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悪魔が捧ぐオンライン  作者: ヒイロロ*ヒノキ
四章.???編

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7.人外スクランブル【後編】

誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。


 それは異形が放つノイズらしき呻き。

 常人が聞けば、威嚇や咆哮としか処理できない叫び。


 だが大穴に眠る力を、似た根源である"天恵"を宿す彼は、触れてしまった。

 誰かの意思が口にしたのは――明野(あけの)の苗字。

 そして、沙多(さた)詩春(しはる)なる二人の名。


――明野が黒幕…?いや、襲われてんぞっ。

――詩春って何、誰だ?沙多はともかく誰の…ッ。

――血縁のプレイヤー!?いや苗字が被ってるだけの可能性は…!?

 

 戦況がどうだの、気にする余裕もなかった。

 瞳孔が開いたまま思考がブン回る。


「やっぱ帰らないッ?アタシらだけじゃ無理すぎっ」

「明野!お前って兄弟とかいるか!?」

「え、何その超限定的な質問っ。死に際だからって紹介せんよ?」


 唾を飛ばす勢いだ。

 沙多のフリーダムな返答すら反応できない。

 しかし偶然にも、心当たりが彼女にあった。 


「いいから答えてくれ、大事なんだ!」

「アタシには――」


 そしてこの瞬間、一つの報告が張り上げられる。



「《――――暴君ッ!!暴君がッッ!!》」


 

 異形が這い出る大穴。最前線で勇敢に戦う誰かが、蒼白に染まる。

 喉に血を滲ませる鬼気迫った決死の通達。

 絶叫は戦場を潜り抜け、広域へ確かに伝わった。


 それは人間と亜人、両者にとって絶望に等しい忌み名。

 理解できぬ者はこの世界に居ない。

 導かれるまま、誰もが大陥没へ目を向ける。


――すると、"それ"は確かに存在した。


 二メートルを優に超える鋼鉄の肉体、豪傑としか言い表せない巨躯。

 地獄の業火を彷彿とさせる紋様。

 迸る灰赤の皮膚はまさに悪鬼。


「《ベアル・ゼブルが出たぞォォォッッ!!》」


 獅子のたてがみが如き山吹色の頭髪。

 本人の荒々しさとは裏腹に、深緑へとグラデーションする神秘的な毛先。

 これを七又それぞれに束ねるのは、圧倒的な魔力を有した水晶。


――そんな"暴君ベアル・ゼブル"は不敵な笑みを浮かべていた。


 数百の異形の背後から悪魔は一歩、また一歩と進出。

 悠然に肩で空気を切る。

 まるで大群を従えた人外の将さながらだ。


 誰もが悟る。間違いなく張本人だと。

 例え時代が違い、目にしたことが無くとも、知識すら無くとも本能で思い知る。


 これに帝国と連邦の両者は、精神が限界を超えた。


「《――ッゥアア"ア"アッ"ッ!!》」


 敵味方かかわらず、構えての突撃だった。

 もはや恐怖に狂ったのか、勇武の行動なのかも不明。

 特に前者は自国の英雄が怨敵。

 声にならない叫びのまま、剣を突き出す。


「吾と対峙するかっ面白い!」


 しかし向かってくるならば、摘み取る。

 悪魔にとって命は平等だ。


 人外を蹴り飛ばすついで戦士の胴も射抜き、戦士の頭を掴んでは人外へ投擲。

 ドシャリと鈍い音があちこちで響く。

 異形も人も無関係。見境なく威を振るう様は、まさに暴君の名が相応しかった。


「…これ、不可能じゃねえか…?」


 遠くからポツリと零す陽太郎。


 現世に帰る為には、大穴へ向かう必要がある。

――しかし、そこに立ちはだかるベアル・ゼブル。


 もはや瓦解した戦況だった。

 異形の存在だけならば、なんとか抵抗はできた。

 だが悪魔の降臨により、人々の活路は閉ざされる。


……

 "生存者なし。遺体は全て行方不明"

 "討ち果たした勢力は存在しない"

 "人知の及ばない災害"

……


 本で垣間見た言葉が、脳裏を駆け巡る。

 

 もはや人手だの、探索部隊だの問題ではない。

 言うなれば、降って湧いた無理難題のムリゲー。

 いっそもう非現実感すらあった。


「俺ら…もう帰れなくね…?」 


 だが、両の脚で立っているだけでも褒めるべきだ。

 他者は既に心を折られ、膝を突きかけている。

 全ての人に、等しく絶望を映していた。


「――ベル?」


***


――ただ一人を除いて。


「やっぱベルだっ、間違いじゃない」

「何…言ってんだ…!?」

「だからアタシの相棒(パートナー)だって」


 沙多は歩き出す。敵が大量に巣食うとも構わずに大穴へ。

 思わず瞠目し、その腕を掴む陽太郎。


「本気かッ?あれは厄災の…っ、恐らく本人――」

本気(マジ)だよ、ベルはベルだもん」

「それに見えねえのか人外の数ッ」


 とはいえ何百の異形、亜人と人間の両軍すらも入り乱れる。

 そこへ無防備に突っ込むなど、一種の狂気だ。


「ん〜じゃ、魔力回復薬(マジックポーション)持ってる?なるたけ出してくれない?」


 しかし沙多の目には信頼する相棒が、ベアルが映っている。

 その事実を胸に一つ、謎のカツアゲを試みた。


「お、おう…?一応あるけど」

「マジ神。アタシ切らしてんよ、ちょーだい」


 この異世界には無い貴重な資源。

 数少ない高級品を四つ、彼はインベントリから取り寄せる。

 沙多はそれを左手に所持し、右手には――()を召喚した。


「てか、なんだ…その剣…っ?」


 【占星術士】にはチグハグの武器に彼は面食らう。

 しかし見慣れないはずのそれには、どこか覚えがあった。

 古くはない、むしろ目新しさを感じる既視感。


「ガブルって人の剣。ゲームで拾ったの」

「ガブル…ッ?…しかもゲーム!?」


 つい先日、目にした巨像と記憶が重なった。

 ガブル・エルシオン。帝国の英雄と呼ばれ、崇められた石像。

 それが手にする剣と全く同じ形。


「なんでそれが…ゲームにあったんだ…」

 

