魔開異変 参~地獄の道化師
狂気の沙汰で生きていた人間は自分の事を狂気と呼び、自分が狂気ではないと思い込もうとしている。けれども、其の行動さえ狂気である。
「恐怖「荒れ狂う悪樓」」
爆発音と共に辺り一面が光に包まれた。
「ま、眩し過ぎる……」
魔理沙は目を瞑った。それでも、此の明るさはハッキリ感じられる。失明しそうな程だ。
「でも、眩しさなら負けないぜ……!光撃「シュート・ザ・ムーン」!」
地面から赤と青のレーザーが真上に向かって伸びていく。然し、其の威力は弱々しく見える。
「やっぱ貴方は魔法使いね。好都合だわ。貴方は如何して魔法が弱まっているか分かる?」
「お前達が何か企んでいるんだろ?魔力を集めて強大な力を得ようとしているのか?」
「別に強大な力が欲しい訳じゃないわ」
「じゃあサッサと止めろ!」
魔理沙は強気に言い放った。が、相手には余り響いていない様に見える。寧ろ少し笑っている様にも見える。
「簡単に止められる話でも無いの。此の世界の存続に関わるんです。此の儘だと、何万人という命が失われてしまうので」
「こっちだって生活が脅かされているんだぜ!」
彼女は少し呆れた様に笑った。
「まぁ、貴方方にも被害が出ているのは事実な様ですね。だったら尚更大人しくしといて下さい。次第に此の騒ぎは終わらせるので」
「次第に、って何時だ!?私は今直ぐにでも取り戻す!」
「私だって時間が無いのにー……」
魔理沙はミニ八卦炉を取り出し、彼女に向けた。彼女は何をするか警戒している。
「魔砲「ファイナルマスタースパーク」!!」
何時もよりは弱い力に見えるが、極太いレーザーが彼女を襲う。瞬時に横に避けたが、其処を狙って飛んで来た星弾に当たり、怯んでいる内に、レーザーに飲み込まれた。
レーザーが少しずつ細くなって、軈て消えると、満身創痍な少女の姿があった。
「勝負有ったな」
「魔法を奪っている筈なのに……。何故……?」
「私は強いからな。お前が何をしていたのか洗い浚い云え」
「私一人でやっている事じゃ無いわ。此れは檸子様の指示。私は其の檸子様の四天王の一人、華紫天母。本当は登場する時に名乗りたかったのに……」
「それで、何をしているんだ?」
「魔力を集めているの。檸蒙城に」
「理由は?」
「私を殺しても、理由は聞けないわ」
「ああそうかい。まぁ良い。後は何とかするか……。取り敢えず檸蒙城を探すか」
魔理沙は不安定に揺れる箒に乗り空へ飛んだ。
大きな窪み。煙が上がっている。其の中には雷和が居た。
「よ……、弱えぇぇぇぇぇ……」
花隈は思わず言った。
「くそぉ……。人数差があるか……」
「いや、其れ以前に弱かっただろ……。本当に四天王?」
「五月蠅い!勝ったならさっさと何処かに行けよ!」
すると、今度は三国が詰め寄った。
「其の前に龍ちゃんは何処に居るの!!」
雷和は一つの方向を指差した。
「此の先を真っ直ぐ行け。すると、大きな壁が見えてくる。其の中には多くの建造物が有る。そして、一際目立つ建物があるだろう。其処を目指せ」
「あいあーい」
三国は早速、飛び立った。秋晶と辰も其の儘付いて行った。花隈は三人が飛んで行くのを見てから、再び雷和へと近付いた。
「何だ……?また悪口か?」
「いや。お前が何か知っている様な気がするんだよ」
「そりゃ、四天王だからな」
「そうじゃなくて……。まぁ、気のせいか……」
「一枚嚙んでいる事は間違いないけどな」
「魔法を集める事になったのはお前が原因……とか……?」
「近からず遠からず」
花隈は皆に付いて行く為に宙を浮いた。少し、速めに飛んで、三人に追いついた。
「隈ちゃん何話してたの?」
「うーん……。気になる事を聴いてた」
「ふーん……」
其れ以上、特に会話も無く言われた方向に進み続けた。
小一時間、飛んでいると言っていた通り、六十階建てビル程の高さの塀が見えた。其れは、建物群を丸く囲っている様だ。
「厳重だね……。檻みたい……」
塀の上にはぽつぽつと人影が見える。影は秋晶達の姿に気付くと銃で発砲してきた。辰が結界を張り、弾は全て防がれた。
花隈がエネルギー弾を飛ばし、ある程度は蹴散らした。慄いたのか発砲を止め退いた。
