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水龍異変 壱~大洪水

目の前に見える物が真実では無い、などと謳うのは無学な者である証拠だ。目の前には常に事実が流れ続け、想像は幻想でしかない。

 大雨が降る幻想郷。妖怪の山から流れる川も濁りきっている。


「ねえねえ龍毬~。前から思ってたんだけど、めっちゃ顔尊いよね!♡」


 三国がニヤニヤしながら龍毬を眺めていた。


「それに、運動もできるしスペルも綺麗だし!♡」


「は?え?」


「私龍毬の事大好きかも~。一目惚れかも~!しゅきぴ~♡」


 三国は龍毬をギューッと抱きしめた。


「は?さっきから何を言いってるん?というか離せ~」


 龍毬は必死に三国の手を引き剝がそうとした。


「ちょっと三国ちゃん、やめなよ!龍毬も困ってるんだから」


 秋晶は三国を後ろから引っ張り二人を離した。


「嗚呼……ちょっと~。もっと龍毬に触れていたいよー!」


「えぇ……ちょっと気持ち悪い……」


「もう……、喧嘩とかしないでよね。それよりも聞いてほしい事があるの。三国は旧地獄にいたし、私達は最近幻想郷にやって来たからあまりここについて詳しくないんだけど、如何(どう)やらここ最近大雨が多いらしいの」


(ただ)の梅雨とかじゃないの?」


「それが違うのよ……。余りにも異常な量が降っているみたい。それでね、幻想郷の人達は異変を解決するんだって!前みたいに私達もやってみない?」


 三国は直ぐに首肯したが、龍毬は真剣に考えていた。秋晶が「どう?」と声を掛けると、「うん。いいよ!」と言った。


 秋晶は密かに胸をなでおろした。


「じゃあ決まり。皆で異変解決だー」


「で、それはいいんだけど……。手掛かりはあるの?」


「うん。色々調べてみたんだけど、幻想郷の雨は龍が降らしてるみたい。だから雨上がりには虹がかかるだって。んでだからこの大雨の原因は龍だと思うの。龍は基本的に幻想郷に溶け込んでいて存在を認識するのは難しいの。でもそんな龍を呼び出す為に専門の役職があるみたい。因みにその役職はある一族の中の一人しかいないみたい。で、名前は分からなかったけど、その人を探せば何とかなるんじゃないかな、と思ってるの」


 それを聞いて三国は質問した。


「その人を知ってるの?」


「うーん……、そこが問題なのよね。でもその役職の興りは平安京であったと言われてるの。だから幻想郷内に居る可能性も高いわ」


「へ~……じゃあ人里の人でも調べたらいいんかな?」


「ん?幻想郷ってあの平安京の近くなの?」


「そうだよ。今は平安京はないけどね。雨は激しいけど早速行こう!」


「おー」


 三国は天井に向けて手を伸ばした。


 三人は大きな傘を指して人里へと向かった。三国は龍毬と相合傘(あいあいがさ)をしたいと思い揉めたが、秋晶が(なだ)め丸く収めた。人里に着いた三人は、多くの情報を持っている稗田家へと向かった。


 稗田家の前に着いた秋晶は扉を叩いきすみませんと言った。中からどうぞと聞こえると三人は扉を開け敷居を踏まずに入った。


「あら、外の世界から来た人間じゃないの。それに地底の妖怪ね。何の用かしら」


「最近起きている大雨の異変について調べたいの。何か()れに関する文献とかない?具体的には龍を操る役職について探しているの」


「んー……。残念ながらそのような書籍は心当たりがないわ。でも、人里から北に一里程離れた所に龍について調べている人が居るらしいわ。其処(そこ)を訪ねなさい」


「はい、分かりました。有難(ありがと)御座(ござ)いました」


 秋晶は頭を下げてお礼をした。それに続き龍毬と三国も頭を下げた。


 外に出た三人は阿求の言っていた場所へと向かった。(しばら)く歩いていると小さな家が見えてきた。生活感は余り無く空き家の様に見える為秋晶と三国は不安になったが龍毬は気にせず歩き、扉を叩いた。


「すみませーん。誰か居ませんか~?」


 しかし中からは何も聞こえなかった。三人は留守かと思い戻ろうとした時、突然扉がそっと開いた。そこには髪が青く長い女性が立っていた。彼女は来客が少ないからか戸惑った様子だった。


「一体何の用ですか?」


 秋晶はこの異変について話した。彼女はそれを聞くとこう言った。


「確かにこの異変には龍が関わっていると思います。でもその役職の話は初めて聞きました。今は無くなってしまったものかもしれない……。それか外の世界にあるんじゃないでしょうか?その前に雨も降ってるし良かったらお入りください」


