外壊異変 壱~弾幕はパワー
まだ寒さに閉じられた幻想郷。然し、今、春が少しずつ近付いてきている事は決して嘘であない。春告精もそろそろ現れるかもしれない。
「隈ちゃん!持ってきたよ!」
秋晶の大声が静かな森に響き、鳥が空へ羽ばたく。
「此れ!ミニ八卦炉!」
「有難……。で、でも魔理沙の物だって言ってなかったっけ?」
「うん!そうだよ!盗んできた!」
花隈は苦笑いした。
「使ってみて。多分出来るよ!」
秋晶は手に持っていた其れを手渡した。
「此処で使うと危ないなぁ……。龍!隈ちゃんを抱えて空飛んで!」
秋晶は縁側から室内にいる龍毬に呼び掛けた。
「えぇ~……」
「ほら!可愛い後輩達の為に!」
「はいはい、分かったよ……」
龍毬はゆっくりと立ち上がり、玄関から外に出てきた。髪が乱れているので寝起きなのがよく分かる。欠伸をしてから、花隈を後ろから抱いて宙に浮かび上がった。
「重……」
龍毬はそう呟きながらどんどん上へと上がった。
「怖くない?結構高いけど……」
花隈の手に汗が流れているのに気付き、龍毬は心配した。
「全然、だ、大丈夫……。怖くない……」
そうは言ったが恐らく強がりだろう。龍毬の手を強く握った。
龍毬は花隈を安心させる為に足で足を挟んだ。少し態勢はきつくなったが、龍毬は特に気にしなかった。
「秋ー!此処位でいい?」
下から着いてきていた秋晶がいいよーと叫んだ。龍毬が寸刻待っていると、秋晶が話し始めた。
「其の道具は私が調査した限り、魔力を道具の中に込めて其れを特殊な機構で発射するんだけど……。もう既に魔力が込められているから多分隈ちゃんでも使えるよ!」
秋晶は自信満々に言い放ったが、花隈は勿論困惑した。
一体何を如何すれば発射出来るのか、まるで分からない。ボタン的な物も無ければ、何か発動条件があるとも思えない。
「ねぇ。此れ如何したらいいの……?」
「あ!やっぱり説明しないと難しい?えっとねぇ……、口で説明するのって結構難しいなぁ……。何か力を入れて!」
「アバウト……」
花隈はよく分からないまま八卦炉を強く握った。すると、一瞬八卦炉が光ったかと思うと、其処からかの有名な極太なビームが放たれた。
「わっ!わっ!」
花隈は驚き、仰け反った。然し、直ぐ後ろには龍毬の顔があるのでぶつかった。
「痛ッ!」
龍毬は衝撃の儘手を放してしまった。花隈は頭から落ちて行った。
「隈!隈!」
二人は追いかけたが、矢張り、自由落下に対して人間(?)の反射スピードでは無力だった。
もう間もなく地面に激突するかと思われた時、花隈の体が突然宙に止まった。其の場に居た者は全員、目を見開いた。花隈自身も信じられなかった。
二人が近付いた頃には、花隈は全くの無傷で地面に立っていた。顔は困惑を隠しきれていない。
「隈ちゃん!?な、何で!?今、空中で留まってたよね!?」
漸く何が起こったのか理解できたのか、花隈は口を開いた。
「な、なんか……、落ちない様に願ってたら……」
「そんな事出来るん……?」
「うーん……。流石に、八卦炉の影響ではないよね……。という事は隈ちゃんが空を飛べる……ってコト!?」
「えー!?あっ、いや……。と、飛べるのかー……」
「確かめてみてよ!」
秋晶がそう言うので、花隈は小さく頷いた。とは言え、飛び方なんて見当も付かない。ジャンプしてみたが何も起こらなかった。
「隈ちゃん!ぴょんぴょんしてるだけだよ!」
花隈は恥ずかしそうに顔を伏せた。
「ジャンプというよりは、飛び立つ感じで!」
花隈は再び空を向いてジャンプした。
「いや、無理……」
「頑張れ!頑張れ!」
うーん……と唸り乍ら跳んだ。其の時、花隈の体はまた宙に浮いた。然し、慣れていない為か前のめりに倒れてしまった。
花隈がゆっくりと起き上がると、喜ぶ秋晶と龍毬が居た。
「凄い!凄い!隈ちゃんも飛べるよ!若しかしたら弾幕も放てるかもしれないね!」
「もっかい飛んで!」
そう龍毬が言うので、花隈は空を飛んだ。今度は少し高めに飛んだ。それに二人も付いてきた。
「次は弾幕出せるか確かめてみようよ!道具無しでも何か出せるかもしれないよ!」
「出せるかなぁ……」
花隈は何時も皆がしている様に手を前に伸ばして、弾を出そうとした。すると、あっさりと赤い弾が出てきた。
「お……おぉお……」
「まさか弾幕まで出せるとはね!こうなったら能力も決めちゃおうよ!」
「能力……?」
「隈ちゃんは余り知らないよね。幻想郷の住民は大抵、能力を自己申告で決めているの。私は年齢を操る程度の能力。龍は球状のものを操る程度の能力。みくは山を噴火させる程度の能力だよ。隈ちゃんは何が良いかな……?」
「それって自由に決めてい良いんだよね?」
「うん!全然良いよ!嘘を付かない限り何でもおk」
「分かった。考えておく……。でも、そろそろ帰りたいんだよね……。外の世界に」
「えぇぇぇええぇぇ!!!???帰りたいの!?何で!?」
秋晶は馬鹿デカい声で叫んだ。
「五月蠅い!」
「何で帰るの……?」
「幻想郷の空気は合わないから……。外の方が良いなって思った」
「そっかー……。無理に止めたらダメだよね。何時帰るの?」
「まぁ、其の内」
「分かったー……」
秋晶は残念そうにそう言った。龍毬は如何いう意図なのか分からないが、笑みを零した。花隈はそんな二人の様子を気にせず、もう一回弾を出していた。
「コラァーー!!!秋晶ッー!!」
下の方から凄い音圧が届いたかと思うと、大量の星形の弾が飛んで来た。秋晶は軽々と避け、花隈に近付き、守った。
「私のミニ八卦炉奪っただろォォォ!!!!!!」
そう叫んでいるのは魔理沙だった。そう、あの八卦炉の持ち主だ。
「ご、御免!隈ちゃんに使わせたくて……」
「言い訳は無しだ!それで、八卦炉は何処?」
「えーっと……。隈ちゃん!持ってる?」
花隈は何も言わずに龍毬の後ろへと逃げた。
「あぁ……えっと……落とした……?」
「はぁ……!?ふざけんなよ!?」
そう魔理沙が叫ぶと、とんでもない数の弾幕を出してきた。
「何で私ー……!失くしたのは隈ちゃんだよ!」
秋晶の言い訳も虚しく、魔理沙の怒りは収まらず夕方になるまで続いた。
平和だ。
平和だった、此の時は。