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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒイロロ*ヒノキ
四章.???編

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8.異世界オンライン【章末-前編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


「これ頭っ割れるッ"ッ"!魔力…ッ限界っ…ヤ"バイ"ッ!!」

「お、おい明野!?」


 歓声が止み、首を捻る。

 全員が時を忘れて固まった。

 呆然と静まる空間。今度は沙多の絶叫のみが響いた。


「よ…、た…ろ…ッあれ…っちょうだッ…、飲ませてッ!」

「おい人に見せちゃいけない顔なってんぞッ!?」


 もはや一人で飲めないほどに暴れる沙多。

 涙と汗で顔が酷いことこの上ない。

 必死に押さえつける陽太郎は、無理矢理にでも魔力回復薬(マジックポーション)を口に注ぎ込む。


「ぁ…ふぁ…っ……ガチで死ぬかと思ったッ…。これどんだけエグいの…」


 頭から手が離され、容態は安定。

 と同時に、これを平然と撃つガブル・エルシオンの存在が脳裏をチラつく。

 「あん時って実はヤバかった…?」と、かつてのレアエネミーの対峙に、沙多は戦慄した。

 

「――クハハハハッ、見事なりッ!妹君よッ!!」


 ザンッと踏み抜かれた大地。豪快に鳴らした悪魔。

 同じく彼も強者を重ね、高笑いにて大気を揺るがした。

 その姿には傷一つ無い。

 というより、そもそも攻撃対象にベアルは選ばれていない。狙う理由が沙多には無かった。

 

「あっ…」


 しかし外野には露知らずな事情。

 両軍は、思い出したかのように息を呑む。伸ばした手と視線は、再び少女へと注がれる。

 対して沙多は、ポツリと呼吸を漏らすだけ。

 そんな中、陽太郎は沙多よりも前に立つ。


「あいつは…敵…か?――ッ?明野…!?」


 面識があるらしいとは言え、警鐘は鳴る。

 本来なら逃げ出したいくらい。


 陽太郎がそんな感情に呑まれる一方、沙多は剣を収納し、ゆっくりと前へ歩き出した。

 足取りは小さく、ゆっくりと。

 だが一歩一歩進むごとに早く、軽やかに。

 やがて駆け足となる頃には――


「ベルぅ〜〜ッッ!!会いたかったぁ〜ッ!」

「やはりウヌこそが渦中であったかッ」


 全開の笑みを咲かせた。

 嬉々と声を上げ、悪魔に抱きつく。

 全身を預けたダイブだった。


「ヤバかったんですけどっ!ガチで死ぬかと思ったッ!!てかどやってここまで来たん!?魔鉱晶ってやつ!?」


 悪魔は彼女を振り払わず、ただ高笑いを繰り出す。

 周囲は唖然と、奇異の目を寄せた。

 

「ウヌに介した魔力を手繰り、次元を跨いだのみよ。魔鉱晶(アレ)に願うまでもない」

「ガチで!?要らんのッ?やばっ、じゃあ帰ろっ今すぐ!」


 しかし沙多は人目構わず、溜まりに溜まった鬱憤を解放。

 まるで旧知の仲。二人の間に壁は無い。

 急かすように背中を押し、跡地に背を向ける。  


「…えっと…本当に相棒(パートナー)…?」


 人間も亜人も、誰も口を開けない中、意を決して慎重に尋ねる陽太郎。

 顔だけ振り返る沙多は、平然と応答する。

 

「だから言ったしょ、一緒にゲームで人探してんの」

「…『ルシフェル・オンライン』でか?…その探してるのって――」


 目線の先には悪魔ことベアル。

 確かに外傷を加えてはこないが、冷や汗は依然止まらない。 


「――アタシはお姉ちゃんで、ベルは『ル・シファル』って人。なんかゲームを作った人らしいよ?」


 だが、緊張とは違う汗が一気に流れた。

 呼吸が止まり、彼の心臓がドクンと跳ねる。


「なっ…それって…」


 体温が急激に上昇。

 酷い興奮状態。それを自覚してもなお、思考は巡って止まらない。


「よーたろー!!どしたん〜!?」


 その間、二人は大穴の入り口にまで歩を進めていた。

 時間にして僅か三十秒程度。

 全くもって行動が早い。


「"大穴"の奥にワープしてきた魔法陣あんだって〜!先いってるよ〜!?」

「…っ、あ、ああっ!」


 大声で知らされた魔法陣という言葉。

 これにようやく思考の海から引き上がる。

 

「――■◆■…?◆◆■■◆■■ッ…!?」


 しかし、向かう足がピタリと止まる。


「…あれ?こいつらは…良いのか…?」


 振り向かせたのは、後方からの狼狽。

 陽太郎の表情が疑念に固まった。


……

 『人外』を一挙に倒す、まさしく英雄の再来だ。

 加えて、それ以上の衝撃である『ベアル・ゼブル』の出現。


 結果から言えば、一人の少女と大穴へ消えていった。

 確かに被害は軽微。死傷者も極僅か。


――とはいえ"次"の保証は無い。

 数年間の"失踪状態"は取り消され、今この瞬間、厄災が復活。

 早急に対策が必要だ。誰もが賽を投げるような『暴君』への抑止力が。


 そして過去に一人、『暴君』と張り渡った人物――その"英雄"を体現した少女が、この戦場に現れてしまった。

 まさしく僥倖、これに縋らない者は居ない。

 人間も亜人も、一様に少女へ救いを求めたが――


――彼女は裏切るかの如く、『暴君』と行動を共にした。

……


 陽太郎は大穴に背を向け、広がる大衆を見据える。

 普通ならば異を唱える。

 ベアルの復活を嘆いたり、沙多の動向を非難したり。


(――なのに、どうしてこんな落ち着いていられる?) 


