空の女
父の年収約1200万円。ほどほどに良い暮らしを送ってきた。
母方の祖父は社長。人が良すぎて騙される前まではかなりのお坊ちゃま。その後苦労はしたものの、母はおっとりした性格に育った。
当の本人はというと、美人かどうかはわからないが、そこそこモテている。海外男性からのオファーも多く、変わった経験もできた。
頭の方はというと、これもそこそこで、進学校に進んだが、面倒くさがりの性格が災いして、進学校で落ちこぼれるというプチ挫折を味わう。
人にも恵まれた。先生、友人、上司。ほぼ苦労することなく生きてきた。
彼女はこの上なく脳天気に、また、怠惰に成長した。
彼女は、このまま幸せは続くと、根拠のない確信を持っていた。
しかし、彼女は気づいた。
自分の中身が空であることに。
美しいものだけを見ようとした結果、面倒なことは避けようとした結果、彼女の人生の密度は北海道の人口密度より低かった。
今、彼女は幸せである。だが彼女は不幸でもある。おとぎ話の平和な世界から、まだ一歩も踏み出していないのだから。