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天獣は私が「亡国の姫」だと主張する  作者: 天道源


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第2話 ここはどこ、私はだれ

「ん、ん……」


 昼寝を終えたときのような、重たいまどろみの中に私は居た。


 太陽が天に昇って、今から朝が始まります! なんて心地よさとは別物の、戻りたくない現実への接続作業のような目覚めだ。


「――さま、おきてくださーい」


 声がした。

 幼い声だ。

 したったらずな、でも誠実そうな子どもの声……だろうか。


 もう少し寝ていたい。起きたくない。というか、起きられない。

 ……起きられない?

 

「……重い」


 体がものすごく重い。

 目を開くのも重い。

 すべてが重い。

 まどろみが重いなんて表現したけれど、何もかも、すべてが重かった。


「サクヤさまぁ、おきてー?」


 ようやく開いた視界の中に現れたのは――でっかい猫。

 いや、小さな虎か……?

 それが、仰向けに寝ている私の体の上に居た。

 抑えつけるように、じゃれつくように、まるで小さな子供のように――小さな虎が口を開いた。


「わ。サクヤさま、やっと起きた」

「うそ……猫が喋ってる……」

「虎だよ?」

「虎なのね……」

「うん!」

「子供なのね……」

「そう!」 


 なんの会話だこれは。

 夢か? 夢なのか? 夢に決まってるよね。

 よし、じゃあ起きよう。

 こういう時は逆に行けばいいだろう。

 つまり、寝ればいいんだ。

 夢で寝ればきっと、起きられる。

 そうしたら、私は目覚めるんだ。あの、汚くて、臭くて、いじわるな大人たちがいる私の世界の中心へ――最悪な現実へ。


「わー! また寝るのー!? もう三日も寝てるんだよー!」

「三日!?」


 喋るわけのない猫……じゃなくて、虎の声に、思わず起き上がった。

 三日も寝ていた? それはさすがに体も重くなる。理由がわかれば、それはただの怠惰であった。


「わーっ」


 小さな虎が私の体からころころと転がり落ちていく。


「あ、ごめん。大丈夫? いや、待って。そもそも虎はしゃべらない……」

「いたいー」

「喋ってるよぉ……」


 夢だよね? 夢じゃないのか? ずっと目が覚めないよ。

 ていうか、三日も寝ているという言葉を信じて起きている時点で、これは夢じゃないのではないんじゃ……。


 私はあらためて、自分の置かれた状況を確認してみた。

 まず、服は着ている。

 制服だ。私服なんてほとんど持っていないし、持っていても誰かのおさがりや寄付のものだから、基本的に制服を着て生活をしている。

 体を動かす。重い体は、寝すぎってことらしい。それ以外には気になることはない。薄手の布が体にかけられていたので、それをはがすが、年相応の肌と制服があるだけ。怪我もしていないようだ。

 荷物はない……あれ? そもそも荷物は持っていないか。スマホなんて持たせてもらえないし、私物だって存在しないようなものだ。


 周囲を見る。部屋だった。すべて木製だ。

 ログハウスと呼んでいいのだろうか。とにかくすべてが『木』である。

 地べたに寝ていると思っていたが、木組みのベッドの上に布団を敷いて寝かされていたらしい。

 窓ガラスがあったが、なんというか、随分ともろそうだった。現代建築物というより、何十年も前の廃墟にありそうな薄さだ。

 しかし、部屋は綺麗である。


「私、どうしてこんなところに寝てるの……?」


 回答を期待したわけではないが、舌ったらずの声が返ってくるものと思っていた。だが、なにもない。

 いつの間にか、 小さな虎は消えていた。


「やっぱり夢だったんだ……虎がしゃべるわけがない……」


 いや、待て。

 話す虎が夢?

 それはいい。

 じゃあ、ここはなんだ?

 虎は夢だとして、この部屋に寝ている状況は?


「……そうだ、思い出した。私、図書館のトイレにいって、それで……」


 それで……。

 たしか、背後に男がいて……。

 私に声をかけてきた……。


「ま、まさか……これって、誘拐……?」


 思い至った事実に、息をするのが苦しくなる。

 だが、状況的にそうとしか思えなかった。

 

 トイレで倒れたなら病院にいるはずだし。

 これが夢なら覚めるはずだし。

 こんな辺鄙なところに寝かさているなんて、どう考えてもおかしい。


 着衣の乱れはなかったけど……虎が喋っていた。


「薬……なにか、幻覚を見せられて……?」


 なんてことだろう。

 それが本当なら早く逃げなくては。

 でも、なんで私なんかを誘拐するんだろう。

 お金なんてないし、容姿だって目立たないし、誰かに恨まれるほどの交友関係もないし。


「いや、そんなことを考えるのは先だ……いまはとにかくここを出よう……」


 頼りない体をなんとか動かして、ベッドから降りようとした。


 その時だった。


 ――外につながっているだろうドアが、ゆっくりと、開いた。

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