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11話~魔石ドレス完成~

 魔石を装飾に使ったドレスが完成したという。

 その一方を受けて、私は再び店へと向かった。


「こちらです」


 お店に入り、案内された先には完成したドレスがあった。今回作ったドレスは体のラインに合わせたマーメイドラインというタイプらしい。基本は絹の白い生地としながら、スカート部分には何層にもなるドレープを重ねている。そのドレープに小さく加工し、魔力を充填した魔石をちりばめている。

 さらに腕や胸元、背中はレースで縁取られ適度な透け感を演出している。

 私のアイデアとおばあちゃんのレース、そしてお針子の優れた技術で出来上がったドレスを前に、私は見惚れるしかなかった。


「素敵…」


 自然とそんな声が漏れてしまう。心には感激の感情しか湧き上がらない。しかし、それだけではないという。


「失礼しますね」


 そう言って、部屋の窓に目隠しを施していく。部屋の中が薄暗くなると、ドレスにちりばめられた魔石の輝きが顕著になり、まるでドレスそのものが光り輝いているように見えた。


「いかがですか?」


 そう言ってさらにドレスを身に着けたトルソーを回転させた。スカートが回転によってふわりと舞い上がり、まさしくそこには舞い踊る星屑が演出されていた。


「はぁ……最高です!」


 まさかここまで素敵なものに仕上がるなんて思わなかったわ。このドレスなら…きっと売れる!

 ドレスにうっとりしていると、付き添いで来ていたネイサンが後ろから声をかけてきた。


「じゃあ早速試着してみたらどうっすか?」

「えっ?」

「そうですね、ではこちらに」

「えっ、ちょ、待っ…」


 有無を言わさずお針子さんに奥へと連れていかれる。あれよあれよと服を脱がされ、ドレスを着させられていった。


(うっ、結構重い…)


 思った以上にドレスは重かった。ドレープと魔石の重さが肩にずっしりとくる。美しさのためには仕方ないかもしれないけど、まぁそんなにしょっちゅう着るものでもないだろうしね。


「どうですか?」


 お針子さんに言われて着付けが終わったことが分かり、全身鏡の前に立つ。

 素敵なドレス。しかし、それを着ている人間が私なせいで、ドレスを着ているというより、ドレスに着させられているという感じが強い。

 せっかくのドレスが…私のせいで格落ちしたような感が否めなかった。

 ドレスを着た私の表情が優れないのに気付いたのか、お針子さんから気づかわし気に声を掛けられる。


「いかがされました?」


(こんなきれいなドレスは、私みたいな下町娘には似合わないわ…)


 ドレスが出来た高揚感は完全にどこかに行ってしまった。今はもう一刻も早く脱ぎたくてしょうがない。


「あの、もう脱いで…」

「さぁ、お披露目なさいましょう」

「えっ、ちょっと!」


 脱ぎたい。そう言おうとしたのにお針子さんに手を引っ張られてしまう。

 更衣室を出てさっきの部屋に戻ると、そこにはいるはずのない人物がいた。


「っ!あ、アーネス…ト!?」

「クレア…」


 まさかアーネストがいるとは思わず、思考が止まってしまう。

 アーネストはドレス姿の私を唖然としている。

 こんな姿を見られたくなくて、思わず顔を手で隠してしまった。


「…綺麗だ」

「っ」


 アーネストの賛辞に身体が喜びに震える。何の飾り気も無い率直な言葉が、今は何よりも心を包み込んでくれた。


「な、な、なんでアーネストが…」

「連れてきたっす」


 ネイサン―!!やっぱり元凶はこいつよね!?

 こともなげに言い放った執事を指の間から恨みがましく見ていたら、その視線を遮るようにアーネストが立ちはだかる。


「…い、今の君はまるで夜空に浮かぶ星屑のようにきれい、だ。君の前、では、どんな花も霞んでしまうだろう、な」

「………」


 なにその棒読み。

 なんか色んな感情が渦巻いたはずなのに、スーッと消えていく。ちょっと背伸びしてネイサンを見たら、あちゃーって感じで顔に手を当ててる。なるほど、これの元凶もあいつね。


