魔開異変 弐~魔心
「魔力の減少!?そんなの感じないぜ」
「よっぽど森から出ていないの?其れとも修行不足ね」
「出てないだけだ」
魔法の森に入って直ぐの場所に有るアリス・マーガトロイドの家。彼女は七色の魔法を使う人形遣い(魔法使い)。彼女と話しているのは霧雨魔理沙。普通の魔法使い。
「でも、それって何時からなんだ?どれ位減ってるんだ?原因は?」
「一個ずつ訊きなさいよ。まず、此の異変はつい三日程前。と言っても私が気付いた時なんだけど……」
「じゃあ参考にならんな」
「で、妖怪に影響は今の所無いわ。でも、此の儘減り続ければ多少の被害が有る筈よ」
「別に良いだろ」
「良くないわよ。幻想郷の人妖のバランスが崩れるわ」
「それで、何が原因何だ?」
「……旧地獄辺りに魔力が集まっている気がするわ。多分、誰かが集めているんでしょうね」
「其れを最初に言えよな」
「貴方が沢山質問したからでしょ?」
「まぁいい。今からでも行って来るぜ。最近の異変は悉く他の奴らに解決されたからな。今回は私が解決してやる」
「異変解決は良いけど。何時か其れが命取りに成りかねないわよ。貴方は人間だから」
魔理沙は特に答える事もせず、箒に乗って空を飛んで行った。
「大丈夫かしら……」
「お嬢様。御呼びでしょうか」
「ええ」
「若しかして、パチュリー様の事でしょうか?」
「流石ね、咲夜」
此処は紅魔館、悪魔の棲む館。主のレミリア・スカーレットがメイドの十六夜咲夜を呼び付けた。
「最近、如何も調子が悪そうなの。元々、丈夫では無いんだけど……」
「そうですね。パチュリー様、具合が悪そうです」
「それで、原因を考えていたんだけど、ついさっき魔理沙が図書館に侵入して来たの。其れはいつも通り何だけど……。旧地獄に行く道中らしいの」
「とうとう自白でもするのかしら」
「其処から魔力が吸い取られているらしいわ。だから、咲夜に調査して欲しいの」
「魔理沙が行っているなら良いんじゃないんですか?」
「彼奴は唯の人間よ。魔力を奪われたら何も出来ない。真面に解決なんて出来ない」
「成程、分かりました。では行って参ります」
咲夜はレミリアの部屋を出て行った。廊下を歩きながら咲夜は呟いた。
「旧地獄に魔力を吸収する者が居るとは余り考えられないですねぇ……。旧地獄とは無関係の輩が何か企んでいるのでしょうか……?」
玄関の大きな扉を開けると、清々しい程の朝日が顔に降り注いだ。
咲夜は空に浮かび、旧地獄へと向かった。
「特に幻想郷への影響は見られない……。まだまだ、魔力が吸い取られ切っていないわ」
間欠泉センターの入り口に着くと、其処に人の影が見えた。
「あら?紅魔館のメイドさんでは無いですか」
「貴方は……命蓮寺の僧侶ね」
彼女は聖白蓮。僧侶で在り、魔法使い。主に身体能力の強化の魔法を得意とする。
「此処に何か用が有るの」
「そう、用が有るの。魔力が減っているから解決しに来たのよ」
「貴方も?私も丁度調査をしている所なんです」
「こんな入口に居て解決できるのかしら?」
「過程を踏むべきです。今回の異変は大きいわ。貴方にはまだ早い」
「今にも魔法は失われる。魔法使いの貴方なら私でも簡単に倒せるわ?」
咲夜は奇術「幻惑ミスディレクション」を使った。苦無を多方向に幾つか連ねて投げた。其の苦無は地面に当たると反射した。白蓮は躱したが、立て続けにナイフが投げられた。
白蓮はバリアを張った。十本程のナイフは防げたが、徐々に罅が入った。そして、硝子が割れる様な音がし、バリアは砕け散った。
「!?」
「ほら。魔法が今に弱体化している。チンタラしている場合では無いわ」
「分かったわ……。解決は宜しくね」
「出来る限りするわ」
咲夜は間欠泉センターへと飛び込んだ。景色は段々と赤く燃える様な色に変ってきた。又、気温も高くなった。
