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水龍異変 弐~草薙の巫女

現実と幻想の差は無い。境界があるだけだ。その境界が無ければ次第に混じりあって消滅してしまうだろう。

 どれ位時間が経ったのか。龍毬は木葉に包まれていた。目を開け、空を眺めると夏らしい爽やかな晴れだった。


「晴れてる……。若しかして外の世界に帰ってこれたんかな?そうなら街に行かないと」


 柔らかい場所で寝ていたからか、体のしんどさや痛みはそれ程なかった。(しか)し、服は泥が多く付いている。龍毬は不快感を感じながらも空に浮かんだ。遠くに街が見えるので、人々にバレないように低空飛行した。


 数分で住宅街に入ったので、其処(そこ)からは歩いた。大きな公園の近くに来た時、ある一つの家のインターフォンを押した。(しばら)く待っていると其処(そこ)から曇っている声が聞こえてきた。


何方様(どちらさま)ですか?」


「龍毬だよ。ちょっと相談したい事があるねん」


「あら、龍毬!鍵開けるからちょっと待っててねえ」


 そう聞こえた後、プツンと音が鳴り会話は途絶えた。そうして待っていると扉がゆっくりと開かれた。其処(そこ)には一人の老婆の姿があった。


「龍ちゃん、よく来たねえ。話したい事があるんでしょう?分かっているよ。入って御出(おい)で」


有難(ありがと)う、ばあちゃん」


 そう云い、龍毬は中に入った。

 六畳ほどの和室で、二人は座布団で向き合って座った。そして老婆はゆったりとした口調で話し始めた。


「龍ちゃんが相談したいのは龍使いの事でしょう?」


「うん、話が早くて助かるよ」


「まあ色々話したい事は在るけど、まず龍ちゃんは幻想入りしたんでしょう?」


「知ってるんだ……。どうして?」


「まあ、ね……。それより、随分前(ずいぶんまえ)、祖父が癌で亡くなってしまっでしょ?元々龍使いだったけど死に際に私に託してきたの。息子は別の女と出って行ったから、継承は出来なかったからねえ。でも私ももう余り長くはないのは分かっているし、抑々(そもそも)素質が無いのよねえ。だからあれを与えたかったんだけどねえ」


 そう言うと暗い顔になった。龍毬は正座をしていて足が痺れたので胡坐(あぐら)を掻いた。


「実は数年前から草薙の剣は行方不明なのよ。だから今は継承出来ないの。でも私は幻想郷にあるんじゃないかと睨んでるの。だから探してみて欲しいわ」


「成程……。そうなんだ……。有難(ありがと)う!戻って探してみるよ!」


 龍毬が元気に言うと家から()ぐに出て行った。老婆は小さく手を振りながら呟いた。


「でも、ダメかもしれないね。彼奴(あいつ)みたいに」


 龍毬は元の場所に帰ってきた頃に気が付いた。どの様にして幻想郷に戻ろうか。しかし、考えてもしょうがないかと思い、()(まま)幻想郷があると思わしき方向へ歩いた。


 どうしようもないかと思ったが、段々と辺りが暗くなり始めている事に気が付いた。


()しかして、幻想郷に帰って来れたのかな?」


 そう呟き空を飛ぶと、目の間には大雨に沈んだ幻想郷が見えた。


 龍毬は速度を上げ辰の家へと向かった。しかし辿り着いた辰の家は半分位が沈んでいる。三人は何処(どこ)にも見当たらないので不安に感じると、山の麓に(いく)つかの明かりが見えた。其処(そこ)に向かうと避難所として、多くの天幕(てんまく)や仮の建物が建てられている。


 龍毬は降り立ち周りを見回したが、外に出てきている人は見当たらない。そう思ったが一人だけ歩いている人物がいた。龍毬は近付くと()れが秋晶だった。


 彼女は龍毬を見るや否や飛びついてきた。龍毬は訳が分からなかったが、何か深刻な事かと思いどうしたのか尋ねた。


「え?気付いてない?龍毬が外の世界に行ってから七日も経ったんだよ?心配だったよ」


「そうだったんだ……。道理(どうり)で様子が随分変わったなと思ったよ。ていうか何でそんなに時間が経ってるんや…?まあいいか、それよりも外の世界にはないかもしれないんだって」


「そうなの⁉じゃあ幻想郷内にあるの?」


「そうらしい。でも、何か見当が付く?」


「うーん……。阿求は知らなそうだし…。香霖堂で取り扱っているかも?」


「あるかなー?」


 立ち話をしていると声も聞こえない程、雨が強く五月蠅(うるさ)くなったので天幕(てんまく)へと入った。中では三国と辰が質素な食事をしていた。三国は箸を置き、大声を出して(さわ)ぎだした。


「きゃ~♡しゅきぴ~、おかえり~♡大丈夫だった?怪我してない?お腹空いてる?やなことあった?」


 辰はビックとして驚いたが秋晶と龍毬は呆れたように溜息をついた。


「本当に三国は……。それで、龍毬どうする?霖之助さんはまだ香霖堂に居るみたいだし行ってみたら?よく考えたらこんな洪水の中なのに(こも)っているのも不自然だしね。きっと見つかるよ」


