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9話~魔石で一儲け考えてます~

「う~ん…」


 淑女教育の合間を縫って、私は新規店舗に向けて目玉商品を考えていた。

 王都はさすが流行の最先端だけあって、多種多様な服や素材を扱う店舗が多い。

 だからこそ、ただお店を開いたとしても先達の店には敵わない。この店だからこそ!と言えるような、強みが欲しいと思った。


(おばあちゃんのレースはいけると思うけど、それだけじゃダメだと思うのよね。ただのレース専門店になっちゃう。それじゃあ店舗を維持するのは難しいもの。何か別のを…)


 そんなことを悩みながら、今日も王都の中をプラプラ散歩してみる。

 今日はアーネストはいない。なんと王宮から呼び出され、しかもそれにアーネストが応えたのだ。これは驚くべき成長といっていいと思う。ちなみにアーネスト一人だと心配だということで、ネイサンが保護者…げふん、付き添いをしている。

 そんなわけで、気ままなぶらり一人散歩だ。一人だと気分も晴れやかだわ。無粋な視線も飛んでこない。

 何かいいアイデアは浮かばないか…そう思っていると、とある店が目に留まった。


「魔石屋…ね」


 日常生活に便利な魔道具。高価なため、一般家庭への普及はさほど高くないが、裕福な貴族の屋敷ならほぼ完備されている。それらの燃料には魔石が使われ、コンロの火だったり、水道の水だったりを生みだしている。

 魔石の交換・魔力充填を行う専門店。それが魔石屋だ。

 魔石屋に入り、中を覗いてみるとある木箱に大量の小石が入っていた。不思議に思いながら、店員と思われるおじさんに聞いてみる。


「おじさん、この石は?」

「ああ、そいつは採掘で出た魔石の屑石さ。小さすぎて使い物になりゃしねぇ。どれも魔力切れだし、引き取ってみたはいいが、誰も買わないし。もう処分しちまおうかと思ってるところだ」

「そう…」


 魔石は大きく二つに分けられる。

 1つは鉱山から発掘した魔石。

 もう1つは魔獣から採取した魔石だ。

 ほとんどの魔石は鉱山から採掘したもの。

 魔石は純度と大きさによって込められる魔力が大きく変わる。純度が高く、大きいほどに込められる魔力は多くなる。

 純度は魔獣産の物のほうが高い。その分希少価値も高く、市場には滅多に出回らない。

 小さくても魔道具に使えなくはないけど、込められる魔力が少ないからすぐに魔力切れになる。その分手間が増えるので、人気が無い。

 一つ手に取ってみる。魔力を込めてみた。

 魔力が込められた魔石は光り輝き、普通の石とは違うことを如実に示している。


「なんだ嬢ちゃん魔力もちか。サービスするからその屑石、買い取ってくれねぇか?」

「えー…」


 いくら魔力を込めたといっても、屑石は屑石。使い道なんて思いつかないわ。

 魔力が込められて光輝く魔石。これだけみれば十分キレイなんだけど、魔石としては…


「……あ」


 そのとき、私の頭に一つのアイデアが浮かんだ。これは…もしかしたらイケるんじゃないかしら?

 アイデアが成功する未来に、顔がついにやけてしまう。


「おじさん、これ全部買うわ」

「おっ、いいのか?」


 屑石ということでだいぶ値引きして買い取った。さすがに全部は持ち歩けないので、一部を袋に詰めてもらい、残りは配達してもらうことに。


「よーし!」


 アイデアを実現するために、はやる気持ちを抑えつつ急いで屋敷に帰ることにした。

 屋敷に帰った私は、早速部屋でテーブルに魔石を広げ、魔力を込めていく。

 魔力が充填された魔石は光り輝き、それだけなら宝石に勝るとも劣らない美しさだ。

 しかし、これは魔力が満タンのときだけで、使えば徐々にその輝きを失い、ただの石のような見た目になってしまう。

 そう、使えばこの輝きは失われる。なら、使わなければいいのでは?と思ったのだ。


(お貴族様のドレスには、宝石をちりばめたものがあるって聞いたことがあるわ。でも、宝石は高いし、一般市民には手が出ない。じゃあ、この屑石で代用したら?)


