真昼の鬼火
作者が途中で挫折してオチに走ったなんちゃってホラー小説ですので悪しからず。
後書きにはみてみんの挿し絵機能の練習がてらに試したヘボキャラ絵付きです。お嫌いな方は見ないで下さいね。
「なあなあ!鬼姫塚って知ってるか?」
クーラーのない教室で、窓を全開にしてへばりながら昼食を摂っていれば、このうだるような暑さをものともしないクラス一のお調子者である笹本が力一杯聞いてきた。
「鬼姫塚ってあれだろう。丘向こうの集合墓地の隅にあるやつだろ。」
「あー。あの、その辺のでっかい石を積み上げただけみたいなやつか。」
一緒に食事を摂っていた友人二人が答えるのを聞き、自身もそう言えばそんなものもあったなと、当たりをつける。
「それがどうかしたんだ?」
「実はさ、出たんだって。」
「「「出た?」」」
「そう!出たんだってさ。………………………………………幽~霊~が~~~。」
「「「幽霊!?」」」
どんよりとした声を出しながら両手を前に出して幽霊の真似をする笹本に、思わず三人揃って疑いの眼差しを向ける。
「そう!幽霊!!しかも、普通の幽霊じゃない。なんと!真っ昼間っから出る、チョーッアグレッシブルな幽霊なんだぜ!」
笹本の言葉に余計不審の目を向ける俺達三人。だが、友人の一人である早瀬がはっとした顔をして、呟いた。
「そう言えば、そこ良く出るって有名だわ。」
「え、マジで!?」
「ああ、昼間っから出るってのは聞いた事ねーけど、夜は良く出るって聞いたことあるわ。」
「へー。良く出るねー。」
今一信じられないでいると、笹本が提案してきた。
「補習終わったら皆で行かねー?二組の岡本達は行くってさ。」
「どーする?」
「暇だから良いんでね?」
「確かになー。」
「おっしゃー!三名ゲット。一組にも聞いてくる!」
真っ昼間からの肝試しに了承の意を示せば、笹本は脱兎の如く駆け出して行った。
「本当にあいつは元気だなー。」
「「だな。」」
補習が終わった放課後、時刻は午後4時半頃。下駄箱前に集まったメンバーは12人。補習参加者ほぼ全員である。皆暇人のようだ。
揃ったところでぞろぞろと移動していく。集合墓地の場所は、学校から歩いて30分程の所に有るのだが。この墓地は中々広く、目的の鬼姫塚は更に15分程歩いた高台の上に鎮座している。
「あち~。まだ着かねーのかー。」
「早くしないと暗くなるんじゃねー?」
「それならそれで普通の肝試しすれば良いじゃん。」
「あー。確かに。」
炎天下の中下らない事を喋りながら進んで行く。
墓地に入る頃には、陽射しが少し陰って来た為、暑さもそれほど苦にならなくなってきた。陰ったと言ってもまだまだ十分明るい為、真昼の肝試しは余裕で決行出来るだろう。
墓地に入ってから10分程歩き、そろそろ到着だと、浮き足立って来た頃合いに、ふと視線を感じて立ち止まる。
「石田?どうかしたか?」
「いや。何か見られてるような気がして。」
「え、まじで!?」
「もう出た!?まだ着いてないよな?」
「いや。視線を感じたような気がしただけで…。」
「こんにちわ。」
「「「ぎゃーーーっ!!!でたーー!?」」」
興奮し出すメンバーに、気のせいかもしれないと伝えようとすれば、聞きなれぬ声が響いた。一斉に振り向けば、そこには人の姿は無く、途端に大絶叫を奏でる。
目に見えぬ存在にパニックに陥っていると、再び声が聞こえてきた。
「あはは。こっちだよ。」
足元から響く声。本来であるならば聞こえて来る筈のないその場所に、恐る恐る目を向ければ、そこにいたのは、
「「「生首~~~!?」」」
「いや。繋がってるから。」
坂の下から顔を出す人間であった。
「びびった~!」
「マジでこえーし!!」
「あはは。ごめんごめん。こんな時間に制服着た団体が来るなんて珍しいから、何してるのか気になって、声かけたんだよ。」
アキラと名乗ったその少年は、そう宣って笑った。
だぼっとしたロンTにハーフパンツ、手には数珠といった微妙な出で立ちではあるが、中々綺麗な顔立ちの美少年である。イケメンは何を着てもイケメンとか。イケメン爆発しろ。
