魔開異変 肆~魔力と寒冷
霊力。幻想郷では当たり前に扱われている。だが、勘違いしてはいけない。飽くまでも其れは神が齎した力だ。
「アリス・マーガトロイド!」
「良かった、思い出してもらえて」
「思い出したというか、姿が見えなかっただけなのですが……」
「どっちでもいいわ。貴方……、いや、貴方達は何をしているの?」
「同居人が行方不明になったので探しに来ています。貴方は?」
「幻想郷の魔力減少の理由を探っていたの。そうしたら、此処に辿り着いたわ」
「あぁ、やっぱり魔力が減っていたんですね。此処に来てから異様に魔力を感じましたし」
「行方不明者を探してるって言ったけど、此の辺りに居るという根拠はあるの?」
「今、別行動している子が言うには、その人の魔力の気配が残っているって言ってるですが……。私にはよく分からないので、詳しい事は……」
「まぁ、個々人で魔力の気配は若干異なっているからね。よっぽど鮮明に其れが見えるなら追跡する事も可能だわ」
「そうなんですね……。あ、あの、ちょっと花隈の方へ行っても……」
「あら、さっきの攻撃で……。御免なさいね。お詫びとして治癒魔法を掛けてあげるわ」
アリスは横たわっている花隈の横に屈んだ。花隈は酷く痛そうにしている。
「大丈夫。今、痛みを取るよ」
両の掌を花隈に向けると、其処から桃色の優しい光が溢れ、其れが花隈の体へとゆっくりと向かって消えた。
すると、花隈の表情は穏やかになり、落ち着いてアリスの方を見た。
「あ、有難う……御座います」
怪我をしたのはアリスのせいだが……。
「辰は大丈夫……?」
「はい。全然。御免なさい。守り切れなくて……」
「ああ、いや……」
花隈は立ち上がって、二人を見た。
「此の先はどうするの?抑々、何処に行けば良いのか分からないけど……」
辰は御払い棒を強く握り言った。
「私も早く龍毬くんを見つけたいですが……」
「だよねー。アリス……?さんはどうですか?」
「私は魔力が集められている所に行きたいから……」
「どのみち、目的地何て無いから一緒に行っても良いんじゃない……?」
「うーん、まぁ……。道中で見つけられるかもしれないですしね……」
「じゃ、一緒に行こう!」
花隈は右腕を少しだけ上げた。
「何してるの?」
アリスがそう冷たく言ったので、「あっ、すみません」と言い、腕を下ろした。それを見て辰は苦笑した。
「私は水上辰で、こちらが……」
「三浦花隈です」
「私はアリス・マーガトロイド」
「では、行きましょうか。何処に魔力が集められているのですか?アリスさん」
「ちょっと待ってね……」
アリスは後ろへと走り始めた。
「わっ!ちょっと……」
二人は急いでアリスを追いかけた。暫く走っていると、扉が現れた。
アリスは謎の魔法で扉をぶっ飛ばし、外へと出て、立ち止まった。軈て二人も追いついた。
「彼処を見て」
アリスは視線の少し上辺りを指差した。其処には洋風の大きな城が聳え立っている。冷たく佇む其の姿は思わず身の毛が弥立つ。
「彼処に魔力が集められている」
「道理で不気味な雰囲気がするんですね……」
「さ、早めに行きましょう」
アリスは宙を浮かんだ。身勝手に進む彼女の姿に多少戸惑い気味になりながらも、付いて行った。
「アリスさんは魔法使いですよね。矢張り、魔法が使えなくなっていたりするんですか?」
辰が訊ねた。
「いや、使える」
「えっ……!では何故此処へ……?」
「ちょっと、知人の事が心配になってね……。べ、別に探しに来たとかではないんだけど。あと、一応魔法が使えると言っても、力自体は弱まっているのよね」
「そういえば、幻想郷の奴らはよく魔力がどうとか霊力がどうとか言ってるけど、其れって何なん?」
「あら?貴方、普通に空飛んでるし、弾幕も放ってるから知ってると思ってたけど……」
