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使い魔王と王の剣  作者: した
使い魔王と少年
2/4

王と友人

時代とともに重厚さを増した、ニス光沢のドアを開ける。

重い音とともに応接室には見慣れた人影があった。


「スティ、来てたのか。」

「ああ、後こいつも。」

「よっ。泥臭いのは取れたか?」

応接室に入るとまず目に入ったのは人型模型に着せられた豪華な服。

そしてその前で肩の位置を調節している青の国の王族の長兄ステイナス・クライスン。あだ名はスティ。

品よく切りそろえられた青い髪と優しそうな同色の瞳を持つ。

さらにそのステイナスが指さしたソファーでくつろいでいるのが黄色の瞳と、男にしては長めの髪を後ろで一つにまとめている青年。

黄の国の王子ディー・ヴィラーヴだった。

「ちゃんと風呂に行ってきたよ。どうせまた寝るまでに汚れるけどな。」

「また山に行くのか?」

「ディーも廊下での話を聞いていただろう。オルはこれから加工だよ。」

オル、とはオレーヴの事だ。

フェイはもちろん他の多くの国民にもオレーヴと呼ばれる彼をオル、とあだ名で呼ぶのは年の近いこの二人くらいである。

スティの最もな指摘にディーは納得、という表情を浮かべた。

話が一段落した所でオレーヴが本題の話題を振る。

「で、これが私の?」

「ああ。うちの新しい機械で作ったんだ。」

「糸を仕入れたのは俺だぜ。西方のとびっきり上質なものを。」


ステイナスの父が治める青の国は現在、工業を中心とした産業が発達している。

魔法、魔術の技術が高かった青の国は技術力に優れ、4国の最先端を行く技術を開発している。

紡績機や縫製機もこの国の発明だ。

その青の国をおさめる予定のステイナスは自身も手先が器用で今では珍しい魔術・魔法も扱うことができる。

二つ年下、ディーと同い年の婚約者がおり、結婚は秒読みとの噂もあり、将来は安泰だといわれている。


一方、変わらず商業に優れていた黄の国は少ない資源しかない土地にも関わらず対外貿易で大きな利益を上げ続けている。

中でもディーは若干19歳でありながら父とは独立して仕事を任されるほどの実力を持っている。

現在、唯一王位継承権をもつディーは実力も相まって国内外から期待されている男だった。


「これは…本当に素晴らしいな。」

オレーヴが衣装をよくよく見てため息にも似た感嘆の声をあげる。

先ほどステイナスが肩の位置を調節していた服。

オレーヴの髪と瞳の色よりすこし濃い赤を貴重とした衣装で、金の刺繍と各国を表す四色が使われたエンブレムが左胸のあたりを鮮やかに飾る。

式典などで王侯貴族が用いる礼服ではあるが、新調されたのには理由があった。

オレーヴに衣装合せをしながらステイナスはその理由をつぶやく。

「ナチュムにはここ数日見てないな。今日あたり行ってみようか?」

「やめておけ。直前準備で大慌てだろうさ。」

「俺の妹の嫁入り時だってあんなに大騒ぎだったんだ。戴冠式なんてもっと大騒ぎに決まってる。」

そう、先ほどから名前の出ているナチュム、フルネームでナチュム・アフェイルという少女は現時点で緑の国の姫である。

ただ、三日後には病死した父に代わり正式に緑の国の王女となる。

国を齢16歳の少女が背負うこと、あまりにも早すぎる王の死により引継ぎが不十分なことなども合わさり、ただでさえ大きな王位継承という行事の準備ががいっそう慌ただしく行われていた。

「じゃあ会えるのは戴冠式だな。」

「献上品は満足いくできになりそうか?」

「ああ、上質な素材は見つけたから、後は加工だな。もしかしたらスティのとこの工房を借りるかもしれない。」

「お好きにどうぞ。今はみんな仕事に手がついてないからね。」

あの赤い鉱石をナチュムに献上する、というのがオレーヴが任せられた大きな仕事だ。

自分で採掘に向かったのは彼の独断であったが。

「そういや、うちの妹君も戴冠式には絶対来るってさ。」

「フィーネか。元気にしてるか?」

「ありあまるほどに。手紙の筆跡だけで伝わってくるさ。」

ディーの妹フィーネはナチュムと同い年で半年ほど前に隣国の貴族の元へ嫁いだ。

純粋な恋愛結婚であったが、相手がヴィラーヴ家の有力な貿易相手であったために両家の繁栄に大いに貢献する結果となった。

ナチュムとはとても仲が良いので、必ず来ると言い張るのも納得がいく。


「さて、こんなもんでどうかな。」

最終的な着付けを終わらせたステイナスがオレーヴの肩を叩いた。

誘導されるがままに壁にかかっている姿見の前へと移動する。

「似合ってるじゃん。」

「ピッタリだよ。」

「そりゃどうも。ここまで着こなしてもらえるとこっちも嬉しいね。」

三者三様の意見を述べる。

当日中に着るシャツは更に豪華なものになる予定だが、上着だけでもその完成度は素晴らしかった。

仕立てたステイナス自身もご満悦の様子で口元を綻ばせている。

「さて、汚してしまう前に脱ごうかな。」

「早いな。折角だからフェイあたりに見せればいいのに。」

「面倒くさいよ。それに当日の楽しみが減るだろう?」

「なるほどね。」

オレーヴはてきぱきとその豪華な衣装を脱いで元のYシャツ姿に戻った。

それだけで王子の風体から17歳の少年に姿を変えた。


ディーが切り出す。

「夜はどうする?」

「加工で徹夜だから私は無理だな。」

「僕もサイアとラジューに合成の魔法を教える約束をしてるんだ。」

「二人とも忙しいのか。にしてもまだスティのとこの双子は魔術の真似事か。」

「まあ確かに真似事かもしれないけど本人達はいたって真剣だよ。」

「そうかい。」

ステイナスの双子の妹弟サイアーとラジューは近代では廃れ気味の魔術を得意とする兄に憧れて日々鍛錬に励んでいる。

がうまくいかない。

「で、ディーはまたうちの酒場に?」

「あ、バレた?」

「最近私やスティを外出に誘う時といったらリリィに会いに行く時くらいだろう。」

リリィというのはオレーヴの父、赤の国が有する領地の中心部、オレーヴの家から5分ほどにある酒場『ニキオ』の看板娘だ。

快活な性格とその美しさに一目惚れしたディーはことあるごとにオレーヴやステイナスを誘っては酒場に通っていた。

「そうだっけ?まあ仕方ない。今日も一人で行くとするか。」

「ニキオの親父は怖くないのか?」

ニキオの親父とはは店名の通り酒屋の店主で、本名もそのままニキオである。

つまりリリィの父親だ。

大工仕事や狩猟をして暮らしていてもおかしくない、というほど筋骨隆々で性格は豪胆。

十代のリリィが夜店で仕事を手伝っても悪い虫が付かないのはこの父親の力のおかげだ。

「まあ怖いけど…『そのようなことでくじけていては真実の愛は手に入れることなど不可能だ!』」

古代の戦士の恋愛を描いた小説の言葉をそっくりそのまま真似てディーは力強く言い放った。

小説の中では戦士が国の姫と恋に落ち、結婚に猛反対する王から送られる刺客を倒して言った一言である。

実際ディーにとって、ニキオの親父は手ごわい相手に他ならなかった。

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