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ゲーム脳、初ツッコミを決める。

 今回のタイトル……話の内容と関係ないにも程があるだろ。


 現実の厳しさに盛大に喚いた後。


「……はぁ。折角、ゲームをリアルに体験するチャンスだったのに~」


 そう言って、杏里はションボリと肩を落とす。

 まあ“ゲームをリアルに体験”などとほざいている彼女にとっては、この世界は“理想の二次元(ゲーム)”以外の何物でもないのだろう。どこまでも残念なオタクだ。


「……はぁ。じゃあ、私はもう本来の世界に帰るよ。……あれ、どこでもドアは? それともルーラ?」

「そんなもんあるか!! ゲームが違うだろうが!」

「あっ、そっか! じゃあ、“マヴェル”!!!」


 チャック・クエストの転移呪文を唱える。しかし、何も起こらなかった。杏里にはまだ転移魔法は使えないようだ。


「お前に使える訳ないだろう。“職業:ヒキコモリ”なんだから」

「な、何を~!? たくあんだって元勇者なんだから、どーせ“ニート”でしょ」


 勇者(たくあん)の言葉に、杏里はふふん、と勝ち誇ったような笑みを浮かべた。ヒキコモリVSニート……なんて、低レベルな争い。

 自分の勝利――一体、何の勝負だ――を確信して、勇者のステータスを見る。


  名前:たくあん

  レベル:100

  HP:999/999

  MP:999/999

  職業:勇者

  武器:聖剣ダムナティオ (+攻撃力800、光属性)

  装備:伝説の勇者のマント (+防御力800、全属性抵抗あり)

  称号:世界を救いし者


「( ゜Д゜)ポカーン」

「……ニートってなんだ? 新しい職種か?」


 知らない単語に首を捻る勇者。

 杏里はあまりの出来事(ステータス)にポカーンとしている。まさに顔文字でしか表現できないこの驚き!!


「“世界を救いし者”……。ズ、ズルい! それ私にちょーだい!!」

「無茶言うなよ。お前、世界救ってないだろ」

「たくあん動かして世界を救ったのは私だーっ!!」

「だから、お前は救ってないだろ。諦めて家帰れ、良い子だから」


 勇者は小さな子どもにするように杏里の頭を撫でる。飴ちゃんやろうか?


「ムキーッ!!」


 勇者の対応に頭のどんな回路がショートしたのか、杏里は奇声を上げてマントに噛み付いた。しかし、彼女では攻撃力が足りないためマントには傷一つ付かない。なにせ“伝説の勇者のマント”は防御力+800もあるのだ。


「おい、噛むな!!」

「たくあんの癖に、たくあんの癖に、たくあんの癖に~っ!!」


 勇者のくせになまいきだ。

 某ゲームのタイトルのようなことを思いながらマントに噛み付き文句を言う杏里を見て、勇者は何だか可哀想になったらしい。

 噛まれないように引っ張っていたマントから手を放し、宥めるように杏里の頭をポフポフと叩いた。


「分かったから。ちょっと落ち着け」


 顎が疲れたので、マントを口から離す杏里。

 なんか、唾液でベトベトになってしまった。同じように濡れている口を勇者に気付かれないようにそっと拭う。……サイテーだ。


「“プリート”」


 杏里の行為に気付いた勇者は、汚されたマントを見て嫌そうな顔をして、小さく呪文を呟いた。

 チャック・クエストでいう浄化の魔法である。もちろん、ゲームではこんな使い方はしなかったが。いや、そもそも“マントに噛み付く”とかいう地味に嫌な技はない。


「……お腹へった。たくあん、ポテチとかない?」


 勇者の魔法には気付かなかったのか、杏里は何の脈絡もなく食料を要求する。……お前、ホントに自由人だな。ファンタジーな世界に“ポテチ”なんてある訳ないだろう。ちゃんと(ごはん)を食べなさい。