 彼女は更に扉を開き三人を中へ誘った。言われるがまま入った三人は驚いた。部屋は余りにも綺麗で住んでいるのか疑ってしまう程だった。

 そんな様子を不思議に思った彼女は「どうかしましたか?」と聞いてきた。秋晶は首を振った。彼女は首を傾げ、そして、「其処(そこ)に座ってください」と、四畳の座布団を指差した。

 

 三人が座ると彼女は御勝手(おかって)に行き、(しばら)くとするとお茶を四杯持ってきてくれ、座った。


「ちょっと散らかってるかもしれないけど御免(ごめん)なさいね。そういえば自己紹介をしていないですね。私は水上辰(みずかみしん)。神様、特に龍について詳しく調べています」


「私は島田秋晶。元外の世界の人間よ」


「俺は祟州龍毬。秋晶と同じく元外の世界の人間」


「私は華久坤三国だよ。火山の妖怪だ!」


 辰は小さく頷きながら聞いた。


「それで、龍使いについて探しているっていうことですね。さっきも言ったように残念ながら心当たりはないですね」


「そうですか……」


「でも、この家にある全ての書籍の解析はまだ出来ていないんです。だからその中から龍使いが書かれたものがあるかもしれないです。時間は掛かるんですけど……」


「そうなんですか。是非お願いします。良かったら手伝わせて下さい!」


 すると辰は目を見張った。どうかしたのかと秋晶は尋ねた。


「どうかしましたか?手伝い、迷惑でしたか?」


「いいえ……。大丈夫ですよ」


 辰は明るく微笑み返した。


「よーし、じゃあ善は急げ!早速探しもいい?」


「いいですよ。唯ある程度翻訳をする必要があります。だから困ったら私に見せてください」


 四人は本棚から(いく)つか本を取り出し、調べ始めた。(しか)し、(いく)ら探してもそれらしい者物は見つからない。

 

 気付けば外は暗くなってきた。


「これ以上居座(いすわ)ると迷惑なので、もう帰りますね」


「えっ、でもこんな雨の中ですから、泊っていて(くだ)さい」


「良いんですか!有難(ありがと)御座(ござ)います!」


 そして、その日三人は辰の家に居させてもらった。


 次の日、再び探したが矢張(やは)り見つからずまた夜が来た。こうしている内に気が付けば四日が経っていた。


「はぁ……。簡単には見つからないね……。何か別の方法を考える?」


 そう秋晶が呟いた瞬間、三国が叫んだ。


「ねぇ!()れ!ぽくない!」


 そして、三国は持っていた本を辰に見せた。辰はじっくりと眺めた。


「えーっと……。確かにそれらしい気がします。ちょっと調べさせて頂きます」


 三国は辰に本を渡した。辰は何処(どこ)からともなく多くの本を持ってきて卓袱台(ちゃぶだい)に並べ如何(いか)にも調べている仕草をした。三人は邪魔をしてはいけないと思い、やや離れた場所に座った。龍毬は退屈になって欠伸(あくび)をした時、辰は三人に近付いてきた。


「解析が終わりました。内容は推測の通り龍使いについてです」


 三人は声を上げて喜んだ。


「わーい、良かった見つかって。で、どんな内容が記されていますか?」

「えーっとですね……。名前はそのまま龍使いです。祟州家の者しかなる事は出来ないみたいです。もしかしてですがこの祟州家っていうのは……」


 辰は龍毬に向き直った。


「え?俺?」


 辰は優しく頷いた。


「はい。恐らくそうだと思います。珍しい名前ですし、(おこ)りは矢張(やは)り平安京の辺りです。そして龍使いを継承した者には草薙の剣が授けられるみたいですね。龍毬さんは持っていますか?」


「んー……、そんなん持ってないし見た記憶もないな……」


 辰は又頷いた。


「そうですか…。でも貴方がまだ継承していないのかもしれません。他にも色々書いてありますよ。龍使いは生まれながらに素質を持っていて心が半分しかない…」


 三人は疑問に思った。


「え?それってどうゆう事?」


 辰は唸った。


「分かりません……。唯龍使いは赤子の頃から既に決まっている様ですね。一般的には十五歳頃に真の力を放ち龍使いになります」


「えぇ!俺今十四だよ」


成程(なるほど)……、つまりこういう事じゃないですかね?龍毬さんが幻想入りする前、既に父か祖父らがそろそろ草薙の剣を渡そうとしていたが貴方が此方(ここ)に来てしまった為、龍を制御する事が難しくなりこの異変が起こった」


