外壊異変 肆~主犯
「「三百の牧の若馬」!」
空から、黄緑の弾がゆっくりと落ちて来た。其れとは別に、大きな弾が時折少し早いスピードで飛んでくる。
優しい流れの弾幕は今の雰囲気には合わない。
彼方此方から煙が出ていて、視界が多少悪い。
さっきからずっと戦っているが、全く歯が立たない。被弾もするし、真面に勝てる訳が無い。何か打開の一手は無いか……。
そういえば、隈ちゃんは弾幕を出せるな。何とかなるか?いや、でも力の程度も分からないし、抑々、住んでいる所が遠過ぎるな。直線距離で四百キロくらいあるか。
秋晶はそんな事を考えていたが、敵が何か物を投げて来たので、慌てて目前の出来事に集中した。
何を投げたのか分からなかったが、其れは爆発したので恐らく爆弾の様な物だろう。何個も投げて来たので、辺りは更に地獄へと変わっていった。秋晶は動き回って躱した。が、立て続けに飛んでくるので何処からともなく飛んで来た硝子の破片が手の甲に刺さった。
「痛っ!痛ー……」
秋晶が見ると血が垂れていた。幸い、破片は小さかった。秋晶は魔法で治癒したが、また攻撃が次々と飛んでくるので軽くしか出来なかった。
「逃げるのも難しい。紫……。来てよ!早く!」
秋晶は回避しているが、負けるのは時間の問題だ。
そう考えている間にも彼女の猛攻は続いた。ばら撒き、自機狙い、固定弾。多種多様な弾幕が重なり秋晶を襲う。
彼女は止めを刺す様に極太のレーザーを放ってきた。眩しさもあり、秋晶は被弾した。
「如何した?何故手加減している?お前は何万年も生きているのに、そんなに弱い訳無い」
「生きてない……。貴方の方が……」
「一つ誤算だな。私は千年程度しか生きていない。それも……、まぁ良い……。自分の手の内を堂々と話す馬鹿なんて居ない」
「それもそうか……」
座り込む秋晶の頬に冷たい風が吹く。
「で、如何するの?殺すの?」
暫し沈黙が続いてから彼女はこう言った。
「さぁ……。恩も有るしね。生かしても良い」
恩……?恩って何?一体何の恩だ?
「ちょっと喋り過ぎたかな。よし。目を瞑れ。開けたら幻想郷だ」
秋晶は如何するべきか迷ったが、其れ以外の選択は無いと思い眼を閉じた。
さっきまでの冷徹な風を感じなくなり代わりに静かで、優しい雰囲気に包まれる幻想郷の風を感じた。
「秋晶!秋晶!如何したの?秋晶!起きて!」
誰の声?聞き覚えが有る……!龍毬!龍毬だ!
目を開けると、見覚えも有る龍毬の顔が見えた。
「秋晶?何で此処に居るの?」
あぁ……。多分家付近なんだろう。というか、家の縁側に座っている。龍毬は目の前に立って此方を見ている。
「本当に帰って来たんだ……」
「何があったん?」
秋晶は龍毬に外の世界の様子や彼の人の話をした。
「へぇ……。そんな事が有ったんだ……。変な奴だな。じゃあ倒せてないのか。異変の根本的解決は出来てないって事だよね?」
「そうだね……。面目無いよー……。ん?あれ?三国は?居ないの?」
「あー……、まぁ、喧嘩したと言うか……」
「何時かすると思ってた」
龍毬は笑いからなのか呆れからなのか、不明瞭な溜息を吐いた。
「あっ!此の前、俺が攫われた時居た彼奴と同じ奴なんじゃない?」
秋晶は少し考える素振りをしてから言った。
「姿は見た感じ違うように感じたけどなー。でも、確かに特徴は意外と共通している気もする……」
「ちょっと思ったけど……。隈が心配だなーって思って……」
「確かにー!龍天才だね!じゃあ、紫に……」
「あらあら。私が如何したのかしら?」
紫が龍毬の後ろから突然現れた。
「わぁ!吃驚するだろ!もっと離れた所から現れろよ!」
龍毬はそう言ったが紫は気にも留めず秋晶の方へと近付いた。龍毬は其の行動に不満そうにそっぽを向いた。
「秋晶。やっぱり無理だったのね?」
「はい……。御免なさい……」
「抑止力になったから良いの。其れよりも花隈を幻想郷に連れて来て欲しいのね。御廉い御用よ。でも、今回だけの特別だからね」
紫は秋晶の顔の前で人差し指を左右に動かした。そして、隙間を生み出し其処に入って行ったかと思うと直ぐに花隈の腕を掴んで出て来た。
「はーい。連れて来たわよ。じゃあ私は此れで」
「何!?何!?」
花隈は困惑した儘、地面に落とされた。
「何?え?秋晶?其れに先輩も……。何?え?幻想郷?」
「そう!幻想郷!紫に頼んでね」
「何で……。俺向こうが良いって言ってるやないか」
「いやー……。ちょっと事情が有ってね……。実は外の世界で事件が有ったの。結構大きめな。其れが、隈ちゃんに危険を及ぼす可能性が有ると思ってね。だから、こっちに来て安全を守ろうと思って!」
「あぁ……、成程ー……」
花隈は建物の中に入って行って、姿を消した。
「如何したんだろう……。直ぐに去ってって」
「そら、外が良いって言ってたのに無理矢理連れてきたら機嫌も悪くなるわ」
「確かにそっか……」
「……」
紫は気が付くと消えていた。龍毬は其の場所を見つめていた。秋晶には其の理由が分かる訳無かった。