 狼狽の中で陽太郎が呟くも、沙多は止まらない。

 刀身から白百合が咲き始める。

  

 そして、一つの博打へ踏み出した。


()()()さ、前に試そうとしたら無理だったの。魔力全然足らんくて」


 彼女の力を莫大に喰らうチャージ。

 ガンガン減っていく魔力量とは裏腹、溢れんばかりに咲き乱れる白百合は散り、また絶え間なく咲き続ける。

 やがて地へ落ちた花弁は瞬時に芽吹き、白百合へと姿を変える。


 かつてのレアエネミーは荘厳な花畑へと、一瞬で領域を変えてみせた。

 しかし沙多の場合は、魔力の関係か非常に緩慢。


 ここで一つ魔力回復薬(マジックポーション)のコルク栓をキュポンと外し、口付ける。


(ま、もし失敗してもベルがいるし、大丈夫でしょきっと)

 

 徐々に優しい音色が花々から漏れる。まるで輪唱をするかの如く。

 そして百花繚乱の絶景が広がる頃、耳朶を打つほどにまで成長を遂げた。

 鳴り響く音はもはや破壊的。

 世界の終焉を告げるラッパさながら。


……

「《……っ、この音はっ…》」


――誰かは拾った、英雄の旋律を。


 思わず零した声。

 それは膝をついた両軍にも伝播、次々と沈んだ面持ちは上を向く。

 

 ベアル・ゼブルを知らずとも絶望を悟ったように、例えその英雄を知らずとも、希望は広がる。

 知識に無くとも、亜人であろうとも、音色に導かれた。


――そして、彼らが辿る先には、明野 沙多がいた。


 その手に持つ『白百合の華剣』は、横薙ぎを繰り出すかの如く水平。

 あのレアエネミーと、"英雄ガブル・エルシオン"と全く同じ構えだった。

… 

……


「使えるのか?」

「スキルの話ならだいじょぶっ」


 陽太郎が問うのは武器に備わる固有スキル。かつてベアルも呼んだ奥義。

 使用条件は、使い手が十分な技量にあること。


 例を挙げれば、銃を用いた固有スキルの"マギア・バースト"。

 これは【銃術】をセットすることにより条件を満たしていた。


 そして『白百合の華剣』ならば――


――"…お前、その武器どこで拾いやがった。固有スキル持ちだろ"


 沙多は既にこれをクリアしていた。

 宗仁(シュウト)に指摘された一件から――


――"にしても、インベントリとかスキル使えるん謎すぎ"


 ヒテンジと共にした初日の一泊。

 不機嫌になりながらも、手帳にスキルを書き込んだあの日。


――既に切り札は、"銃"から変更されている。


 沙多は二つ目の魔力回復薬(マジックポーション)を使用。

 空き瓶がカランと地面に転がる。

 それはチャージ完了の合図。

 たった今補給された魔力も喰らわせ――沙多は動いた。


「凄い英雄だってんなら…」


 盛大に響く残花の轟音から、一瞬の静寂。

 同時に、斬撃が振り抜かれる。


「これくらいはできっしょ!」


 花弁の剣の刀身が強大に膨れ上がった一撃。

 広大な地平線を全て埋め尽くした剣筋は、ただ静か。

 

 ザンッと儚く穿つ、真空刃(かまいたち)のような透明の斬撃。

 それは圧倒的な範囲で、敵を全て捉えた。

 人類にその衝撃は走らない。人外にのみ、中枢を正確無比に選び抜く。


――だが消滅までには至らしめない。

 草木一つ揺らさぬ横薙ぎは、これで終わり――

 

「――【返し咲き】」 


 刹那、同じ範囲、同じ場所に追撃が()()()


 時空の(ひず)みに切り裂かれるように、染まる白の閃光。

 遂に足元まで広がった花畑。

 その花弁すら呼応して弾け、大気も揺らせば――


――パンッと瞬く花々の喝采。


***


「すげぇ…」


 それらが鎮まる頃、異形は視界から全て、消滅していた。

 

 守るべき者は一切傷を付けない、超広範囲の二撃必殺。

 動くことも忘れ、呆然と見守る陽太郎。

 沙多は水平に剣を振り抜いたまま固まっている。


 やがて幾多の視線が彼女の元へ注がれる。


「「《――…ッッウオオオオオォォォッッッ!!》」」


 宙へ消える大量の泡沫。

 まるで帝国の英雄が再来。

 威光が目を焼き、彼らの身を震わせた。


 言語は違えど、痛いほど伝わる歓声。

 今度は人の喝采を全身に浴びる沙多。やがて彼女は水平の剣をだらりと下げる。


「…っ」


 数々の注目に穿たれる沙多。しかし剣を下げたまま動かない。

 やがて静止から、フラッと姿勢を崩せば――



「――頭(いった)あ"あ"あ"ア"ァッッ!!」 



 盛大にのた打ち回った。


序章のリメイク、四章の編集、五章の書き留め。

「両方」やらなくっちゃあならないってのが「幹部」のつらいところだな。


両方どころか三つや。特に五章のストックが無くてヤバイ。

定期投稿がこの作品で唯一褒められる所なのに、それサボったらいよいよ終わりだぞ

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