異星異変 参~小さな不穏
自分自身の価値を疑ったって、誰かに勝手に与えられるのだから、怯える必要は無い。有益性が正しいのかは不明だが……。
冷たい。金属の冷たさが頬に沁みる。夢を見ていた気がする…。
ゆっくりと目を開けると、破壊された檻が見えた。サイズは分からない。内側に居るのかもしれない。
ぼやけていると、誰かが歩いてくる足音がした。立ち上がり、警戒した。戦闘になるかもしれない。然し、やって来たのは秋晶だった。
「あっ、起きた~?大丈夫、龍毬?何か暗い顔してるけど…」
秋晶の声は大きいのか、直ぐに騒がしくなった。龍毬は思わず微笑んだ。秋晶は「大丈夫そうだねー」と言ってから、本題に入った。
「それで、此処なんだけど、元々檻に入れられてたの。だけどまあ、そん位私がぶち壊したけどね。その先も見に行こうとしたけど、龍毬はまだ気を失ってたからちょっとだけ覗きに行ったの」
秋晶は一息置いてから言った。
「するとね、凄いものを見つけたの。外が見えるんだけど…。取り敢えず来て!」
秋晶は元気良く、走り出した。龍毬も、慌てて追いかけた。目覚めたばっかりだからか、上手く足が動かない気がした。
角を曲がると其処には広い部屋があった。その全面が硝子で、其の奥には宇宙が広がっていた。
龍毬は息を呑んでいると、秋晶が話した。
「凄いでしょ!宇宙だよ!」
秋晶は変に燥いでいるが、龍毬は不安になった。何で宇宙に来たんだよ。如何考えても、変な事に巻き込まれているだろ。というか、三国と辰さんも居ないし。
「三国と辰さんは如何したの?居ないの?」
秋晶はスンと真顔になって云った。
「会ってないよ。別の場所に飛ばされたのかもしれないね。というかそもそも此処って何処だろうね」
突然真面目になったのが面白くて、龍毬はまた笑った。然し、今の状況は余り良くは無さそうだ。
「どうする?他の所も探索してみる?」
龍毬が聞くと、秋晶は答えた。
「いいね。別の通路もあったし」
そう決めた時、通路から多くの足音が聞こえてきた。秋晶は少し後ろに下がった。音が近付いていき、姿を現した。
音の正体は、一見人の様に見えるが、精密に作られた機械だ。数は十位だろうか。そいつ等は何も言わず、手に持っていた銃を突きつけ、龍毬に向けて発射した。
龍毬は咄嗟には反応出来ず、其の儘当たるかと思われた。然し、間一髪で、秋晶が龍毬に飛びつき倒れ込んだ。
弾は硝子に当たった。強力な硝子なのか、ヒビ一つ入らなかった。
「有難う…」
龍毬はそう言うと、秋晶はそれよりも彼奴らを倒すと言った。
機械はまた撃ち始めた。二人は宙に浮かび避けた。
リーロードなのか、発射が止まったタイミングで秋晶は六十干支「十二支の申」を使った。正面に向かって、ビームと細かな弾を放った。
相手は予想外だったのか、殆どが被弾し、壊れた。残った機械は更に激しく乱射を始めた。
龍毬も、籠球を5球取り出して投げつけた。
其の儘、戦っていると、不意に硝子にヒビが入った。二人はそれには気付かず、全てを倒した。
「ふぅ~…。取り敢えずは倒せたね。他の奴も攻撃してくるかもしれないから気を付けよう!」
「うん。それにしても何で襲ってくるのかな?」
突然、ヒビの入った所から硝子が割れた。
「わあああああ!」
二人が阿鼻叫喚していると、宙を浮かび始めた。龍毬は宇宙に放り込まれたので、死ぬかと思った。だが、呼吸が出来た。
秋晶の方を見ると、笑っていた。
「えっ、ドユコト?」
「ふふん。私の能力が有れば宇宙でも活動出来るようにする位余裕だよ」
龍毬は軽く頷いた。
「いや~、それにしても外に出れて正解じゃない?ほら、見て!この建物?の全貌が見えるよ!」
秋晶が指差す先には、聳え立つ塔があった。高さはブルジュ・ハリファよりもあるかもしれない。その塔の周りには土星の環のような物が十輪回っていた。
其の塔の天辺には赤いランプが灯っている。
「何だろうね…。此の建物…?やっぱり、幻想郷で暴れてた奴と関係あるのかな」
「あの天辺でも目指す?ああいう所に首謀者とかいがちじゃない?」
「あぁ、確かに。外に出れたんだしね。飛べば直ぐでしょ!」
龍毬は行こう行こう!と言いって、一早く飛んで行った。
「待ってよ~…」
秋晶も追いかけた。
数分飛んでいると、後ろから機械が動く音がした。振り向く間も無く何者から発砲された。秋晶の肩スレスレに弾の軌道が残っていた。
振り向くと、幻想郷にも攻めてきていた、乗り物だった。
秋晶は手を伸ばして、弾を放った。沢山の機械だったが、全てを破壊した。
やっぱり秋晶は強い。でも其の強さ……、というか雰囲気は誰かに似ている気がする。
そもそも、秋晶は一体何者だろうか。幻想入りしてから人外になったのか?それとも、元々人外か?将又ずっと人間か?彼女の優しさは本物?彼女が幻想郷に誘ったのも何か目的が?
それに、彼女の考えが全く読めない。本質も性格も。
というか、自分が何者かも分からない。辰さんが言っていた。心が半分。どういう意味だ?
分からない。外に居た頃の記憶は鮮明に思い出せる。でも、其処で龍使いについて見聞きした記憶は全くない。自分でも、感じることはなかった。
何か疲れた。分からない事だらけ。ぼんやりとした不安で押しつぶされそうになる。そもそも、今迄の生活が過酷すぎた。それに比べたら今は楽ではあるけど。
そう考えると、秋晶を信用してもいいかもしれない。
「おーい、龍毬。如何した?ボーっとしてるけど。何か気になる事でもある?」
龍毬はあぁと唸ってから言った。
「大丈夫。何でもないよ」
秋晶はそっかあと呟いた。
「じゃあ行こっか」
スッと飛んでいく秋晶は、闇の中に消える感覚があった。