「……街に戻るか。ここから先は食堂で話すぞ」


 何だか、イロイロ疲れてしまったらしい。ドンマイ勇者。


「ほーい!」

「返事は“はい”だ。伸ばすな」

「お母さんかっ!!」


 勇者の物言いに、杏里は華麗な異世界での初のツッコミを決めた。そのツッコミのキレがイマイチなのは仕方ない。まあ、ボケキャラだし。



   ◇◇◇



 ここは初級冒険者が集まる街、プリメロ・タウン。

 杏里と勇者の二人は、この街の大通りにある食堂の一つ“空飛ぶペンギン亭”で食事をとっていた。もちろん、勇者のオゴリだ。


「……お前、本当にソレ食うのか?」


 勇者は杏里が食べようとしているモノを見て、顔を引き攣らせている。

 彼らの座るテーブルにドンッと置かれているソレは“スライムの唐揚げ”であった。死ぬと消えてしまうはずの魔物をどうやって調理しているのかは、誰にも分からない。


「ほえ? でも、メニューにオススメって書いて……ない?」


 メニューを見ると、“鶏肉の香草焼き”の隣にオススメの文字が。杏里は一段上と見間違えていたようだ。“スライムの唐揚げ”……そんなモノをオススメする店は営業停止になるだろう。


「ソレ、罰ゲーム用だぞ。注文してる奴、初めて見た」


 相変わらず勇者の話を聞かない杏里は“まあ、いっか!”と、とりあえず一つ食べてみることにした。


「……もぐもぐ。…………オイシイヨ、たくあんも食べてみなヨ!」

「おいっ、勝手に俺の皿に置くな! 絶対マズかったんだろ!!」

「ソーダ系のゼリーを揚げて、ビミョーに生臭くしたような味……」


 ……ナニ、その味。一体どこの生物兵器?

 いや、しかしどんな料理にだって愛は込められているはずだ。食堂のオヤジの愛が。…………料理は愛だ! 愛があればLove is O.K.!!

 ところで、愛のバケツはどこですか?


「聞いてるだけで食欲が失せそうな味だな」

「さあ、たくあん。いっぱい食べて大きくなって」

「いらねえ!! 人に押し付けんな!」

「食べ物粗末にしちゃダメだよ、たくあん」

「じゃあ、お前が食え。……あ、オヤジさん。“鶏肉の香草焼き”追加で!」


 カウンターにいた食堂の店主は勇者の言葉に、“あいよ”と濁声で返事を返した。

 ちなみに、冒険者の集まるような食堂の店主は基本的に、無愛想でムキマッチョなオヤジか、肝っ玉母ちゃん風女将の二択だ。どちらも怒らすと怖い。閑話休題。


「~~~~っ!!!」


 杏里は勇者と店主の遣り取りにキラキラと目を輝かせる。

 その表情を見た勇者はゲンナリした顔をしつつ、嫌そうに問い掛けた。彼はこの短い時間で、杏里の生態を正確に把握してしまったようだ。


「聞きたくないが、一応聞こう。…………どうしたんだ?」

「今のチョー異世界っぽかった! 冒険者って感じだった!!

 くぅ~っ、私も“スライムの唐揚げ”追加で!!! ……あっ」


 うっかり追加してしまった。


「このバカっ!!! オヤジさん、冗談です! 今のナシで!!」


 慌てて注文を取り消す勇者に、二人の遣り取りに内心大爆笑していた店主は“鶏肉の香草焼き”を手渡す。

 勇者は新しい皿を受け取りながら、テーブルの脇に立った店主に“スライムの唐揚げ”が乗った皿を下げてもらった。幸い、残しても怒らないタイプに店主のようだ。……まあ、罰ゲーム用の料理だしね。


「ほら、これでも食ってろ」


 そう言って、勇者は杏里の前に“鶏肉の香草焼き”皿を置く。どうやら、わざわざ杏里のために注文してくれたらしい。


「……っ、ありがとう、お母さん!!」

「誰がお母さんだっ!!!」


 勇者は完全に“お母さん”認定されてしまった。……ドンマイ勇者。君の本当の苦労はこれからだぞ。





 『愛のエプ○ン』って、覚えてる人いるんですかね? ←本編に伏字使えよ(汗)

 いやー、五年以上前に終了した料理バラエティ番組なんですが、ヒドイ料理を作る人が多かったのが作者的に印象に残ってます。“スライムの唐揚げ”は……まあ、そんな味です。



 *どうでも良いことですが、“ゲーム脳~”のジャンルを恋愛からファンタジーに変更しました。……さすがに、この話で“恋愛”はナイかなと思ったので。ほぼノリだけで進むし。

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