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使い魔王と王の剣  作者: した
使い魔王と少年
1/4

赤い石

「この国の昔話をしよう。」


王城前の噴水広場で、老人が語りだした。

話し始めたのはこの国の建国と魔王討伐の歴史。

この連合王国の昔話。

同じ頃、噴水広場の北、赤の国を囲む大鉱山の一角で王子は岩を掘っていた。

齢17、赤い髪と赤い瞳をもつ、この赤の国の正統後継者その人である。

王子は額から汗を流し、一人で岩を砕き崩していく。

この穴はほとんど一人で掘り進めたものだ。目当てのものを見つけるために。

一際大きな岩を砕いたその時、それは姿を表した。

大ぶりの鶴嘴を投げ捨て、小型のものでその周りを慎重に崩す。

目当てのその石が全貌をあらわした。

大事そうに大事そうにそれを両手で掴む。

「オレーヴ!」

穴の入口、光が差す方から声がした。

逆光になっているのは恰幅のいい男。

オレーヴと呼ばれたその人の手元、大事そうに握られているその石を見て感嘆と喜びの声をあげた。

「ついに見つけたか!それにしてもこれまた大きいものだな。」

「ああ、前見つけたものでは不足かと。」

手の中の石はそのままに、オレーヴと呼ばれた男は答えた。

「あれも十分すぎるだろう。」

「いや、ナチュムの王位継承にはこのくらいのお祝いが相応しい。」

「しっかし間に合うか?ナチュム様の戴冠式まで後三日だろう。」

「加工はこの前の石で大分身についた。睡眠時間を削れば問題無いさ。」

「戴冠式の貴賓席で眠りこけてるようだったら、俺が死ぬまで語り継いでやるさ、オレーヴ殿?」

「勘弁してくれ。」

先ほど掘り出したその石を光の差す方へとかざす。

掘り出したその石は熱い血のように、その石を持つ男の瞳のように、赤く、赤く輝いていた。



この国は昔、4つの髪と瞳の色を持つ部族が争いを繰り広げる大地であった。

赤の国は素晴らしい鉱山を持ち、富に溢れ

緑の国は名のとおり自然に恵まれ

黄の国は商才に優れた人々が生き、貧しい土地ながら文明に優れ

青の国は技術に秀で、魔術を得意とした

それぞれの国はそれぞれの持ちうる全てのものを賭けて、全ての国を手に入れようとしていた。

4国の争いは冷戦と激戦を繰り返し、何十年と続いていた。

そんな中、遥遠く西の大地に、魔物とそれを統べる凶悪な魔王が現れたという噂が流れてきた。

西の氷の大地に現れた魔王は通る国、村、街を荒し北西の洞窟に根城を築いたという。

その噂を聞いた4部族は、魔王討伐を決意した。

領地争いを一時休戦とし、4つの部族からそれぞれ一名ずつ4人の若者を選出、魔王討伐へと旅立たせた。

武術に優れた赤の国の若者

癒やしの歌を歌う緑の国の少女

魔術での援護をした青の国の青年

旅の管理、計画の全てを取り持った黄の国の少年

4人は各地の魔物を討伐し、魔王の巣食う洞窟まで辿り着いた。

魔王は強かったが、長い長い戦いの末、赤の国の若者の剣が魔王の心臓を一突きし、見事魔王を打ち倒した。

4人の勇士は無事母国に帰り、協力して魔王を倒した4人を称え、4つの国は一つへと統一された。


「その時の4人の勇士の子孫が今の王家の人々なんじゃよ。」

いつの間にか噴水の前に集まっていた子供たちも、まどろみと共にその話を聞き流している。

もう何度と聞いている話だ。

「遠き地まで赴いた4人は、旅した異国の文化を国に取り入れて、この連合王国に更なる発展を…」

「その辺りにしてやりなよおおじじ。みんな聞き飽きたって顔をしている。」

おおじじと呼ばれた広場の老人が振り返る。

噴水の斜め後ろ、一人の王子がそこにいた。

その姿は王子と呼ぶには相応しく無い砂埃を被った姿で、手の内には確かにあの赤い石。

「おや、オレーヴ、来ていたのか。」

「俺も父もおおじじから何度もその話を聞いてる。耳にタコができたぞ。」

「そうかそうか。いやしかし、そんな土だらけの格好で一体…」

「オレーヴ様!」

二人の会話を割って入るように男性の大声が響く。

「フェ、フェイ!」

フェイと呼ばれた男は赤の国に仕える執事だ。