この集団墓地を管理する寺の子供だそうで、掃除をしていた所にやって来た俺達団体に興味を示したそうだ。
「しかし何でまたこんな時間に鬼姫塚へ?肝試しには早いよ?」
「昼間に幽霊が出るって噂を聞いて。でも、やっぱりココ肝試しに人気なんだ。」
「そりゃーもう。夏は姫様の独壇場だからね。」
「姫様?」
「何だ。君達、鬼姫塚の事を知らずに来たんだ。」
「いやー。ほとんど成り行きで、勢い任せに来たから。」
「へー。」
アキラは暫し思案する様子を見せ、俺達に提案してきた。
「じゃあさ。鬼姫塚の由来を教えるからさ、肝試しに入れてよ。」
「肝試しに?」
寺の子供なら飽きる程見に行っているだろうに、変わった奴だと見やれば、
「一緒に行けば全部で13人だ。13という数は日本でも中々に不吉な数だと考えられているんだよ。」
何とも不気味な事を言い出した。
告げられた言葉と、にんまりと弧を書く口許が、ちょうど逆光になって表情が良くわからなくなっていた事もあり、酷く印象に残った。背筋がゾクリとする程に。
「昔々、この辺りには力のある鬼が住んでたとされていて、ある時その鬼が城の美しい姫様を拐ったんだってさ。娘が大切だった殿様は鬼に返してくれと懇願するが、鬼は聞き入れない。どうしたもんかと悩んでいると、少しやつれた姫様が身籠って帰って来た。話を聞けば、鬼は本当は帰したく無かったが、鬼の世界が合わなかった姫様は日に日に弱っていき、仕方がないと返したそうだよ。鬼は姫様と産まれてくる子供を少しでも傷つければ滅ぼしてやる。逆に大切に慈しむならば子供が生きる限りこの辺りの土地を富ましてやると約束したそうだ。そして、その子供である鬼姫様が眠る塚が今から向かう鬼姫塚だよ。」
歩きながら説明するアキラの話を聞いてふと思う。
「幽霊って言うより妖怪みたいなもんなのか?」
「つか、鬼って本当にいるの?」
「さ~。どうだろうね。これはあくまで我が家に伝わる伝承だから。」
そう言ってアキラは立ち止まりスッと指を向ける。
「後は、自分で確かめなよ。」
指し示す先は目的地である鬼姫塚。
ゴクリ、と誰かの喉が鳴る音が聞こえる。
「どうする?1人ずつ行くか?それとも…。」
由来を聞いたせいか、本当に何か出るのではないかと言う気がしてきている。
「じゅ、13人って、こう言うのに丁度良い数字なんだろ、だったら皆で行こうぜ。」
「お、おう。そうだな。」
「皆で行くか。」
そう口々に同意を示し、前に進んで行く。心なしか、周りがシンと静まり返っているような気がする。
じゃりじゃりと音を立てる自分達の歩みを聞きながら、砂利道を一歩また一歩と進んで行く。
後、五歩程で目の前にたどり着く、丁度そんな時に、自分達の歩く音以外の高めの音を耳に拾い、ピタリと足を止めた。
クスクスクスクス
耳を澄ませば聞こえて来るか細い少女の笑い声。
足が縫いついたように動かない。恐怖故か、それとも目には見えぬ力が働いてか。震える思考では何も思い付かない。
辺りは大分日が陰り、うっすらとしたほの暗さを演出している。あと一時間もしない内に、暗闇に包まれるだろう。
焦る思考と、けれども何かが起こるのを見てみたいという期待のようなものがない交ぜになった状態で、ただ視線は鬼姫塚にひたと縫い付けられるように向けられる。
そんな一種の膠着状態を破るのはからかうような声。
「面白そうな事しているね姫様。私も混ぜてよ。」
それは、自分達の真後ろから聞こえた。
ギギギッと錆び付いたロボットのように振り向けば、禍々しい程に紅い夕焼けを背に面白そうに笑うアキラと
宙に漂う蒼い鬼火達。
「「「出たーーーっ!!!」」」
動かなかった足が嘘のように、一斉に弾けたように走り出す。
鬼姫塚を通り越し、集団墓地を出て、息が切れるまで走り続ける。
酷使した肺と足を休めながら、公園で息を整えていれば、早瀬がポツリと1人ごちた。
「そう言えば、あそこの寺に息子いないわ。」
「は!?」
「婆ちゃんが、俺達と同い年の娘がいるっていってたわ。」
「はー!?じゃあ、あれか。俺達はイケメンの幽霊に騙されたのか!?」