 三国は興奮した様子で話した。


「すごい!じゃあ龍使いは外の世界に居るんだね」


「はい、祟州家は外に居るようですね」


 そう辰が言うと龍毬は曇った顔をした。


「もし俺が龍使いを継承する筈だったとしても外の世界には出られないでしょ?どうすんの?」


「そうですね、けれど貴方が龍使いならもう力を持っていると思います」


「えー……力……。ん?()しかして俺が弾幕を放てるのって()れも影響してる?」


 何故(なぜ)か秋晶は落ち着きが無いが誰も触れなかった。


()の話はよく分かりませんが何か関係が在るかもしれません。それはそうと既にある程度出来る事は有りそうですね。そういえばどの様な能力を持っていますか?」


「程度の能力の事?球状の物を操る程度の能力です」


 辰がずっと敬語で話しているので龍毬もつい敬語で話してしまった。


()れは関係なさそうね……」


 話は平行線になりつつあり、皆口数も減ってきた。その時雨がより一層強くなり、家の屋根を突き破りそうな勢いだ。三国は何気なく話した。


「凄い雨ね~」


 しかし、辰は不安そうな顔で唸っている。


(これ)は龍が更に活性化しているのかもしれません。急いだ方がいいかも……」


「で、でもどうやって止めたらいい?自分が龍使いって分かったけどどうしようもないじゃん」


 四人は黙りこくってしまった。色々な事実は判明したが解決策は未だに分からない。だが、このままでは幻想郷が危険に晒されるのは明白だ。重苦しい空気の中、秋晶は外に出る方法が無い事もないと云い、三国はもっと早く教えてよと軽く怒鳴った。


「ごめんー……。だって(これ)にはリスクが在るから中々勧められなくて……」


 三国はどんなリスクか尋ねた。


「博麗大結界に近付き意識を無くして通る必要があるの。そのまま気を失ったままになったら危ないのよ。結界の境目は様々な事象が入り混じってるから()(まま)帰らぬ人にもなるかもしれない……」


「ひぇ~……」


「だから龍毬にそんな恐ろしい事はさせたくないの……」


 秋晶は少し唇を震わせながらそう言った。けれども、龍毬はこう言った。


「でも、()(まま)だったら皆が危ないんやろ?だったら俺は行くよ。外の世界に行くのは乗り気ではないけど……」


 秋晶は喜びや不安が混じった声色で話した。


有難(ありがと)う……!だけど本当に大丈夫かな?それに自分の親族に龍使いに心当たりはある?」


「んー……、無いことも無い。それに此処(ここ)でグダグダしててもどうしようもないじゃん!」


 力強く龍毬が語ると秋晶は諦め、方法を教え始めた。


「まず結界に近付くの行くの。結界の近くでは進んでいると同じ景色が続いて、振り返ると元の場所に戻って来るの。それで結界の前に来たら方法は何でもいいから意識を失うの。一番安全なのはお酒で酔う事かな?龍毬、お酒好きだし。そうすると(たま)に外の世界に繋がれるの。お勧めの場所は無縁塚かな。外の世界にいきやすい」


 龍毬は小さく頷きながら聴いていた。そうしている時、外から大量の水が流れている音が聞こえてきた。そして建物が小刻みに揺れた。


「大変!更に暴れているのかもしれない……。祟州さん、急いでください」


 龍毬は慌てて立ち上がった。


「じゃあ、お酒でも飲んで直ぐ行くよ。辰さん、家にお酒ある?」


 辰は又、御勝手(おかって)に行き日本酒を持ってきた。


「これでいいですかね?(あま)り酔わないかもしれないですけど」


「ううん、全然大丈夫!よーし」


 龍毬は大瓶の蓋を開け、直でグビッと全て飲み干した。龍毬は大量に飲み過ぎたせいで、気持ち悪くなったが、じゃあ行ってくるよと言い、取っ手に手を掛けた。


「気を付けてね……。途中まで付いていってあげようか?」


有難(ありがと)う。だけど秋晶までも危険に晒すのは嫌だから、一人で行くよ」


「うん……じゃあ気を付けてね。行ってらっしゃい」


 龍毬は三人に見送られ扉を開けた。そうすると少量の水が室内へと流れてきた。龍毬は慌てて外に出て扉を閉めた。


 そして、無縁塚の方へ向かった。幻想郷は昼の筈なのに夜の様に暗く、河川は物凄い勢いで流れ氾濫している。場所によっては浸水している。


 龍毬が再思の道に差し掛かった頃、頭がボーっとしてきて眠たくなってきた。酒が回ってきたのだろう。龍毬は急いで無縁塚に降り立った。

 地面はぐちょぐちょだったが力を抜く為に寝転んだ。何処(どこ)か遠くから水が流れる音がする気がするが、酔っ払って、()(まま)眠ってしまった。

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