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【遠藤初陽視点】ポッキーゲーム③

 俺の名前は遠藤初陽(はつひ)。元旦に生まれたラッキーボーイだ。元旦に生まれることが果たしてラッキーかはさておいて、名前の由来はもちろん『初日の出』からである。


 だが、そんな名前を逆さにしてなんやかんやすれば『ハッピーエンド』の俺である。そんな名前だからなのか、俺の周りにはカップルが多い。しかもその大半が俺の一押しによって成立しているのだ。そのため、俺は密かに『ハッピーエンド請負人』を自称している。もちろんすべて同性カップルだ。ここは男子校なんだから当然だろ?


 いくら男子校と言ってもだ。そりゃあ同性よりは異性の方が大好きな野郎共の集まりである。なんならカップル成立したやつだって、ほんの数ヶ月前までは他のやつらに混じって「彼女ほしい!」と叫んでいたりもする。


 けれども、だ。

 四方八方野郎しかいない、この、男子校というある意味特殊な環境下においては、この「本来は女子が好きなんだけど、何かクラスメイトのアイツも可愛く見える」みたいな現象が度々起こる。それを一時の迷いとするか、恋と思い込むかによって、その後の展開は大きく変わって来る。俺はその背中を押しただけにすぎない。出来るだけ恋と思い込むようには仕向けたけど。


 というわけで、目下、この俺を悩ませているのは――、


「どうしたのはぎちゃん、やんないの?」

「やるよ」


 こいつらである。

 同じクラスの南城なんじょう矢萩やはぎと、去年同じクラスだった神田夜宵(やよい)だ。


 こいつらはどこからどう見ても両想いなのである。

 それは俺が『ハッピーエンド請負人』だからわかるとか、そういうことではない。もうクラス全員知ってる。神田のクラスの方ではわからないけど。でも少なくともウチのクラスは全員知ってる。二人共、好き好きオーラがだだ漏れなのである。

 こいつらに関しては俺が何かしたとか、そんなことは断じてない。去年初めて出会った時から既に仕上がってた。


 南城は放課後になると、いかにして自然に神田を誘って一緒に帰るか、という点に心を砕いているし、神田も神田で、別にウチのクラスの前を通らずとも帰れるはずなのに、わざわざ遠回りしてまでこっちの階段を使おうとする。

 南城はいつも「あっ、夜宵! いま帰りか? 偶然じゃん、俺も」なんて言って神田を誘うが、その直前までのろのろもたもたと帰り仕度をしつつ窓から廊下をチラチラと確認しては神田が通るのを待っているのだって皆知ってる。

 そして神田も神田で、いつだったか、たまたま南城が目を離した隙にうっかり通過してしまった時なんかは、「あっ、教室に忘れ物しちゃった!」なんてこっちに丸聞こえな独り言を叫んでUターンしたりもしているのだ。


 ここまであからさまなのにどうしてバレてないと思っているのかも不思議だし、どうしてくっつかないのかも不思議である。ウチの学校の七不思議の八つめはこいつらなんじゃないかって専らの噂だ。


 だからもう背中を押すというか、気持ちの上では後頭部をがっつり押さえてキスさせるくらいの気持ちで十一月十一日でもないというのにポッキーゲームを提案したというわけである。先述の通り、放課後のこの時間、神田がウチのクラスの前を通ることは知り尽くしているから、何だかんだと理由をつけて俺ら以外の生徒はきっちりお帰りいただいた。こういう時の為に委員長になったと言っても過言ではない。南城、お前は俺に感謝しろ。


 ああもうはよキスせぇ。

 もどかしい。

 正直もどかしい。


 何やら互いにペナルティまで設けて勇ましくスタートした割に、亀の歩みより遅いのである。何? 表面のチョコ溶かしながら食ってるわけ? 先祖にカタツムリでもいるのか? いや、カタツムリの方がなんぼかましかもしれないレベルの遅さ。これで普通に食べてるんだとしたら逆にすごいから。


 もういっそ、二人の後頭部をわし掴んでぶちゅっとやってしまいたい。ただ、いくら菓子とはいえポッキーだ。そんなことをすれば片方――最悪両方死ぬだろう。俺は人殺しになりたくない。


 見守るしかないのである。


 はっきり言って無駄としか言いようのない時間がどれくらい経っただろう。二人が俺の最推しのカップル(推しカプ)でもなければ耐えられなかった。これは俺だから耐えられるのであって、訓練されていないその辺の男子生徒だったら、とっくにそのポッキーを手刀で折ってるところだ。

 とはいえ、あまりじろじろ見るのもよろしくないかもしれないと、スマホゲームに興じつつ、チラチラと視線をやりながらその時を待っていると――。


 来た!

 あと数センチのところまで来た!

 まぁポッキーなんていうものは、両側から咥えれば残りは数センチくらいのものではあるのだが、これはもう数センチも数センチ、何なら一インチ(約二.五四センチメートル)くらいまで迫っているのではなかろうか。果たしてインチに直す必要があったのか。その辺は雰囲気で感じ取ってほしい。ていうかポッキーゲームって何をどうした方が勝ちなんだ? 正直提案した俺自身もあいまいなルールではあるが、この際ゲームなんかどうでも良いのである。


 はよキスせぇ。


 これである。


 どうする、両者ぴくりとも動かなくなってしまったぞ。

 この二人はいつだって、この数センチ、いや、一インチが詰められないのだ。詰められない二人だからこそ、いつまでも『親友』どまりなのである。


 行け、南城! お前から動けば茶髪チャラ男攻めだ!

 やれ、神田! お前から動けば黒髪真面目君攻めだ!


 正直どっちも美味しい。

 ただまぁ、個人的なことを言わせてもらえば、俺は黒髪受けの方が好きだ。頼む。『矢×夜』であってくれ! いやもうこの際その辺はカップル成立後に詰めれば良いとして、まずは既成事実!


 手に汗握る展開である。

 さぁ、どっちだ!


 どっちが動く!?


 固唾をのんで見守っていると――、


「こら、いつまで残ってるんだ!」

「!!?」

「!!?」

「!!?」


 ガラッと勢いよく開いたドアから顔を出したのは、教頭である。

 てめぇこの野郎。いまのでびっくりしてポッキー折れちまったじゃねぇか!


 あのポッキーはな、ただのポッキーじゃなかったんだぞ!

 あと数センチ……じゃなかった一インチで二人の関係が変わるかもしれなかったポッキーなんだ。それをお前……っ!


 とにもかくにもなんやかんやで始まったポッキーゲームは強制終了となり、南城と神田は、何やら微妙な空気になりながらも仲良く二人で帰ったのだった。



★次回予告★

 なんやかんやで体育館倉庫に閉じ込められた二人!

 暗がりが怖い矢萩に、寒さに弱い夜宵!

 これは絶好のハグチャンス!?

 走れ遠藤(ハッピーエンド請負人)! 全てはお前にかかってる!


 次回、『なんやかんやで体育館倉庫に閉じ込められた二人』!

 ご期待ください! 

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