然し、塀の上には何処からか新たな人影が現れた。さっきまでの烏合の衆とは違い、明らかな存在感、威厳を感じる。其れは、四人を手招きする様に手を曲げたり伸ばしたりした。
三国がふわふわと近付いて行くので、残り三人も怯えつつ進んだ。
「お前達は。計画はしっかりと進んでいる様だね!お前達は恐らく雷和を倒しただろう?」
彼女が喋っている様だ。何故、不確定なのかと言うと顔をピエロの様な仮面で隠されているからである。其れ以外の見た目も道化師の様に華やかで何処か楽し気である。
「そうだよ。随分と弱かったけど、あれで四天王なのか?若しかして……、お前も四天王?」
「奴は四天王の中でも最弱!あたしは君が言う通り、四天王。まぁ、そんな事どうでもいいけど」
「しゃー!ぶっ潰すぶっ潰す!お前は納豆の五倍位ヌルついた世界の塵だ!」
三国は興奮し叫んだ。
「おー。餅つけ。今から案内してやるからな。お前らの目的は知っている」
彼女は妖し気に笑い声を発した。そして、後ろに振り返りゆっくりと歩きだした。
三国は其の瞬間に彼女に右手を伸ばした。其の手から高火力の炎が出てき、彼女を包む……かと思われたが、彼女の姿が消えていた。
三国は「早い」と呟き背後を見た。
其処にはさっきに仮面の少女が。
「アハハハハハ!!」
さっきまでの雰囲気とは打って変わり、幼く狂気的に笑った。
「唯の暴徒だと思ってたが、如何やら楽しそうな奴だねぇ!」
秋晶は花隈の顔をちらっと見た。不安に思っていないか確認する為に。だが、思ったよりも気が抜ているの様だ。欠伸でもしそうな感じだ。ちゃんとしろよと思いつつ、まぁ、隈ちゃんらしいなと。辰の方を見てみると札をがっちりと握り構えていた。やっぱり、しっかり者だなと思った。
とか考えている私も暢気か。少しは気を張らないとな……。
すると、花隈が秋晶に声を掛けた。
「三国、どうしたんだろう?」
「いや、私に言われても……」
「まぁ、それもそうか」
とはいえ、三国は暴走しているだけだろう。
私も龍毬の事を想えば飛び掛かりたいが、相手の実力もまだ測れていない。無謀な行動をして龍毬に危害が及ぶのは避けたい。
「折角、慈悲を与えてやろうと思ったが、もう良い!先ずは貴様から殺してやろう!!」
彼女は手に五個程の弾を出現させ、それで御手玉をし始めた。
何をしているのか疑問に思っていると、その弾を投げつけて来た。単純な弾幕かと思ったが、其の弾は壁に当たると他方へと反射した。完全に物理の法則を無視して、意味の分からない方向に反射する。
次々投げられるので、次第に辺りは弾だらけの地獄と化した。これが室内なら更に地獄だっただろう。
三国は軽々しく避けたが、攻撃の隙は無かった。後の三人もそれなりに避けた。然し、辰と花隈は被弾してしまい、動きが鈍り始めた。
秋晶はそんな二人の様子を見て叫んだ。
「二人共!一旦逃げて!塀の外へ!」
二人は其の声を聞いて、直ぐに荒野の方へと進んだ。すると、前から大量の弾が現れた。先へ進めないと判断した辰は花隈の手を引いて内側へと向かった。
「辰!?こっちは……」
「大丈夫。あそこに此の壁の中に入れる入り口があります。少しは被害を免れるはずです」
二人は塀の上にある小さな入口へと突っ込んだ。中は螺旋階段で、閉鎖的な空間である。
幸運な事に、敵は居ない。
少し速足で下って行った。
空気がひんやりとしていて、さっきの熱気との温度差に驚く。何処からか水の滴る音がするが、外の荒廃具合からは想像が付かなかった。若しかしたら此の辺りはオアシス的な場所なのかもしれない。
階段の終わりには鉄で出来た扉があった。
鍵が掛かっているかとも思ったが、辰がドアノブに手を掛け、押すと重くゆっくり開いた。
その奥にはまたも誰も居ない。
花隈は、自分の緊張の糸が緩んだのを感じた。然し、其の瞬間に目の前がパァっと明るくなった。
辰は咄嗟に水結界を張り、粗、無傷だった。だが、花隈は受け身も取れず、壁に強く叩き付けられた。痛そうに横たわっていて、直ぐにでも近寄りたかったが、先に敵を倒すべきだと思い、留まった。
じっと目を凝らすと、其処には人間サイズの人影と、小さな影が多数見えた。不気味な姿に見えた。
「誰?」
「あら?ご近所さんなのに忘れてしまったの?」
「……あ、貴方は……!」