誘拐異変 壱~もう知らない!
「大体さぁあ!最初に言ってきたのはそっちだろぉ⁉」
「はぁあああああぁ!⁉??龍が我儘言わなければ良かっただけじゃん‼」
「もおういい!」
龍毬はそう言うとドスドスと大きな音を立てて、玄関へと向かった。今迄、黙っていた三国は口を開いた。
「ちょっ、ちょっと!龍ちゃん何処行くの?」
然し、龍毬は返事をせずに出て行き、力強く扉を閉めた。三国は何も言わず、外へ出っていた。
「良いんですか?二人共出て行っちゃいましたけど…」
秋晶は溜息をついて言った。
「うん…。御免ね、辰…。騒いじゃって」
「いいえ、大丈夫ですよ…」
秋晶は机に顔を伏せた。
「もう、今日は寝たらどうですか?冷静さが取り戻せるかもしれません」
「そうだね…。じゃあ、先に寝てるね…」
秋晶は部屋へと戻って行った。
次の日、秋晶は何時もは起きる時間でも、まだ寝床に居た。
うだうだしていると、突然縁側の摺り上げ雪見障子が開かれた。秋晶は重い体を動かして見ると、其処には三国が居た。
「あっ、三国…。御帰りー…。りゅ、龍毬、は…?」
「途中から見失っちゃって…。若しかしたら帰って来てるかもと思ったけど、居ないんだね…」
「そうなんだ…。大丈夫かな…?」
三国は笑顔を作って言った。
「龍毬だし、大丈夫でしょ」
だが、それから数日経っても龍毬が帰って来る事は無かった。
「秋晶さん…。大丈夫ですか…?龍毬くんの事、心配ですよね…?」
秋晶は小さく頷いた。
「ねえ、そういえば、龍毬が妖怪の山の辺りに居たっていう目撃情報があったよ!行ってみようよ!」
三国は相も変わらず元気である。其の声を聴いて秋晶も少し笑顔になった。
「行こうか!」
三人は妖怪の山の麓へと辿り着いた。木枯らしが吹く、山は薄寒い。
「にとりが言うには此の辺で見たらしいよ!」
三人は辺りを見回したが龍毬の姿は勿論見当たらなかった。唯、草が揺れる音が鳴り響くだけだった。
三国が大きな声で名前を呼んだ。其れに続けて二人も叫んだ。が、何も起こらなかった。
更に風が強くなり、草は騒めき始めた。
「本当に居るのかな~…?」
秋晶が呟いた。
「もう、何処かに行ってしまったかもしれませんね」
不安になりながらも探したが、結局見つかりそうにはない。気付けばお昼になっていたので、三人は岩に腰掛けて持ってきたおにぎりを頬張った。
黙々と食べていると、不意に三国が握っていたおにぎりが手から落ちた。
「あっ!おにぎり!」
三国は反射的に追いかけた。もし、拾っても食えないと思うが。二人も三国を追いかけた。
暫く走っていると、目の前に大きな穴があった。そして、お決まりの展開の様におにぎりは落ちて行った。
「あ゛あ゛あ゛゛あ゛゛あああ゛あああ゛あああ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!!私のおにぎりがあああ゛あ゛あ゛!!!」
三国が叫んだ。少し遅れて二人が息を切らしてやって来た。
「あぁ…。おにぎり落ちちゃったのか…。って、何此のバチクソデカい穴。こんなのあったっけ…?間欠泉センター…ではないよね」
秋晶がそう言った事により、二人も可笑しい事に気が付いた。
「何これ…。中は暗くて良くみえないなぁ。( ゜д゜)ハッ!若しかして龍毬は此の穴に落ちてしまったのでは…」
「えぇ…。こんな分かりやすい穴に落ちるかなぁ…。飛べるし」
「じゃあ、引き込まれたとか?」
「まあ、行方不明なら可能性が高いかもね…。入ってみる?」
それ位しかする事が残っていないので、三人は入って行った。中はずっと暗く、上から来る光しか無くなった。
ちょっと、怯えながらも進んで行った。すると、段々と明るさが戻って来た。
そして、青い地面が見えてきた。其処に降り立つと、其れは鉄で出来ているよ事に気が付いた。
「やっと着いたね。結構深くまで来たんじゃない?」
周りを見ると、橋の様になっていて下はまだ深い。橋は前方にしか無く、先には扉がある。
「あそこを目指しましょうか」
三人はまた歩き始めた。此の空間は異様に静かで、足跡だけが響いた。誰かが居るかもしれないので、忍び足で歩いた。
然し、誰も現れる事無く、扉へと着いた。扉には小さな取っ手が付いているだけで、他には何もない。取っ手を握り押してみると、いとも簡単に開いた。
中へ入って行くと、また同じような扉が両方の壁に等間隔で並んでいた。
何となく右の一番手前の扉を開けた。
すると、中には誰かが倒れていた。眼鏡を掛けた短い髪の男の子の様だ。右目に掛かる髪が紅のメッシュになっている。服装は如何考えても幻想郷に住んでいそうでは無い。
「何で此の作品のキャラの初登場って矢鱈と倒れてるの…?」
「だ、大丈夫?」
秋晶は迷うことなく彼へと駆け寄った。体には温もりがあったので生きている。
優しく揺すってみても、目を覚まさなかった。秋晶は多少強引に揺らした。すると、徐に眼を開けた。
「三浦!大丈夫⁉って、何でこんな所に?」
秋晶は聞いたが彼は混乱している。
「ん…?」
彼は暫し黙ってから言った。
「あー…。秋晶…。ふぅん…。アキコォォォォォ!!!???生きてたのカァァァァァァァ!!??」
彼は飛び上がり叫んだ。
「うわぁぁぁ。花隈、五月蠅い…」
三国と辰は何も分からず黙っているだけだった。
「あっ!二人共キョトンだよね。此方の方は三浦花隈!」
三国は元気に挨拶し、辰は御辞儀した。
「それで、何で花隈は此処に居るの?」
すると、花隈は神妙な面持ちになった。
「さぁ…。数日前から…かな?普通に部屋でゴロゴロしてたんだけど、何だろう…、自分でも何が起きているかは分からないけど多分此処に飛ばされたのかな…?」
「んー…。不思議な事もあるもんだね。まあいいや、とっとと龍毬を探して帰るぞ!」
「おー!!」
花隈は戸惑っているが、三人はお構いなしに騒いだ。