って・・・!クロノちゃん、陸上部はいらない?」
「いきなり男子は入ってこないで!」
あっ・・・。勝が集団からはじき飛ばされた。
まぁ、記録だけ考えても、凄いとは思う。
女子に囲まれて、恥ずかしそうに頭をかきながら笑顔を振りまいているクロノだが、僕の視線を感じたのか一直線に僕の方へ向かって走ってきた。カラスってこんな速かったっけ・・・。
「ユウ。見てみて!みんなに褒められた」
「そうか、よかったな。クロノ・・・」
「うん!!」
撫でてと言わんばかりに頭を出してくるクロノ。仕方なくくしゃくしゃと彼女の髪の毛をなでる。
気持ちよさそうに目を細めるクロノだが、それを見て周りの雰囲気が一変する。
「えっ、あの二人できているの?」
「賀茂のやつめ、独り占めしやがって・・・」
不穏な空気が流れ始めてきた。まずいなぁ。
「ほら、クロノ、みんなが待っているから、戻った方がいいよ」
撫でるのをやめるとクロノが不満げな目を向けてきた。
「撫でられるの気持ちいいから、もっと続けて!」
「じ、じゃあ家に帰ったらな」
「むぅ、わかった。約束だよ。ユウ!」
うれしさ半分名残惜しさ半分なのだろうか、僕から離れるとまた走って女子の下に向かっていった。
「ユウ、お前やっぱり出来てるんじゃないのかぁ?」
はじかれた勝が、疑惑の目を深めて近づいてきた。目からメラメラと嫉妬の炎が感じられる。
「違うって!」
「じゃあ、あっちだな!」
そういうとニッと笑い歯を見せながら・・・。
こら、親指立てるな。勝!
こっちもめんどくさいな・・・。
あらぬ疑惑がたちあがってしまった。