程無くして地面が見えて来た。赤黒い地面。地上とはまるで雰囲気が違う。
「旧地獄は矢張り広いわね。取り敢えず魔力が集まってる所を探しましょう」
咲夜はゆっくり移動し、辺りを見回した。すると、大きな一枚岩の麓に禍々しい黒が見えた。何かと思って近付いてみると、魔力だった。
「此れは一段と凄い……。それに、此れゲートでしょうか?誰かが居るのかと思っていました……。それか、此の先に誰かが?」
咲夜は靄の中へと入って行った。
「龍ゥ!!!!何処だぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
「秋晶さん!三国さん!待ってください!」
見渡す限りの荒野。空は赤く光り、異世界の風貌をしている。其処を四人の少し小さな人妖が空を駆け抜ける。
「二人共!ちょっと待ってください!先ずは落ち着きましょう。気持ちが先走るのも分かりますが、状況整理が大事です!」
「状況整理って言ってっもさぁ!?さっきの奴らは問答無用に襲ってくるもん!」
「そうだよ!龍ちゃんが今どんな目に遭っているか分からないんだよ!前の事も在るし兎に角急がないと!」
「で、でも、此の儘じゃ時間を無駄にするだけじゃ……」
秋晶は地面に降りた。其れに続けて、三人も降り立った。
「まぁ、そうか。取り敢えず、魔力の集まっている所を目指した方が良いもんね……」
「寧ろ目指していなかったんですか……」
「私の堪を信じてたから……」
すると、三国は突然大声を上げた。
「若しかして行き当たりばったりで行ってたのか!?付いて来いって言ったから来たのに……!」
「行き当たりばったりって何よ!別に完全な根拠も無しに動いて訳じゃ無いわ!」
「はぁ!?さっき堪って言ったじゃん!」
「堪以外の表現が無いの!」
「大体あん時もさぁ?自分の事しか考えてなかったじゃん?」
花隈は辰に近寄って云った。
「空気やばく無い?」
「大分……。二人共、龍毬くんの事好きですからねぇ……。所謂、恋敵ですもんね」
「今こそ最高に時間を無駄にしてる……」
「私達だけでも動きます……?」
「そうする?」
花隈がそう言った時、空が突然ピカッと光った。見え上げる間も無く、地面に大きな衝撃が走った。秋晶と三国は喧嘩をしていたのに、宙に浮かび軽々しく避けている。逆に辰と花隈が倒れ込んだ。
「痛ー……」
花隈が起き上がろうとした所、続いて弾が飛んで来た。一つの弾が顔の直ぐ左横を掠めた。其の性で眼鏡が吹っ飛んだ。
辰は立ち上がり、未だ未だ飛んで来る弾をお祓い棒で弾いた。
「花隈さん!大丈夫ですか……!?」
「だ、大丈夫だけど……」
秋晶は急いで落ちた眼鏡を拾う。
「良かった……。割れてない……」
花隈は眼鏡を受け取って掛けた。
「有難……」
四人が弾幕の出処を探す為に上を見え上げると、一人の男の子が居た。金髪風の髪。前を開けたパーカーの紐は電源コードになっている。よく見ると電子レンジや掃除機、液晶板が装備として付いている。割と変な恰好。
「敵前でそんなに油断していて良いのか?此処はお前らの棲む世界とは圧倒的な差があるぞ?」
三国が間髪入れず叫ぶ。
「お前が龍ちゃんを攫ったのか!?此の魔界人め!打っ殺してやる!!」
「龍ちゃん……?嗚呼、彼奴の事か。そうだよ。俺らが攫った。そうだ、冥土の土産に教えてやろう。抑々、此処は魔界では無い。平行世界とでも言うべきだろうか。この世界を統べる王が居る。其の王に仕える者の内、特に忠誠心や能力が強い者を四天王と言う。そして、俺は其の四天王の内の一人だ。名は阿根神雷和」
「はいはい、話が長い。取り敢えず四天王と魔王を薙ぎ倒せば良いんだな?」
「だから、魔王じゃ無いんだけど……。まぁ、良い!此処でお前らは死ぬ!雷符「エレクトロショック」!」