「いやー……。抑々、幻想郷に来たの最近だから。其れ迄こんな力知らなかったし」
「そうなのね。まず、霊力は分かる?」
「うーん……。分からん」
「じゃあ、其処からね。この世には様々な力があるわ。電力、浮力、重力、弾性力。こういう物理的な力以外を総称して霊力と呼ぶのよ。霊力に物理法則は無いわ。霊力は精神が主体、詰まり実体が存在しない」
「あ。だから妖怪とか人外が使いがちなのか」
「そうね。ただ、飽くまでも心が中心なだけで使おうと思えば人間でも使える」
「成程ー……。俺が使えるのもそういう事なのかな?」
「其れは如何か分からないけど……。それで更に其の霊力から幾つかの力に分類出来るわ。結構数が多いんだけど、よく言われるのが妖力、そして魔力よ」
「おぉ、魔力出て来た」
「まずは気になっている魔力から話しましょうかね。実は魔力って霊力の中ではちょっと例外で、実体が有るの。魔力は主に特定の植物などから放出される。他にも修行をすれば人間でも作れる。妖怪の魔法使いは自然と生成されるわ」
「アリスさんも自然に作れるの?」
「そうね。特に考えなくても体に魔力を溜め込まめる」
「其れを使って魔法を使うのか」
「其の通り」
「妖力は?」
「妖力は妖怪の力。基本人間には使えない……、筈なんだけど幻想郷はそういう力で溢れているせいか、人間でも使えるのよね……」
「結構特別って事?」
「そうね」
そんな説明をしていると、城の門の入り口が近付いてきた。人影は無く、冷たい風が頬を掠める。今迄の奴よりも、圧倒的な強敵が待っている予感がする。
三人は地面へ着地する。
「此処に魔力が集めれていそう……」
「行きますか……?」
「行きましょう」
アリスは門の扉に向かって人形をぶつけた。大爆発が起きると、戸は木端微塵になった。
門の先には石畳の道が続いている。そして其の先には門の扉よりも更に巨大な扉が待ち構えている。
遠くから見ていた時も恐ろしいと感じたが、目前にするとその感情は増幅する。
今度は辰が先立って歩き出した。
花隈は足がくすんだ。だが、アリスも進み出したので仕方なく後に続いた。
扉の前に立つと、アリスは再び人形で爆破しようとした。だけど、其の必要は無かった。扉は勝手に開いた。
まるで、中に誘われているかの様に。
流石にアリスも其の様子には戸惑った。
「行く……、しか無いですよね……」
「……うん」
三人はゆっくりと城の内部へと侵入した。
酷く寒い。
また、中は薄暗く、灯りは少ない。ただ、空気の雰囲気から此処が広い空間である事は分かる。
アリスは人形に松明を持たせ、辺りに放った。
一瞬にして彼方此方が明るくなった。だが、凄まじい斬撃音と共に、其の灯りは消え失せた。
周りの見回す。
誰も居ない。気配すら無い。
然し、アリスは素早く飛び上がった。
すると、三人の居た、今は二人の居る場所に鋭い光が走る。彼らの首の高さ辺りを。衝撃波が広がり、煙が立ち上がる。
煙が晴れると倒れ込む辰と花隈が居た。
アリスが其処に着地した。
二人の様子を見た。特に目立った傷は無かった。
ほっとしたのも束の間、更に鋭い光が襲ってくる。二人も直ぐに立ち上がり、其れらを避けた。
すると、突然攻撃が止まった。
「誰?」
アリスは声を上げた。
すると、三人の目前に影が現れた。
「誰なの?突然攻撃をしてきて」
「済まない。だが、此方も侵入者が居る以上排除しなくてはならないので」
「扉が勝手に開いたけど……」
「扉が開いた……?そんな筈は……、まぁ、良い。兎に角今は貴様らを始末する」
暗がりから、其の人物の姿がはっきりと見えた。
長く白い髪。和装。そして、刀を握っている。彼女からは此の空間全てを冷やす、冷気が溢れている。また、彼女の存在自体を見るだけでも寒気がする。
「如何した?其の怯えた瞳は。はは、残念だったな。最後に感じる感情が恐怖だなんて」
彼女は再び姿を消した。