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番外編 すったもんだで!

「だから、どうして君はそんな無茶をするんです」

「いやぁ、イケると思ったんだよなぁ。てて……」


 すったもんだあり、南城と神田が退室した後の保健室で、擦り傷だらけの寿都を手当する門別は、嫌味たらしく大きなため息をついてみせた。


「多勢に無勢という言葉をご存知ないのですか?」

「一応知ってる、一応」

「知ってたら一人であの中に飛び込みます? どうして他の先生を呼ばなかったんですか」

「だって、ウチのガッコ、俺ら以外は結構年いった先生しかいないし」


 その言葉に目を眇めて、消毒液を含ませた脱脂綿を気持ち強めに押し当てると、寿都は、ってぇ! と一際大きな声を上げて飛び上がった。おいもっと優しく出来ねぇのか、と思わず強い言葉が口を突いて出たが、門別から「あぁ?」と凄まれて、あっさりと引く。


「それはそうですけど、せめて私を待つとか、出来たでしょう」


 冷静にそう返されてしまえば、寿都はもう黙るしかない。


 北海第一高校の門別大祐(だいすけ)といえば、その昔、剣道でその名を轟かせた有名人だった。とはいえ、野球やサッカーなどと比べれば、知名度は低いため、それを知る生徒は少ない。大学からも推薦の声があったが、それをすべて蹴り、医学部へ進学。それを機に剣道はすっぱりと辞めた。致命的な怪我をしただの、大病を患っただのと根も葉もない噂が流れたが、本人曰く、もう単純に練習に飽きたのだという。現在は趣味で居合の道場に通っている。これくらいの緩さがちょうどいいらしい。


「あんたが竹刀を持って来た時、マジで震えたわ」

「そのようでしたね」

「ブランクがあれば、なんて一瞬考えたんだけど、いま居合やってるしさ、ガチで殺されるかと思った」

「本気でるわけないでしょう」

「……いまの『やる』は、『殺す』って漢字をあてるやつだったろ」

「よくわかりましたね。寿都君にしては鋭い鋭い」

「馬鹿にしやがって」


 口を尖らせて、ぷい、とそっぽを向く寿都の頬を両手で挟み、ゆっくりと正面に戻し――、


「拗ねないで、《《太一君》》」


 にこりと笑って、ちゅ、と口づけを落とす。


「今日は、泊っていきます?」

「……おう」


 ふてくされた表情のまま、こくりと頷くと、門別は「よろしい」と満足げに頷いた。たった一歳上というだけなのに、余裕たっぷりの《《恋人》》が憎らしい。


「ていうか大祐さん、ストールと手袋はどうしたよ」

「え?」

「よりによって今日の服、首周りあきすぎじゃねぇか。鎖骨丸見えだぞ」

「仕方ないでしょう、緊急放送でしたし。いちいち巻いてらんないですって」

「生徒が騒いでた。何人かはガチで落ちてたぞ」

「それは罪なことをしましたね」

「俺にしか見せねぇ約束だろ」

「そんな約束しましたっけ? ここ最近は行事の準備で忙しかったから、ぜーんぜん会えなくて、《《何の痕も》》ついてないですし、良いじゃないですか」

「そういう問題じゃねぇっつーの」


 さらりと言ってのける門別の腰を力任せに捕まえて、仕返しとばかりに強引にその唇を奪う。単純な腕力なら負ける気はしない。


「焼けたらすぐ赤くなるだろ」

「短時間でしたから、大丈夫ですって」

「いーや! わからん! 今日は大祐さんのお肌のケアを優先させてもらうからな!」

「えぇ~、お預けですかぁ。せっかく久しぶりの太一君なのに」

「自業自得だ!」

「職務に熱心なだけなんですけどねぇ」


 男子生徒を虜にする養護教諭の美肌を守っているのが、彼と対極に位置するかのような筋骨隆々の体育教師であることはまだ誰にも知られていない。


 どこぞのハッピーエンド請負人にも、である。

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― 新着の感想 ―
ラスト一文で何か急に遠藤君がいとおしくなってきた・・・
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