7.人外スクランブル【前編】
誤字脱字はお知らせください。泣いて喜びます。
「おい、なんだこれ!?どうなってる!?」
「分からん、意味不ッ」
陽太郎は正面から立ち塞がった異形――暗闇が形を成した"何か"へ向かってスキルを発動。
「【パイルバンカー】ッ!」
魔力を宿した鉄拳。文字通り、鋼鉄の装甲をも打ち抜く破壊力。
だがその漆黒の異形は、後方へ飛ばされるのみ。
砂煙だけが盛大に舞った。
「マジかッ?タフすぎんだろ!?」
四足歩行でカサカサと跳ねる、人と獣の合成らしき化け物。
続けて同じスキルを二連続で叩き込み、ようやく無力化に成功。泡のように消えていく。
「これ…どうなってんだ…?」
視線を上げれば、遥か前方にある"大穴"。
そこから、黒で塗り潰されたようなの化け物が、数百と這い出ていた。
ただ唸り声をあげるだけの存在や、積極的に害を及ぼす存在。
例を挙げればキリが無い。
「マジ地獄なんですけど…」
帝国と亜人連邦、両者にも見境なく飛び掛かる"何か"。
膠着状態が続く中、突如現れた第三勢力。
築かれた陣営から、狼狽が波となって響く。
遥か遠くからでもその惨状が確認できた。
「てかアタシ狙われてない?なんでっ?」
「分からんッ、一体何したんだよ明野ッ」
「知らんし!!」
――おまけに少しでも近づけば、多くの個体は沙多に関心を示す。
陽太郎が眼前にもかかわらず無視。
背後の彼女が狙われる始末だ。
「…ちょいと囮とかやってくれね?」
「え無理ッ、多分一回でも当たったらアタシ普通に死ぬて!」
「俺だって装備がパーカーだけは厳しいから!」
沙多の職種は【占星術士】。
【格闘家】のように、攻撃を受け止められる補佐スキルは無い。
とはいえ彼も上裸。防御力が心許ないと抗議する。
「というかコイツら、さっきから…」
「そのパーカーあげるから頑張ってよッ、いい匂いなんでしょ!?」
「分かった止めろッ、俺が壁になるから変質者みたいに言うのやめてくれッ!」
無論、チームワークすらガタガタだ。
敵が迫っているのに、小言の応酬は止まらなかった。
***
「ヌゥ?――クハハハハッ」
暗闇が消え去り、転移を終えたベアルは周囲を確認。
異常に光の少ない空間だった。
彼にとっては覚えのある景色に高笑う。
「ここは吾の存在した世界かッ!!」
蓋されたように暗く、空は見えない。
周囲は黒い土や岩肌のみ。
明るい植物も自生せず、大量かつ巨大な鉱石が仄かに光を放つのみ。人の気すら無い。
――そこはまさに、"大穴"と呼ばれる地底。
「やはり主君の気配は無い。未だこの世には舞い戻っておらぬか」
不在を悟りながら地を踏みしめる。
と同時に、岩陰から黒い何かが這い出た。
――されどベアルは気にも留めず、日常茶飯事であるように無視。
影で造られたような異形も、そのまま徘徊する。
人型に近しいもの、獣のようなもの、姿形は種々雑多。
ひたすら壁を這い回ったり、二足歩行を試そうと転んだり、微動だにせず頭部だけ動かしたり。
一様に不気味。意思もあるのか定かですらない。
だが内の一体が、確かな攻撃意思を向ける。
六本の足を使って駆け、闇から模した刃を突き立てた。
(フム…ル・シファル様の存在も無しに、"人外"が活性化しておる)
――とはいえ今の彼は魔力を充分に蓄えた状態。
扉をノックするが如く軽い動作、だがドンッと鈍い衝撃が鳴った。
拳が捉えた敵の中枢。
『人外』なる種は崩れ落ち、泡沫のように消えていく。
ベアルはかすり傷すら無しに粉砕。"人外"を俯瞰する余裕すらあった。
(ならば同等の存在とは……)
その抱いた違和感は、すぐさま結論に達した。
「――妹君」
口角を吊り上げる。
納得した理由は、彼しか知り得ない何かだ。
「久方ぶりに肩を慣らすとしようッ!」
やがて闘志に火がつけば、次々と暗闇の住民を屠り始める。
