外壊異変 弐~外の世界へ
「秋晶、居るかしら?」
紫の重たくも、撫でる様に優しい声。
「居るよー」
秋晶が障子を開け、外へと出てきた。
「あっ!紫!それに藍。如何したの?」
「ちょっと頼み事というかそんな感じ」
「そうなの?私を頼るなんて珍しいね!」
「まぁ、貴方が適任かと思ってね。貴方って外の世界の人間だったんでしょう?私、あんまり詳しくは無いから代わりに行ってもらいたいの。それにあの男の子の……えぇ、っと……あっ!そうそう、龍毬。龍毬と一緒にね」
「おっけーね!三国と辰は?」
「彼女達は幻想郷の住民だから止めて欲しいわ。あくまでも外の世界の人間だから頼んでいるので。出来るだけ早く言って貰いたいけど、今から良い?」
「私は良いけど龍毬にどうだろう?聞いてみるね!」
秋晶はドタドタと部屋の中に駆けて行った。
藍は今まで黙っていたが二人きりになると話始めた。
「良いんですか?あの二人に頼んで。私、あの子達……特に秋晶は怪しい気がするんですが……」
「まぁいいじゃない。今回は関係無いわ。其れよりも異変の主犯が気掛かりなのよね」
「そうですか……」
「龍、連れて来たよー」
秋晶は龍毬の手を引いて縁側へと出てきた。龍毬の足には三国がくっ付いていた。
「龍連れて来たけど……、見て貰った通り三国が離れたがらないのよね……」
「そう。じゃあ秋晶だけで良いわよ」
「分かった。龍、みく、行って来るね!」
秋晶は紫と共に空へと飛んだ。
「それで、如何すれば良いの?詳しい事、聞いてないけど」
「まず、私が通信機を持たせて外の世界に出すわ。通信機ってのは会話出来る道具よ。分かるわよね?」
「うん!」
「其れで私の指示に従って……。あっ、最初に今回の異変について言っておくべきだったわね。今、外の世界に幻想郷の妖怪や妖精が流出している。理由は不明よ。結界が多少緩んでいるけど、其れだけは無いでしょうね。そいつ等の退治、そして幻想郷に転送して欲しいの。転送は通信機で出来るわ」
「高性能な通信機ね……」
「まぁ、霊力を使っているからね。昔、何かの異変で使ったのを思い出したのよ。其れに機能を付け足したのよ」
暫く、飛んでいると紫と藍は止まった。大分、幻想郷の端まで来た。
「二人は外の世界には来ないんだよね……?」
「えぇ、そうね。非常事態が起これば行くかも知れないけど。では、やるわよ。覚悟は良い?」
「うん!勿論!」
秋晶は元気に頷いた。紫は何処からともなく通信機……如何見ても陰陽玉の見た目だが、取り出し、秋晶に手渡した。
秋晶は其れを確認しようとしたが、気が付けば人々の雑多、そして喧騒。そう、懐かしい外の世界だった。
「半年ぶりね……」
小さな路地裏なのか、突き当りの大通りに人が居るのは良く見えるが、此処には誰も居ない。
秋晶は今の内に羽を消した。
「こんな事もあろうかと、あの羽は消せるんだよねー。衣装は派手だけどまぁいいか!」
すると、通信機から声が聞こえてきた。
「着いたみたいね。此処は人が多いけど、今から向かう所は人が少ないから安心してね」
紫の指示に従い道を進んで行った。人前では矢張り飛ぶことは出来ないので、人混みに揉まれ乍ら歩いた。
すると、道に人通りが段々と減ってきた。
そして、遂には人が全く居なくなった。
「もう直ぐ辿り着くわ」
紫がそう言った通り、明らかに場所が現れた。バリケードが厳重にされている。コーンやロープ。そして重機等ありとあらゆる手が打たれている様に見えた。其の奥には地下への入り口が見える。
扉も閉められている。
「地下鉄……?」
「そう。流石ね。この中から入って。妖怪は無数に居るから気を引き締めてね」
秋晶がゆっくりと近付いていると警報が鳴りだした。
「マズイわ。急いで!じゃないと誰か来る」
秋晶は宙に浮かび、扉を破壊した。
素早く中へと入ると早速、十五匹程の妖精が居た。秋晶は広範囲に弾を散らし、一気に蹴散らした。
「確かに、異変が起きているね。転送は如何するの?」
「貴方が倒したら自動的に転送されるわ」
「じゃあ、縦横無尽に暴れても良いんだね!」
「……出来るだけ騒ぎは起こさずお願いね」
秋晶はスピードを出して階段を下って行った。途中で妖精がまた出現したが、軽くあしらった。
地面が平坦になると、長い地下通路を更にハイスピードで進んだ。妖精も沢山居るが、スペルを使いながらも殆どを倒した。
