誘拐異変 弐~隈ちゃん
ここからが恵愛録の本番ダァァァァ!!!
コツコツと足音だけが鳴り響いている。
無人程恐ろしい物はない。
それに、ほら、其の曲がり角から何かが出てくるかもしれない。
「花隈は大丈夫だった?怖くなかったー?」
花隈は目を逸らして言った。
「いやいや、そんな訳ない!普通に過ごしてたよぉ!?ねえ、それより此の人何!?何がしたいの!?」
三国はさっきから花隈に後ろから抱き着いてる。
「あぁ、え、えっとね…。こやつは性欲おばさんだよ」
「あぁん!?誰がおばさんじゃ!まだ千歳程度じゃ!」
「性欲は否定しないんですね…」
花隈は顔を顰めて言った。
「えっ、ま、まって!?千歳!!??ど、え?何?」
「そうか。花隈からしたら驚きだよね。えぇっとね…。此処は幻想郷って場所で、何というか、妖怪とかが沢山居る所~」
「ふぇえ!?何それ…怖…」
三国は花隈の前に立って叫んだ。
「大丈夫だから!うちが全員ぶっ殺してあげるから」
「いや、貴方、妖怪何でしょ?」
三国は大袈裟に床に倒れ込んだ。何かブツブツ呟いている。秋晶は面倒くさそうに言った。
「拗ねないー。行くよー。そういえば、三国、龍毬が好きだったよね。なのに花隈にくっ付くのって浮気じゃないの?」
すると、三国は瞬時に起き上がり秋晶の頬を挟んで言った。
「いい?龍毬は好きなの♡!でも、花隈は可愛いの♡!そう、可愛い♡!それは大きな違いよ♡!寧ろこんな可愛い子が居て落ち着けると思う?無理でしょ!二度と間違えんな!!あっ、分かった!花隈ばっかりに構ってて羨ましいんでしょ!もおぅ♡素直じゃないんだからぁ~♡!後で、抱いてあげるから今は隈ちゃんのターンね!」
三国は勢い良く花隈に飛び付いたのでよろめいた。
「ちょ、秋晶!助けてー!何か変な事言ってるし!」
然し、秋晶も何か一人で呟いている。
「隈ちゃん…隈ちゃん…三浦花隈…花隈ちゃん…隈ちゃん…隈ちゃん!天才だね!隈ちゃん!」
「ええっと…。何を言ってるの…?」
花隈は次に、辰を見た。辰は苦笑いしていたので、花隈は安心した。
「ねえ、何この地獄絵図?」
「何でしょうね…」
「いいのかな?こんなに騒いでて?」
花隈は笑った。其れに釣られて辰も微笑んだ。
「あぁー!何で良い雰囲気になってんの~!隈ちゃんは誰にも渡さないんだから~♡」
「その隈ちゃんってやつ、やめろよー!」
「いいじゃーん!」
三国は花隈の体を大きく揺すった。花隈はバランスを崩して尻餅を付き、三国が寄り掛かった。一瞬時が止まった。
「隈ちゃん…♡隈ちゃん…♡」
暫くその状態でいると、三国は花隈の腰へと手を伸ばした。
如何すれば良いのか分からず、花隈は手で軽く抵抗するだけだった。
然し、不意に彼女の肩を押して突き飛ばした。突然の事に驚倒し、足がふらつき、後ろの壁に頭を打ち付けた。
花隈は赤面して黙っていた。息も少し荒かった。
「いったー…。酷いよ~」
三国が起き上がろうとすると、凭れていた壁が押戸の様に奥に動いた。手足をバタつかせ、あわあわ言いながら後ろへと倒れた。
「わ!凄い!扉だよ、隠し扉だったんだ!って…。隈ちゃん大丈夫?泣いてない?」
「は?え…?そ、そんな訳な、ない!」
「そっかぁ~。無理しないでね。三国にはこれからも気を付けてね」
秋晶は花隈の手を握って起こしあげた。花隈は小さく有難うと呟いた。其の手は冷たかった。
「じゃあ、辰も行こうか!」
秋晶は手を引いて、扉へと近付いた。
「ほら、三国も!起きて!さっさと行くよ!」
三国はフラフラと起き上がった。
「うぅ…。隈ちゃーん…」
全く何で初対面で、こんなに執着出来るんだろう。龍毬だって見つかっていないし。三国は楽観視し過ぎだ。
秋晶はそう考えながら、扉の内へと入って行った。