その役目はバトラーに近い。

胸元に赤の国を表す剣の刺繍のある燕尾服を揺らしながら早歩きでオレーヴに近づく。

その表情には鬼気迫るものが確かにあった。

「また山へ入ったのですか!この間『しばらくは行かない』と申されたではありませんか!!」

「す、すまない…」

フェイの気迫に押されてオレーヴが一歩引く。

「全く、最近のオレーヴ様は流石に活動的すぎますぞ。私がどれだけ心配していると思っておいでですか!!」

「分かった分かった。ナチュムの戴冠式が終わったら当分は大人しくしているさ。」

「当分って、どうせしばらくしたらまた鉱夫に混ざって山へ行くでしょう!」

「本当に当分は行かない。読書でもしているから。」

「本当ですな?」

「本当だから。その顔はやめろ。」

依然として表情を変えないフェイをオレーヴが止める。

おおじじが続く。

「フェイ、いささか最近気の短さが増しておるように思うのじゃが。」

「おおじじ!オレーヴ様が山へ入って大怪我でもしたらどうするのです!?」

「この年の若者などみなこのくらい活発というものじゃろう。かくいうお前も十代の中頃など…」

「あー!もうその話は良いのです!オレーヴ様!城に戻りますぞ!!」

なんの話を思い出したか、おおじじに反論できないまま、オレーヴに向かって帰宅を促した。

オレーヴは大人しくそれに従う。

反抗など無駄なのだ。この忠誠心の塊に対しては。

「ということでおおじじ、私は家に戻るよ。年なんだからあんまり外に長居はするなよ。」

「ありがとう、オレーヴ。良いものが作れるとよいな。」

赤い石に確かに気付いていたおおじじは一言付け足した。

「ああ、戴冠式が楽しみだ。」


城といっても、さほど豪華なものではない。

民主化を進めてきたこの連合国は王政とは呼びがたい。

実質対外交渉と国内の争いの平定、その他雑務を主な仕事とする王の権威は大きくはない。

故に城とは名ばかりの歴史ある邸宅、それがオレーヴの家である。

勇士の子孫4色の王はみな、これ以上の権力を望んではいない。

元々自分の手柄ではなく、先祖の栄光の恩恵を受けている甘ったれとさえ考えている王族さえいる。

そのような意識があってからか、山へ入り鉱石を掘り、民と共に畑を耕し、商業に従事し、技術の向上を目指す。

現在における王族は、一国民であることを望み、国民の代表者である。

ただ、赤の国の家臣フェイ・ウォッツその人は、あまりに活動的すぎるオレーヴの行動に神経をすり減らしていた。

「怪我…まして死傷など負ったらどうするのです。」

「最悪死んだらサゲインが立派に王位を継いでくれるさ。あいつはよっぽど私より頭が良い。」

「そういう事ではありません!オレーヴ様もサゲイン様も王位を継げばそれは立派に国を守ってくれるでしょう!しかしそれとこれとは別です!」

フェイの説教は当分おさまりそうにない。

廊下、もしかしたら家じゅうにその声は響いている。

二人の…どちらかといえばフェイの声を聞いて廊下の突き当たりにある一際大きな扉が開いた。

「どうしたフェイ、そんな大声を出して。」

「王!あなた様からもオレーヴ様に言って下さい!また鉱山に行ったのですぞ!さらに私に無断で!!」

王と呼ばれたその男はため息まじりに笑った。

「『また』ということはもう分かっているだろう?オレーヴが聞き入れないことを。」

そこには諦めというより息子を信頼している笑いがある。

その笑いに根負けしてフェイは不満げに口をつぐんだ。

フェイがこれ以上話すことは無さそうだと判断すると父は息子に話しかける。

「オレーヴ、調子はどうだ?」

「これを。」

オレーヴは右手を差し出す。

その手には確かに赤い石。

赤く輝く石は通常この国の鉱山で取れるそれと比べると規格外に大きい。

「やはり献上品はお前に任せて正解だったな。一級品に仕上げることを期待するよ。」

「確かに、父さん。」

一呼吸を置くと、父は続けた。

「さて、その戴冠式の時の礼服が届いている。風呂で泥を落としたあと試着なさい。」

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