「もしくは、寺の子供を語るただのイケメンにな。」
「いや。鬼火漂ってたじゃんか。普通の人間じゃねえよ。」
「じゃあ、あれか。あの話に出てきた鬼のイケメンか!?」
「結局イケメンなのには変わんねーよ!」
「あー!もー!」
「「「イケメン滅びろー!!」」」
脱兎の如く走り去っていった少年たちを見送りながらアキラは首を傾げた。
「あらら?ちょっとからかっただけなんだが。おかしいなって!?姫様!こんな所に鬼火出さないで下さいよ~。これでは私が幽霊みたいじゃないですか。」
――クスクスクスクス――
「笑って誤魔化すんじゃありませんよ。それから、人を脅かすのは夜だけって約束でしたよね。昼間は普通のお参りの方もいらっしゃるんですから。我慢して下さいね。」
――むぅー。――
「夜来る肝試しの人達は、怪我をさせない程度にうんと怖がらせてあげていいですし。何より此れからは肝試しのシーズンですからね。沢山人も来ますよ。」
――ん!――
「それに。ちゃんと約束守らないと、本家の怖~い爺共がお仕置きに来ますよ。」
――やー!!――
「じゃあ、ちゃんと約束守って下さいね。」
――あーい。――
「しかし、さっきの少年達の制服の学校、うちの高校と通学路が被るんですよね。」
――そーなのー?――
「はい。明日はうちも登校日ですし、1人ぐらい登下校中に会うんじゃないですかね。楽しみです。」
――悪い顔してうー。――
「あはは。気のせいですよー。」
鬼姫塚に寄りかかりながら楽しげに交わされる会話を聞くものは誰もいない。
少年達はまだ知らないアキラによってもたらされる最大の恐怖と絶望を。
「聞いてくれるか同士よ。」
「どうした岡本。」
「何かあったのか。」
ほうほうの体で逃げ帰った翌日、登校して見れば、絶望を顔に滲ませた岡本の姿がそこにあった。
「実は今朝、ヤツに出会ったんだ。」
「ヤツってまさか!昨日のヤツか!?」
「あのイケメンが出たのか!?」
「まさか追ってきたのか!?」
途端に騒ぎだす肝試しメンバー。昨日の恐怖がせりあがってくる。
「まず先に言っておく。この話は幽霊だとか妖怪だとかは次元の違う話だ。」
いきなり宣言された言葉に目を白黒させる一同。岡本が何を言いたいのか今一よくわからないまま話を聞きつづける。
「これを聞いたら恐らく、絶望と言う名の深い傷を負うだろう。本当ならば、この話は俺1人の胸に留めておくべき事なのだろう。だが、俺にはこの苦しみを耐える術はない!!」
何やら1人物凄い葛藤を始める岡本に、メンバーは息を飲む。どれ程の恐怖と絶望が待っているのかと。しかし、共に肝試しを行った以上、その延長で岡本1人が苦しむと言うのは可笑しな話である。
「何を水臭い事言ってんだ。岡本!」
「俺達はあの恐怖体験を乗りきった仲だろ!」
「最後まで付き合うぜ!」
「!!皆ありがとう!では、心して聞いて欲しい。」
そう言って姿勢を正す岡本を見て、自然と背筋を伸ばす。無意識に手を握り、拳を作れば、嫌な汗が出てるのがわかった。だが、昨日の実体験に比べれば、伝え聞く話など恐れるまでもないと自分を鼓舞して話を伺う。
嫌な静寂の中、岡本は言葉を紡いでいく。
「これは、今朝。いや、ほんの20分ばかり前の話だ。いつも通り登校していた俺は、昨日聞いた声に呼び止められ、振り向けば…。」
不自然に切られた言葉に咄嗟に息を詰める。岡本を見やれば、固く目を閉じ何かに堪えるようにしていた。やがてそっと目を見開き、意を決して告げられたのは、
「……振り向けば聖蘭の制服を身に包んだイケメンがそこにいた。」
思考が止まるとはこの事だろう。たっぷり10秒ほど脳を停止させ、再起動させるように言葉を吐き出す。
「聖蘭ってあの?」
「通り二つ挟んだ所にある?」
「ごきげんよう。が口癖な?」
「男の憧れのお嬢様が通う?」
「聖蘭女学院の制服を?」
「たぼいロンTに半パンの?」
「イケメンが着ていた?」
「「「ぎゃーーーー!!俺達の夢を返せーーー!!!」」」
少年達の心には淡い憧れを砕かれて、暗い絶望が植え付けられたある夏の日の出来事。