中はかなり暗く、先は見えない。部屋の大きさも分からない。
あっ、之は絶対、三国が隈ちゃんにくっ付くな。
そんな予感がし、秋晶は花隈を握っている手とは逆の手で、三国の腕を掴んだ。
「きゃ!な、何?秋?若しかして怖いの~?♡もうしょうがないな~♡」
「違う」
若しかしたら、その事実に気付いていない可能性もあったので、それ以上は言わなかった。辰を一人にして可哀そうではあるが、隈ちゃんを守る為には仕方が無い。
それにしても、暗すぎやしないか。抑々、此の空間は何だろうか。
そんな不安を抱えながら歩いていると、急に目の前が真っ白になった。目の奥が激しく痛む。漸く目が開けられるようになると、眼前には無数に散らされた水色の粒。
一瞬何か分からなかったが、あれは弾だ。弾幕だ。今、何者かによって攻撃されている。
「隈ちゃん!」
秋晶は咄嗟に花隈を抱えてしゃがんだ。自分を後ろ盾にする様な体制で。真後ろで弾が地面に激突する音がする。秋晶は右手で花隈を抱えながら、振り返った。
下の方に敵の姿は見当たらない。ならば上か?素早く視点を動かすが誰も居ない。
怖気付き、後退りすると三国とぶつかった。
「み、三国!大丈夫?辰は?」
「心配しないでー!大丈夫だよ!辰も此処に居るし」
辰は大丈夫ですよと言った。
花隈は呆気に取られているのか、怯えているのか、ずっと黙っている。秋晶は花隈の頭に手を置き、ポンポンした。其の手を花隈は払った。
花隈を守りながら戦闘をしなければならない。なら、二人に敵の相手は任せて自分は弾幕から花隈を守るべきか。
そう思っている内に次の弾が飛んで来た。今度はちゃんとした交差弾で、本格的に戦いが始まった事を意味しているみたいだ。
辰は真っ先に宙を浮き、札を取り出した。敵の姿が見え次第、攻撃するのだろう。
三国は唯、避けるのに専念していた。
でも、何方の行動も今は意味がない。まずは相手の姿を見つけるべきだ。そして、既に検討は付いている。良く観察すると、一部に全く弾が通らない部分がある。弾が其処だけを避けている。
姿は見えないが恐らく其処に何かがいる。
秋晶は弾を十発くらい打ち放った。
予想は当たり、其の場所で弾が消えた。その代わり其処には人の姿が現れた。
見た目は…。ん?言葉に出来ない…。
秋晶はそんな感覚を覚えた。姿は見えているのに、言語化する事が出来ない。
然し、幻想郷にはそんな事をする奴くらい幾らでも居る。なので戸惑うこと無く秋晶は弾を再び放った。
辰は拝符「草薙の盾」を使った。沢山の札が壁となって飛びかかる。三国は「火山は午睡の夢を見る」を放った。秋晶はちょいちょい攻撃しながら、花隈と共に避けた。
「此処に居るとやっぱり危険かな…。よし、隈ちゃんちょっと飛ぶからちゃんと掴まっててね!」
「え?え?」
戸惑う花隈を両手で抱きしめて秋晶は飛び、扉の方へと向かった。後ろから弾が飛んで来たが、全て避け扉へと入って行った。
秋晶はゆっくりと地面に降りた。
「ふぅ…。問題ない?怪我してない?」
「うん。ねぇ、彼奴何?攻撃してきたし、何か見てると変な感覚になるし」
「さあ…。私も良く分かんない…かな」
取り敢えずずっと抱きっぱなしだったので花隈を離した瞬間、目の前にさっきの人が見えた。かと思うと消えた。弾幕を残して。
「危ない!」
秋晶は再び掴もうとしたが、花隈を掴む事は出来なかった。花隈は後ろに下がり弾を避けていた。
困惑したが距離が離れた以上守れないので、避ける事にした。幸い弾は少なく数秒もあれば全部消えた。
「隈ちゃん!凄いね。よく咄嗟に避けられたね!」
花隈はうん…と不明瞭な返事をした。
「御免ね…。私の判断が遅かったから、被弾しなくて良かったけど今度は当たるかもしれないし…」
花隈は何も言わなかった。
人がよく倒れますね。