魔開異変 伍~秋晶鬼つええ!
自分を信じる。此れ程、単純で難しい事は有るだろうか。だけど、あんなに輝かしい人間なのに、如何して自身が無いのだろう。
紅い弾が辺りを飛び交う。
軌道を見極める事は非常に難しい。軌道が途中で変わってしまう。
「ダメだ……。弾を避ける事だけで精一杯……。攻撃……出来ない……」
体力が消耗されている。一方的な攻撃は止む気配は無い。二人でも反撃の隙が無い。
「おやおやー?さっきの威勢は如何した?折角楽しめると思ったのに残念だ!」
弾の動きが更に激しくなる。三国も険しい表情をしている。それでも力を振り絞った。
「平符「楯状火山」……!」
彼女の周りに無数の朱色の弾が爆発する様に展開する。
だが、彼女は身体に沢山装飾を付けている癖に、身軽に動いている。被弾する気配は無い。
三国は更に爆発を引き起こしたが、それでも一切当たらない。此れが、四天王の実力なのだろうか。雷和とは比べ物に成ら無い。
秋晶は如何すれば良いか考えた。真向から戦っても、当然勝てる訳が無い。何か策が必要だ。
そうだ、こっちは二人居る。人数差は有るから此の実力差も何とかなるかも……。例えば、同時にスペルを使ったり、片方に集中させている間に、攻撃したり。そうか、それだ。
三国が弾幕を散らしている内に私は、彼女の後ろ側に廻った。
此方に気付いている気配は無い。当然だ。私には或る必殺技が有る。
記憶を失ってから大分経った。少しずつでは在るが思い出してきてはいる。だけど、やっぱり、幻想郷に来る前、何をしていたか、まだ正確には分からない。
だから、無暗に自分の力を使いたく無い。
其の力が暴発して、身を滅ぼすかもしれない。そして、其れが龍毬達を脅かす可能性も有る。其れ程、私の力は可笑しい。
然し、今回は特別。龍毬を助ける為だ。
そうして、私は透明になった。それだけでは無く、匂いも音も霊力も一切感じられ無い。私は自分自身の他人から観測可能な情報の年齢を消したのだ。
こう成れば、周りから存在を探知される事は絶対に無い。
少し狡い気がするが、此れが必殺技だ。実質的に何でも出来る。
私は、手に有りっ丈の霊力を溜め込んだ。
「時符「逆時」!」
彼女に向かって多数の眩い光線が向かう単純な攻撃。全く存在感が無い訳では無い。だが、其の優しい光は激戦の中では中々気が付けない。
彼女が漸く気付き、後ろに振り返った。其の時には遅かった。
光線は彼女の身体を貫いた。
驚いた表情をした後、ゆっくりと倒れた。
秋晶はそっと、実在を再び現した。
三国は状況が理解出来てい無い様だ。
「あ、秋晶……?な、何を……?」
「存在を消していたの」
「そ、存在?そんな事、出来るの?」
「前、話した気がするけどね」
「そうだっけ……?」
秋晶は倒れている彼女へ声を掛けた。
「貴方、龍毬について何か知っている?」
すると、か細い声を出した。
「りゅ、龍毬かどう、かは……、知らないが……、城に一人の少年を確保している……」
「あっそう。やっぱりね」
秋晶はしゃがんで彼女の顎を持ち、言った。
「目的は?」
其の顔には一切笑いは無かった。
「檸子様の指示で……、詳しい事は……」
「分かる範囲で」
「……檸子様は彼を自分の配下に置こうとしている……!」
「成程……、配下、ねぇ……。そりゃあ、あれだけの霊力を持っているならそうか」
其の時、三国が口を挟んだ。
「じゃあ、魔力を城に吸収しているのは何なんだ?」
「それは、恐らく彼を制御する為だ……」
「ふぅーん……。随分、丁寧に教えてくれるんだね」
「初めて見たよ。私に攻撃を当てた者を……。とんでもない強さだ」
「私は……。ん、まぁ、そうか。有難う」
秋晶は立ち上がり、城を眺めた。
とんでもない魔力。並みの人間なら近付く事すら儘なら無い。若しかしたら、バリアの様に成っているかもしれない。
何かから身を守っているのだろうか。
「龍毬と言い、花隈と言い、私と言い……。此の異常性は何だろう……」
「如何した?」
「あっ、御免、何でもない」
「そんな何か有る時のテンプレみたいな言葉」
二人は空を飛び城へと向かった。
「それにしても、雷和を倒した時はあっさり立ち去ったのに、今回は結構質問してたよね?何で?」
「だって、多分雷和とはまた戦う事に成りそうだし」
「え?如何いう事?彼奴とはもう戦わないって事?何で雷和だけ?」
「まあまあ、唯の勘だよ勘。其れより早く龍毬、見つけないと!」
「そうだね」
三国はそうは言ったものの、秋晶に対する不信感は募った。
「日神もやられたか……。彼奴は負けないと思っていたが……。」
「相手の様子が変でした……。突然、姿を消して、そして突然レーザーを放つ。其の威力も半端ではありませんでした」
「そうだな……。神の様な能力。私の目論見……、いや、其れ以上だ。対処出来るだろうか……」
玉座の様な椅子に黒尽くめの装いをした女性。そして、其の前には青白い着物を羽織った女性が跪いている。
「檸子様でも厳しいのですか?」
「紛糾するかもしれない。おや……?誰かが入って来たな。光氷、頼んだぞ」
「承知しました」
羽織の女性はそう言うと、一瞬にして姿を消した。
あの少年も十分強いと思っていたが、彼女は其れ以上の力を持っている様だな。其れに、他にもそこそこの実力者が集まっているな……。向こうの世界では魔力は一般的なのだろうか。
中々の収穫だろう。
いや、力が有りすぎる。もう、四天王が三人も討たれた。
一層の事、配属させるのでは無く強力して貰う形にしようか……。
兎も角、此れだけの戦力を集めれば彼奴にも勝てるだろう。