 だが動揺は一握り。

 これほどの人数、もっと大きな声が上がってもおかしくはない。

 戦場の跡地は、異常なほど静かだった。


「まるで魂でも抜かれたみたいな――」


 やがて陽太郎は、一人の影を捉えた。


***


 頭を垂れて、全員が道を開けている。

 血生臭いはずのここに、レッドカーペットが敷かれたみたいな…ランウェイを錯覚した。

 なんだ?俺の目は正常か?

 一人、そこを歩いてる。何かを持ってる……大名行列?いや、違うだろ。


 やけに超がつくほど、いや、そんな言葉じゃ足りない美人。

 輪郭からして亜人の――待て、俺はそいつを知っている?


「――《退け。其方らの牙は抜かれた》」


 響いた声、綺麗。

 鈴が凛とするような…覚えがある、覚えしかない。


 ずっとフードを被って朧げにしか分からなかった全貌。

――数日間、一緒に居た姉ちゃんだ。


「《カナン・ミズクメ・レヴァンテイン…》」


 誰かの声。それは俺の知らない名前、読んだ本で知見にあった名前。

 誰もこれを否定しない。

 いつもなら驚く。けど今はそんな余裕すらない。

 いざ目にすれば、動けない。足が竦むくらいに艶やかだ。


「《――()の御前である。妾に従え》」


 手からドサッと落とす荷物。

 衝撃で布が捲られる。

 そこには人の生首が包まれていた。


 亜人の虚ろな目、鼻と口から血が零れる、本来グロテスクな頭部。

 けど気にもならない。これすら些細な小石程度に思えてしまった。

 そうさせてしまう姉ちゃんの存在感にゾッとした。


「「《…ハイ》」」


 両軍が傀儡みたいに膝を付く。

 疑問や反発が無いはずない。なのに追及も許されず、ゾロゾロと引き上げていく。

 

 まるでゾンビみたいだ、危険すぎる。鳥肌が立って仕方がない。

 頭が惚けながら警告を鳴らす温度差で吐きそう。

 だけどやっぱり手足は麻痺したみたく動かない。


「…さて、其方はどうした」


 おい待て…その状態でこっち来るな。

 …いや、まつ毛()っが!?嘘だろ整いすぎだろ…。

 唇ってこんな艶のあるものだったか…ッ?これ見ちゃダメなやつだッ。

 まるで絵の中から出てきた天女とかそういうレベルの…。


「サタと共に居るのではないのか?」


 やばいッ、動悸が激しい、ほろ甘い。気持ち悪い。

 呼吸はまともに出来てるか?

 【格闘家(ファイター)】の【タフネス(サポートスキル)】って精神異常の抵抗もあんだぞ?なのに動けないってどんだけ――


――パァン、と軽快な音が頭と頬に響いた。


「っふァ!?えっ、はっ…えっ!?」


 …ビンタを食らわされた。

 数秒遅れて理解する。

 気付いた途端、ジンと頬に熱を感じた。

 …ちょっと待って、冷静になるとかなり痛い。


「気を取り戻したか」

「あ、ああ…」


 転がった視線を戻す。

 すると布切れを口元に巻き、ベールのように隠した姉ちゃん。


 …あれだ、これ、ご褒美じゃなくて目覚ましだ。

 顔の半分が隠れて、どうにかまともな思考と会話が出来るようになった。


***


「わぁ、すご…」


 大穴の中へ進む沙多は感嘆を上げた。

 そこは、宇宙に投げ出されたと思えてしまう広大な空間。


 進んで僅かであろうにもかかわらず、既に天井が見えない。

 首を痛いほど見上げても、上にあるのは、もはや岩肌でなく黒い空だ。


「にしても暗すぎん?」


 陽光など届くはずもなく、光源はほぼゼロ。

 小石や段差に躓いた回数は数知れずだ。


「ウヌはこの場に覚えは無いか?」

「えっ特になんも無い。少しチルいってくらい?」

「…フム」


 興味深く散策するも、当然特別な感想は出てこない。

 

「此処は吾ら()()の地よ」


 その言葉に沙多は振り向く。

 おおよそ人の居住に適さない場所で、人と異なる出自を持つ彼。

 今まで姿が似通っていた故に、目を逸らしていた人外という事実。

 それを再確認する。


「どやって生まれたん?」 

「不可測である。吾が吾であるとしたその時から、存在したのみ」


 故に沙多に見解を求めたも、結びつく発見は結局無し。

 

「…お姉ちゃんだったら、何か分かったんかなぁ?」


 それが誰に面影を重ねての疑問だったのかは、察している。

 だからこそ、何の情緒も湧かない彼女は確信する。

 

「さっき、やけに陽太郎もお姉ちゃんのこと聞いてきたし。言ったことも無いのに」


 求められているのは自分じゃない。

 ベアルも最初、"妹君"として沙多を見出した。


「きっとル・シファルって人も、お姉ちゃんが特別だったんじゃない?」


 主君と仰ぐ存在と、沙多の姉。

 二人は別人であれど、と何か共通するものがある。

  

「フム、ウヌの姉君を吾はこの目にしておらぬ。要因でないと否定できぬな」

「ちぇ~っ、アタシは特別じゃない方ですよ~」

 

――深まるばかりの謎。

――遠くに感じた姉の存在。


 どちらの理由かは分からない。不貞腐れて口を尖らせる沙多。


「ウヌもまた特別であろう?」


 これに悪魔は、さも不思議そうに首を傾げた。


異世界はちょろっとやる予定でした。ゲームが舞台じゃないので小話程度に。そしたら三倍くらいに内容が膨らんでた。

一週間滞在ってなんやねん。本来は日帰り旅行の予定だったぞ。

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