「今の所、妖怪は居ないね。楽勝ー」
「然し、必ず此処にも強力な存在が居るはずよ」
秋晶は改札を超えてホームへと侵入した。其処でも妖精達が弾幕を放ってきたので、華麗に躱しながら敵を倒した。
「線路の上を通って、隣の駅に行って」
「東京方面?」
「えぇ」
線路の上には妖精以外に何もないので、狭い事を除けば進みやすかった。目の前に大きな明かりが見えてきた。それは次の駅だった。ホームに辿り着くと、さっきの駅とは段違いに広く、妖精も五万と居た。
「此処?めっちゃ沢山!大変そうだなぁ~……」
「頑張ってねぇ」
秋晶は宝石の様な弾をばら撒いて一瞬で倒した。然し、何処からともなく次々と妖精が現れた。
レザーを出して一気に横に動かした。殆ど倒す事が出来たが、一人誰かが残っていた。
目を凝らすとそいつは杏だった。
杏は背後に魔法陣を出し、其処から多数の針が秋晶目掛けて飛んで来た。避ける事は出来たが合わせて大きな弾を散らしてきた。また、切り返しも難しく秋晶は弾に当たった。
其れをチャンスと思ったのか、彼女は針を極めて沢山飛ばしてきた。
秋晶は急いで起き上がり飛び上がって避けた。だが、床に落ちていた針が動きだし、今度は杏の方へと飛んで行った。
くるりと一回転し、上手く躱した。
「つ、強い……。でも、反撃よ!愛符「三十路の苦悶」!」
ハート型の弾が秋晶の周りを渦巻き、爆発した。爆風が杏の所まで届き、吹っ飛ばされた。秋晶は細かい弾をいっぱい放ち、杏を撃破した。杏は其の場から消えた。
「よし!苦戦したけど倒せた!紫?他に強い奴は居る?」
「そうねぇ……。霊力探知によるともう今のよりは弱い奴も居なさそうね。黒幕も居ないのかしら……。ちょっと予想外だったわね……。まぁいいわ。今度は地上に出て。其処が終わったら一旦幻想郷に戻るわよ」
「分かったー。よーし!ちゃっちゃと終わらせるぞー!」
秋晶は出口を探して、登って行った。
「わっ!建物高いなぁー!原宿なんて初めて来たー!」
「……此処は新宿よ。記憶は戻ってきているんじゃなかったの?」
「ちょ、ちょっと間違えただけだしー!其れよりも!人多くない?普通に歩いてるよ……?」
「えっ……。確かにそうね……紛れ込んでいるのかしら……。いや、霊力が感じられなくなった……?如何いう事かしら。矢張り此の異変は匂うわね……」
「紫如何するの?」
「取り敢えず、地下に戻って人目の無い所で……わー、え……し……うか……」
「あ、あれ?」
突然、通信機にノイズが入り、聞こえなくなってしまった。
「ちょ、ちょっと!うーん……。ダメだ……、繋がらない……。幻想郷にも戻れなくなっちゃったよ……。はぁ……。取り敢えず、歩いて帰るしかないか……」
秋晶は羽を消してから、人混みへと入って行った。歩き辛いと思いながら、勘を頼りに進む。
然し、秋晶の歩みは不意に止まってしまった。背中に男性がぶつかり、怒鳴られたが全く気にしなっかた。
「何かが居る」
其れだけは鮮明に分かった。
後ろを振り向く。
「居る」
そう確信した瞬間、背後の茶色っぽい壁をした高層ビルの屋上が突然、爆発した。
民衆が混乱に陥る。
秋晶は咄嗟の判断で人々にバリアを張り、遠くへとワープさせた。其の場にはもう秋晶しか残っていなかった。
「誰……?」
秋晶は呟いた。すると、返事なのか背後からこう聞こえてきた。
「驚異的な力と判断力だね。危険だと判断して、あれだけの人数を瞬時に守れるなんて。一体、正体は?」
秋晶は振り返るが、誰も居ない。キョロキョロと見回すが見つからない。気配すら感じられない。
「此処だよ」
声が聞こえると秋晶の前に赤髪で長髪な女性が現れた。
「誰!?目的は何!?」
「敵に塩を送る訳ないじゃないか」
「其れもそうか……。でも、貴方の力は強力だね。何万年も生きているでしょう?」
「さぁ?お前こそ、長生きしているだろう?」
「……」
「黙っているという事は、記憶も戻ってきているんだな?其れとも元々、失っていなかったのかな?」
「何で知っているの……。何時見ていたの?」
其れに彼女は答えなかった。
「貴方、此の世界を破壊するつもり?若しくは支配?」
「まぁ、そんな所。で、お前は私を邪魔している。だから、もう戦うしかないな?」
「やっぱそうなるのか……」
彼女は高密度な交差弾を放ち、激しい戦闘が始まった。