ゲーム脳、念願の異世界トリップに成功する。
新連載です。
とにかくテンションの高い話が書きたかった。後悔はしていない。
―――私は、念願の異世界トリップに成功しましたっ!!
◇◇◇
夏休みもとうに過ぎた九月末の昼下がり。
今日は平日であり、学生であれば午後の授業を受けているはずの時間帯だ。……決して、“ちょっくらコンビニでも行こっかな~”と高校生が出歩く時間ではない。
「うう~っ、目がシパシパする」
不登校のヒキコモリ……いや、高校二年生の井沢杏里は画面の見過ぎで痛む目を擦りながら、近所のコンビニへと向かっていた。
面倒臭いが、杏里にとってのエリクサーである自室のお菓子ストックが切れてしまったため仕方がない。人間、生きているだけでHPもMPも消費するのだ。
杏里は中学時代から“二次元こそリアル”と言って憚らない生粋のオタクである。
辛うじて中学校は卒業しているが、ギリギリの成績で合格したはずの高校には一年生の五月から行っていなかった。別にイジメられた訳でも、勉強に付いていけなくなった訳でもない。不登校の理由は“ゲームへの愛が抑えきれないから”らしい。
「ぐふふふふっ」
今朝方――と言っても十時過ぎだ――ようやく全クリしたゲームを思い出し、杏里の口から抑えきれない笑いが漏れる。コツコツとレベルを上げ、カンストまでもっていった満足感は言葉にできないものがあった。
「やはり、天才ゲーマーの私に不可能はなかったっ!」
杏里は謎のポーズを取りながら大声で叫ぶ。
数か月前に発売されたそのゲームの徹夜プレイで意識が朦朧としており、いつも以上に彼女の自制心は緩んでいた。……普段は、もう少しはマトモなはずだ。
目の下のクマと相俟って大変気持ち悪いことになっているが、本人は気付いていない。
“ほら、あの子……井沢さん家の……。”とヒソヒソ囁く近所のおばさん達の声も、その耳には届いていないようだ。
陽気にゲームの曲を鼻歌で歌っていた。
「~~~♪」
ビミョーに音程が外れている鼻歌が唐突に止まる。
マンションのエントランスから一歩踏み出した瞬間に襲い掛かって来た蒸し暑さの所為だ。
「ルーラ!」
移動呪文を唱えてみたが、コンビニへは行けなかった。きっと“ふしぎなチカラ”によってかき消されてしまったのだろう。
お菓子を手に入れるという重要イベントの途中では無理だったか、と杏里は項垂れる。
しかし、ここで諦める訳にはいかない。
「灰に…灰になってしまう………」
マンションから出てわずか三歩で暑さに負け、今にも家へ引き返しそうな呻き声を出しながら少しずつ前へと進んで行く。
自他共に認めるゲーマーで昼夜逆転した生活を送っている杏里には、昼間のギラギラと輝く太陽は眩し過ぎたようだ。
ようやく目的地が見えてくる。
「はぁ…っ、はぁ…っ、長い道のりだった………っ!?」
光に目をやられたのか、暑さに頭をやられたのかは分からないが、フラフラしながら歩いていた所為で、彼女は轢かれてしまった。……暴走三輪車に。
「じゃま~、じゃま~」
彼女を轢いた三輪車に乗っているのは、柴田さん家のマサヒコくんだ。彼は三輪車の蛇行運転とスピード違反の常習犯である。よく町内会長の岩岡さんに怒られているが、一向に改善されていない。そんな姿がワイルドだと、同年代の男の子から尊敬の眼差しを集めている。
「………わっ、ちょ!?」
体力も運動神経もない杏里は、簡単に三輪車に跳ね飛ばされた。日頃の不摂生が仇になるとは……っ。
それだけであれば大した怪我もなく済んだのだろうが、彼女にとってはかなり運の悪いことに、跳ね飛ばされた先は数日前の台風で柵が壊れたばかりの川だった。ちなみに、現在絶賛増水中。
「ええええぇぇぇ………っ」
やや間の抜けた悲鳴を上げて、杏里は背中から川へと落ちていく。
『ポチャン……』
人一人が落ちたにしては軽い水音が、辺りに響いた。
作者はあまりゲーム知識が豊富ではありません。オカシなところがあれば、コッソリと教えてください。
DQの技名とか、伏字にするべきなんだろうか……。