 元値は宝石よりもずっと安価。魔力を込める必要があるし、成形の手間もあるけど、その手間賃を差し引いたって宝石よりも安くできるはず。魔力は私が込めれば無料だ。

 となると、成形してくれる業者を探したほうがいいわね。


「ふふふ…これよ。これならきっとイケるわ!」


 思いついたアイデアが描く未来を想像して、楽しくなってきた。

 その数日後には買った屑石の残りが届いた。


「クレア様、これなんすか?」


 当然、ネイサンには何でこんなものを買ったのかと聞かれた。


「ふっふっふ…それはね」


 私は勿体ぶりながらネイサンに説明していく。

 最初は疑心暗鬼な顔だったネイサンも、徐々に真剣になっていく。


「なるほど、それならいけるっすね」

「でしょ?」

「しかも魔石なら自ら輝くっすから、夜会でわざと照明を落として、ちょっと薄暗くさせればもっと美しくなりそうっす」

「う、うん、そうね」

「それに、魔石も物によっては宝石より高価っすから、貴族向けにも十分イかせると思うっす」

「そ、そう?」


 あれ、なんか私よりもネイサンのほうが有効活用できそうな感じがしてるんだけど。有能なのはいいけど、ちょっと怖い。


「…クレア様、とりあえず1着作ってみないっすか?」

「そうしたいのはやまやまだけど、どうしたらいいかわからなくて…」

「じゃあ伝手はこっちでなんとかするっす。クレア様は何でもいいんで、デザインのイメージ画を描いてほしいっす」

「わ、分かったわ」


 なんだか私以上に本気になったネイサンに急かされ、早速私はドレスのデザイン画を描いてみる。

 でもデザイン画なんて書いたことないから、描いてはみたけど本当に素人絵だ。

 それでいいからと話は進み、いつの間にかドレスのデザイナーと打ち合わせをする段取りまで組まれてしまった。


「こちらっす」


 ネイサンに案内され、馬車から下りた先にあったお店は見るからにお貴族様専門という感じの、ものすごく綺麗なお店だった。店の前に降りた足がすくんでる。


「ね、ネイサン、本当にここなの?」

「ここっすよ。ビビってるんすか?」

「そりゃあビビるわよ」

「…陛下にはビビらなかったくせに」


 最後何かぼそって言われたけど、よく聞こえなかったわ。


「さぁさぁ行くっすよ」


 ネイサンに案内され、店の中に入っていく。お店の個室に通され、そこにデザイナーの人と対面することになった。


「話は聞かせていただきました。魔石を宝石の代わりに装飾品にする。とても素晴らしい案ですわ」

「あ、ありがとうございます…」

「それで、早速なんですが魔石のほうを見せていただいてよろしいですか?」

「はい、これです」


 私はあらかじめ魔力を充填した屑石をテーブルに広げた。しっかり魔力が充填された魔石は明るい店内でもわかるほどに光り輝いている。


「ふむ、形はいびつですが輝きは素晴らしいです。確かに魔石が輝くのは知っていましたが、こんなにも輝くとは知りませんでした」

「基本的には魔力を充填させる人でないとめったに見ないものですからね。ちょっとでも魔力を消費すると輝きは消えますし」

「これをドレスに縫い付け、薄暗い夜会で踊ればさぞ美しい光景になるでしょうね。さしずめ、舞い踊る星屑といったところでしょうか」


 何それ素敵じゃない。自分で出したアイデアだけど、それを次々と肉付けされていくのはうれしくもあり、ちょっと寂しくもあった。


(できれば自分だけで完成させてみたかったけど、できないものはできないしね)


 私にはドレスのデザインをするセンスも、魔石を成形する技量も、お針子の経験もない。どうしたって誰かに手伝ってもらうしかないんだけど、それでも…と思ってしまう。

 話はとんとん拍子で進み、デザインも決まってあとはドレスを作るだけ。そこに私は一つ注文を付けた。緊張で胸の鼓動がうるさいけど、せっかくの機会。逃したくない。


「あの、1ついいですか?」

「はい、何でしょう?」

「実は使ってもらいたいものがあるんです」

「それは一体?」

「おばあちゃんが作ってくれたレースで…」


 私は実家について話した。

 実家が服飾の素材を扱っていること。

 その素材の一つであるレースをおばあちゃんが作っていること。

 おばあちゃんのレースは、王都の職人も負けてないはずだと。

 そのレースを、ドレスに使ってもらいたいこと。


「…なるほど、分かりました。ではレースのほうはこちらで仕入れますね」

「よろしくお願いします」

「いえいえ、私どもとしても、地方にそのような腕のいいレース職人がいると分かるのは有難い情報です」


(よかった。なんとかおばあちゃんのレースを売り込むことができたわ)


 怖いぐらいに話がトントン拍子で進んでいき、一安心した。

 その後、ネイサンを通して預けた屑石が細工師によって成形されたものが返ってきた。その屑石に私が魔力を込め、光り輝く魔石へと変えていく。

 それをもって、またお店へと向かった。


「ありがとうございます。それではさっそく採寸させていただきますね」

「えっ?」


 するとあっという間に私の周りにお針子が集まってくる。こ、これは…?


「ドレスを作るんすから、当然誰かが着るものっすよね?」

「そうだけど…」

「最初の試着第一号っす、クレア様」

「えっ、私?」


 そんなこと聞いてない。というか、ドレスなんて私一度も着たことないし、恥ずかしいんだけど。


「発案者が広告塔になるのはよくある話っす。それを着て夜会に出れば、注目間違いないし、注文バンバンっす」

「注文バンバン…」


 ああ、なんて魅力的な響きなのかしら。おばあちゃんの作ったレースと、私のアイデアの魔石が彩るドレスを人々が着ている光景が浮かんでくる。ダメだわ、顔がにやけてきちゃう。


(よし、これならお店はきっと安泰だわ)


「よし、これで殿下と夜会に行かせる口実ができたっす」

「ネイサン、何か言った?」

「いいえ、何も言ってないっすよ」


 なんだかネイサンがボソッと言うのが増えた気がするのよね。独り言が多いのかしら?


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