「うん。もう早速行ってくるね」


 龍毬は三国に(すが)られる前にサッサと外に出て香霖堂へと向かった。香霖堂が見えてくると、其処には奇妙な光景が目に映った。建物の周りだけ雨が全く降っていない。

 そして、水も流れていない。龍毬は確信し、扉を開け入った。中では読書をしている霖之助がいた。こっちが入った事に気付くと、「君は…、龍毬…だったけ?」と聞いてきた。


「おおー。覚えてたんだ。前も来たもんね」


「そうだね。それで何の用?また籠球(ろうきゅう)を探しているのかい?」


「いや、こんな時に探しにくる訳無いでしょ。草薙の剣って知ってる?此処(ここ)()る様な気がするんやけど」


 霖之助は何か慌てた様子になってこう言った。


「い、いや知らないなー。此処(ここ)にはないよ」


 然し、龍毬は見透かした様にこう言った。


「嘘だよね。そのリアクション。本当は在るんでしょ?何で隠すの?」


 霖之助は大きな息を吐き云った。


「そうだよ。でも非売品だから売ることは出来ないよ」


「えー……。()の異変を解決するには必須なの。お願い」


「それだったら売ってあげよう。勿論(もちろん)お値段はかなりするけど」


 霖之助は部屋の奥から一部錆び付いた剣を持ってきた。


「値段はそうだな、千万でも足りないかな」


「えー!何で!そんなの買えないよ……。お願い、値引きしてよー」


「いやいや、そんな事出来ないな。既にこんなにも安いのに」


 霖之助が一歩も譲らないので龍毬は苛立ちを見せ始めた。


「あー、貰えないなら力づくで奪ってもいいんだけど?」


「やりたいならやればいいじゃないか」


「うっ……。と、()()えず渡せよ、()い加減!幻想郷の危機やで?それに俺にしか扱えないからあんたが持っていてもあんまり意味が無いやろ?」


 霖之助は(かす)かに笑い、そんなに言うなら譲ってあげるよと言った。


「えっ!あ、有難(ありがと)う……」


 霖之助は龍毬に剣を手に持たせた。その瞬間剣からは水が溢れ出し、その周囲を廻り、更に龍毬を包んだ。霖之助は目を見開き見ていた。


(これ)どうなってるの?でも()の力があれば何とかなりそう!有難(ありがと)うね、霖之助!」


 龍毬は息を荒くし家を出た。


「よし、使い方は良く分からないけど弾幕放つみたいにやればいいかな」


 宙を浮きながら、力を溜めていると目の間に魔法陣が現れた。そして其処には豪華な衣装を纏った背の高い女性が出現した。


「え、誰?」


「お、お前が次の継承者か。(よろ)しくな!こき使ってやる!」


「は?ドユコト?異変を解決出来ない?」


「いいぞ!というか、お前を待っていたんだ。待ってろよ」


 彼女は威厳のある雰囲気を放ち、そうすると空が割れた。龍毬は息を吞んで見ていると、心地良い晴れになった。


「おぉ凄い凄い!お姉さんは何者?」


「あれ?知らないのか。私は龍だぞ。名前は一応、龍豪水龍(りゅうごうすいしゅう)だ」


「え!あ、(なん)か想像してたのと違ったわ……」


「あーこっちの姿の方が馴染みがあるのかな」


 そう言うと水龍は水に覆われた。そして其処には瑞色で正に竜といった風貌な水龍が居た。


「へえー!凄い!姿を変えられるんだ!」


 そして、水龍は元の姿に戻った。


「どうだ。凄いだろう。よし、(これ)で異変は終わったな。宴会だー!無論私が主役だー!」


 豪快に笑う水龍を見ながら龍毬も笑みが零れた。



 昨日ケの日、今日ハレの日。博麗神社で龍毬と水龍が話していた。


「お前が次の龍使いか。以前に比べると若いな。彼奴(あいつ)のせいか……?」


「ん?どした?」


「何でも無い。話は変わるんだけど信仰をもっと集めたいんだよ。今幻想郷に私の神社がないから、作ろうと思うんだ。お前が神主な!」


「何で勝手に……」


「だって龍使いはお前だろう?少し位従ってもらわないと困る。それで巫女も欲しいんだけど……。誰が良いかな?」


 龍毬は我儘(わがまま)さを垣間見て怖気付いたが、気持ちを落ち着かせこう言った。


「それならいい人が居るよ。連れてくるから待ってて」


 龍毬は上から辰を探した。見つけると、接近し話し掛けた。


御免(ごめん)!ちょっと話したい事があるから来てくれん?」


「私?いいけど……」


 辰がそう言うと、龍毬は手を掴み歩いた。水龍が見えるとおーいと声を挙げた。


「連れてきたよ。()の人、辰さん。龍について調べてるんやけど、巫女にしたら?」


「えっ、え?わ、私が、巫女に?龍の神社の?そんな無理……」


「おお、お前か。話には聞いていた事があるぞ。良いじゃないか。なってくれないか?神社の巫女に」


 辰は深く考え込んだが、突然吹っ切れた様に微笑み、「はい、いいですよ」と言った。


 水龍はまた豪快に笑った。(しか)し、龍毬は水龍をジッと睨んでいた。

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