プロローグ
「早く帰れと言って…」
「うっさい!」
国王の側近であるジュードは目の前の光景に感動していた。
人嫌いの殿下のために連れてきた婚約者候補が、騒ぐ殿下を一喝する姿に。
一喝された殿下は驚きのあまり、固まっている。
これまで殿下には何人もの令嬢を婚約者候補として連れてきたが、そのすべてに暴言を吐き、追い返していた。
しかし、今回連れてきた婚約者候補は逆に殿下を黙らせたのである。
「素晴らしい。やはりあなたなら何とかできます。頼みましたよ」
「イヤです。面倒そうですし」
「…それなら、半年殿下と一緒に暮らしていただければ、報奨金を出しましょう」
「…いくらです?」
婚約者候補として連れてきたこの娘は、下町で育ったご令嬢だ。
貴族が使用人をかどわかして生ませた娘なのだが、黒髪を持つ忌み子であったために屋敷を追い出されたいわくつきである。
正当なご令嬢ではないが、もうここに至っては妥協するべきところ。
商売人でもあるこの娘はやはりお金に飛びついてきた。
(よし、これで無理やり同居させれば、いずれ二人の間には愛が芽生えるはずだ)
「金貨100枚」
「もう一声」
「200枚」
「何かオマケも」
「…では、王都への出店許可証はいかがですか?」
「よし乗った!」
よし、と言いたいのはこちらも同じ。
金貨200枚と出店許可証ごときで殿下の結婚相手が得られると思えば安いものだ。
「お前らでてけー!」
そこで騒いでる殿下は黙殺。
ジュードはこれでやっと自分の仕事に終わりが見えたことに安心した。
ジュードと下町令嬢との出会いは5日前になる。