食い散らすように踏み潰し、あざ笑うように叩き潰す。
最初は歯向かう存在も多かった。
だが五百余りを撃破すれば、恐れをなし遠ざかる人外。
それでも止まらず狩り続ければ、ベアルが辿り着いたのは大穴の出口。
無論、逃げ惑う人外はさらにその先――外界へ進出済み。
――言うまでもなく、大量の人外が湧いて出た元凶だった。
***
「ほら来たぞっ正面三体!」
陽太郎が人型の暗闇を突き飛ばし、背後から沙多が追撃。
残る二体は後衛へ飛び掛かり――
「【チャリオット】ッ」
凶刃が沙汰を貫く前に、硬化した肉体の突進をぶちかます。
肉弾戦車さながら、合成獣もどきを飛ばした。
しかし片割れが牙を突き立てる。
「ッ――近接特化の職舐めんなッ…!」
それでも筋肉を強張らせ、異形を無理矢理に固定。
【格闘家】でなければ、そのまま千切られていた荒技だ。
「今だ明野!このまま敵を狙――」
だが途端に、息を詰まらせる。
異世界へ訪れてから彼は基本一人での行動。
つまり、チームプレイは『ルシフェル・オンライン』ぶり。
(しまったッ…"ゲーム"の感覚じゃ明野が動けねえだろ…!)
時が停滞し、噛まれた肩も血をドクドクと零し続けた。
ゲームならばいい。
『誤射』の痛みは激甚だが、死ぬだけ。
だがここは異世界。迂闊と奥歯に力が入る。
……
…
――仮に現実で凶悪犯が居たとして、その隣に人質がいれば、銃で迷わず打ち抜く者はどれほどか?
腕に自信があったとてプレッシャーは計り知れない。
もし誤って人質に弾が当たってしまえば、文字通りの殺人だ。
そして、これを委ねられるのは、一人の女子高生。
見て見ぬフリも許されない。
敵に食らいつかれたままの状況。放置など、見捨てるも同義。
問答無用の決断を迫られる。
…
……
(んな責任ッ、ただの女子に背負わせるわけに――
「――【フレア】」
「□■◇■□◆ッ!?」
「頼もしいと同時に怖いっ!」
しかし葛藤は吹き飛ばされた。
一瞬の淀みも無い狙撃。
目と鼻の先で消し飛び、「パンッ」と間近で打った耳朶。
何なら『俺ごと狙え』と言い終わる前に実行された。
「肩、痛くない?」
「…明野って……前世が魔王だったりする?」
「何言ってんの?」
腰を抜かす陽太郎を引っ張り起こす沙多。
――とはいえ事態は深刻だ。
戦線から漏れた『はぐれ個体』と戦闘を続け、ようやく倒せるペース。
体と精神の摩耗が尋常ではない。
沙多は味方殺し、陽太郎は壁役という死のリスクが付き纏う。
「にしても、こいつら…『人外』だろ…?」
彼に至っては傷も少なくない。
ゲームでないと、生存本能が呼吸を浅くさせていた。
「何で動いてんだ…?未知数とはいえ、活動停止って本にあったぞ…?」
「陽太郎、前ッ、前!」
再び襲いかかる人外に、忙しなく思考すらも中断。
瞬時に流し受けから発勁。カウンターを喰らわせ、間合いを取った回数は数知れず。
「それに何で…声が聞こえる?」
そんな災禍の最中、呆然と立ち尽くす陽太郎。
少し前まで前方には帝国と連邦、二つの陣営があった。
だが既に異形の軍勢に呑まれている。
もはや避難を優先すべきだ。
現世に帰るだの、魔鉱晶だのと言った問題ではない。
「違う、人外自身じゃないっ…。介入した誰かの言葉を、オウムみたくそのまま叫んでるのか…?」
なのに二人は、未だ戦線から離れていない。
沙多が誰かの存在を感じ、駆け出したという一因もある。
陽太郎が見て見ぬフリを出来なかったという一因もある。
だが最大の理由は――
「――どうして人外、明野を知ってる?」
彼が耳にした名前にある。
陽太郎「明野が俺とゼロ距離の人外を撃ったじゃん?」
沙多 「撃ったね」
陽太郎「そん時に耳元で『明野ォォ~~』って叫ばれて怖かった」
沙多 「未練タラタラの元カレみたいで草」