「はぁ……」


 どうせネイサンが、私を賛辞するための美辞麗句を覚えさせたというところでしょうね。

 でも、アーネストのヘタすぎる演技まではカバーできなかったと。

 ついため息が漏れると、アーネストは目を泳がせ始めた。そして後ろを振り向く。


「お、おいネイサン、反応が違うぞ?」

「殿下、バラしちゃダメっすよ!」


 慌て始める主従を前に、なんだかドレスが似合わないだなんて悩んでた自分がどうでもよくなっちゃったわ。

 その場でくるりと回ってみる。ドレープがふわりと浮き上がり、ドレスの裾が広がる。それを見ていると、本当に自分がドレスを着ているんだって実感がわき上がってくる。


「ふふっ」


 なんだか楽しくなってきたわ。


「お気に召していただけたようでよかったですわ」


 お針子さんにも言われ、少し照れ臭い気持ちになる。

 つくづくこんな素敵なドレスを作ってくれたことに感謝だわ。


「ありがとうございます。本当にいいドレスですね」

「いいえ、こちらこそ色々と勉強になりました。これからも当店をごひいきに」


 手を差し出し、お針子さんと握手を交わす。


「クレア様のおばあさまのレースは大変すばらしい出来でした。是非当店で専売契約を結びたいのですが…」

「えっ、いいんですか?」


 まさかの提案に驚いてしまう。まさかおばあちゃんのレースがそこまで評価されるなんて、嬉しくなってくるわ。


「もちろんです。緻密かつ基本に忠実、それでいて細部には独創性が光る。こんなレースはなかなかあるものではありません。買い付けに向かったスタッフも、レースの作業を見せていただいたようですが感動していましたわ。ただ、それだけに量産が難しいということで…」


 その通りだ。おばあちゃんはレース編みが得意だけど、決してペースが速いわけじゃない。一つ作るのに何日もかかるし、この1着分だって、何日分のレースを使ったか。


「それと、魔石を使った装飾もぜひとも当店で扱わせていただけませんか?もちろん、クレア様には優先的に注文を受け付けますし、使う魔石の魔力補充をしていただければ値引きもしますから」

「あらっ!」


 これもまたうれしいことだ。するとそこにネイサンが加わり、さらに話が進んでいく。

 魔石の細工を行った細工工房とも専業契約を結び、希少性を高める。ドレスに付けられるサイズに加工するとなるとかなりの技術がいるらしい。小さいと成形が難しいけど、大きいとドレスが重すぎて動けない。そのバランスを見極めた細工をするとなると、王都内でも限られるそうだ。

 それに、私だけではなく他の人のドレスを作る際の魔石の魔力補充をすれば、お小遣い稼ぎにもなりそう。ネイサンには渋い顔をされたけど、私だって自分で稼いで自由に使えるお金が欲しいもの。


 ドレスは最終調整するということで着替え、店を出ると馬車に乗りこんだ。

 ドレスの出来や、これからの話が色々進んだことでホクホクな気分だ。

 一方、一緒に出てきたアーネストはどこかふてくされた顔をしている。


「話に混ざれなかったのが寂しくて拗ねてるんすよ」


 ネイサンにこっそり耳打ちされた。子どもか!って思ったけど、まぁ実際子どもみたいなものだしね。

 ほっとこうかと思ったけど、アーネストのおかげでドレスへの劣等感が払拭できたし、何かしたほうがいいかしら?


(ん~…アーネストが喜びそうなこと…)


 屋台の食べ物?素振り用の新しい木刀?新しい服?

 どれをイメージしても、アーネストが喜ぶ姿が思い浮かばない。

 そこでやっと私は気付いた。


(そっか、私、アーネストのコト何も知らないんだ)


 彼が好きな物一つ知らない。何が好きで、何が嫌いかも知らない。あの侯爵令嬢に、アーネストのことを何も知らないくせにとか言ったのに、知らないのは私も同じだって気づいてしまった。

 それに気持ちが落ち込んでしまう。


「殿下、そう拗ねないで。パフェでも食べに行くっすよ」

「それはお前が食べたいだけだろ!」


 目の前で繰り広げられるアーネストとネイサンのやり取りに、私はどうにもやるせない気持ちになってきた。

 これは嫉妬?誰に?ネイサンに?

 私の方がアーネストと先に知り合って、私がアーネストの心を開いたのに…なんて、黒い感情がこみ上げてくる。


「クレア様もパフェ食べたいっすよね?美味しいパフェを出すお店、調べてあるっす」


 ネイサンにそう言われ、私はコクリとうなずいた。

 それにアーネストが目ざとく気付く。


「どうしたクレア、さっきまであんなに楽しそうだったのに」


 気遣うような声が、今はなんだかツライ。


「何でもないわ、色々考えることがいっぱいになって疲れただけよ」

「疲れてるなら甘いものっすよ!御者に伝えなきゃっす」

「はぁ…仕方ないな」


 屋敷へと戻るはずだった馬車は行き先を変える。


(私、本当にどうしたらいいんだろう)


 侯爵令嬢に啖呵切ったのに、今はもうアーネストの隣に立つ自信が無くなってしまった。

 ひどく不安定な自分に苛立つし、どうしたらいいのか不安は抱えてるし、何もできない自分には落ち込むし。


「…クレア、本当に大丈夫か?屋敷に戻ったほうがいいじゃないか?」


 アーネストにそこまで心配されるなんて、よほど今の私はヒドイ顔をしているのかもしれない。だから私は無理に笑った。


「大丈夫よ。ネイサン、そのお店のパフェは何がオススメなの?」

「えっとっすね~…」


 ネイサンがパフェについて熱弁するのを、私は聞いているふりをしながら聞き流していた。

 その私を、ずっと心配そうに見てくるアーネストに気付かないふりをして。


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